林浩治「在日朝鮮人作家列伝」07 李恢成(りかいせい/イ・フェソン)(その13)
↑ 「朝日ジャーナル」1980年10月3日
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李 恢成──日本文学に斬り込んだ在日朝鮮人作家のスター(その13)
13.韓国民主化と激動の世界
韓国では1987年6月、民主化を要求するデモなど民主化運動が起こり、6月29日「民主化宣言」が発表された。
全斗煥は政権を盧泰愚に移譲し寺に籠もったが、1995年12月3日に拘束されて翌96年8月26日、第一審で死刑判決を受けた。
後に特赦され2021年11月自宅で死去した。
世界は激動の時代だった。李恢成は在日朝鮮人作家の肩書きで東奔西走した。
1987年、朝鮮の革命家を追った『アリランの歌』の著者であるニム・ウェールズをアメリカコネティカット州に訪ねて取材、91年水野直樹とともに『「アリランの歌」覚え書き』を編集し岩波書店から刊行した。この本は金泳三政権が誕生した1993年に韓国でも翻訳出版された。
1988年6月、シンポジウム日独文学者の出会いに野間宏、大庭みな子らと参加。
8月23日、7年ぶりにサハリンを訪問し、ペレストロイカによる政治改革が始まっている故郷の実態を感じる。
1989年カザフスタンなど中央アジア諸国を訪問した。この年ベルリンの壁崩壊。
1991年、東京で「韓国・在日文化芸術人フォーラム」開催基調報告を任される。
1996年、『死者と生者の市』を文藝春秋から刊行した。同年、韓国を訪問してハン民族文人大会に参加。
そして、1998年には金大中政権が発足すると、翰林大学の国際シンポジウムに参加するため渡韓した。これを機会に韓国国籍を取得した。
金大中政権の発足によって大韓民国は民主化したと、韓国籍取得の正当を主張した李恢成に対し、朝鮮籍を「北でも南でもない『準統一国籍』」と考える作家金石範が批判し論争を繰り広げた。
李恢成は、一連の国際集会や文学者会議に「在日」として参加し、環境問題や核問題を考え、小田実、野間宏、大江健三郎、堀田善衞、さらには晩年の有吉佐和子ら日本人作家たちと交流するとともに、韓国やアメリカへも度々渡航した。
このかん1994年に発表された『百年の旅人たち』が第47回野間文芸賞を受賞した。
2000年から、雑誌『群像』に自伝的長篇「地上生活者」の連載を始めた。
『地上生活者』はその後単行本化され、2020年に第6巻まで発行されている。
(了)
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◆参考文献
◆著者プロフィール
林浩治(はやし・こうじ)
文芸評論家。1956年埼玉県生まれ。元新日本文学会会員。
最新の著書『在日朝鮮人文学 反定立の文学を越えて』(新幹社、2019年11月刊)が、図書新聞などメディアでとりあげられ好評を博す。
ほかに『在日朝鮮人日本語文学論』(1991年、新幹社)、『戦後非日文学論』(1997年、同)、『まにまに』(2001年、新日本文学会出版部)
そのほか、論文多数。
鄭承博とも交友があった。
2011年より続けている「愚銀のブログ」http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/は宝の蔵!
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