見出し画像

寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第3回 ブルガリア篇(10)

← ブルガリア篇(9)「この人を中央駅で降ろしてあげて」
と優しいメモ へ戻る
← ブルガリア篇(0)旅のはじまり(著者プロフィールあり)

ブルガリア篇(10)ソフィアのレストラン

最後の夜はブルガリア料理でひとり打ち上げ

 陽のあるうちにソフィアに戻りたかったのは、明日の帰国を前にもう少し街を歩きたかったから。
最後の宿はおなじみのヨーロピアンユニオン駅、カリナのアパートと逆方向に歩いてすぐのビジネスホテル。思い残しなく街を歩いたら、ブルガリア料理で旅のひとり打ち上げをしよう、と考えていた。

 宿の女性スタッフにレストランを尋ねるとPot Lipite(菩提樹の下)という名のオーガニック食材を使ったブルガリア料理店を教えてくれる。
ここから歩いて20分ほど、老舗だけど値段は手頃で女性ひとりでも大丈夫。私も時々行くよ、気に入ると思う、と。
もちろん異論なく2時間後に予約してもらってひと安心し、地下鉄でこれまたすっかりなじみのセルディカ駅へ。

中心オブ中心であるオスヴオボディテル大通り沿いに国立民族学博物館、先日見たアレクサンダル・ネフスキー寺院の “子分” 的存在、聖ニコライ・ロシア教会、市民広場などを急ぎ足で見て回る。
 どこを歩いてもバラ、バイカウツギ、菩提樹、足元に咲いたデイジーなどの白い花があふれている。
たそがれの街角に水彩画のように浮かぶ白い花々。この先、ソフィアといえばヨーグルト、と同時に白い花々に彩られた街並みと風に混じる花々のほのかな香りを思い出すだろう。

5つの金色ドームとエメラルドグリーンの尖塔が美しい聖ニコライ・ロシア教会
あちらこちらに菩提樹の白い花咲く街角
重そうな人を背負った人の像が印象的だった市民広場。デイジーの白い花が満開


作家や芸術家の溜まり場だったレストラン

 Pot Lipiteまでの道のりは、宿の女性の説明ほど簡単じゃなかったけれど、いったんヨーロピアンユニオン駅に戻り、そこから歩いて20分、予約の7時にはぶじにたどりついた。方向感覚や地図読みにはひそかな自信がある。この時も、難なくたどりつけた自分をこっそり自画自賛した。
この油断(?)が2時間後、この旅最大の危機をもたらすことになるのだけれど。

 築100年近い店は当時の設備や家具類が大切に使われていることが一見して見てとれ、ホテルの女性が自信満々で推薦したのにふさわしいクオリティだった。
 すばらしい雰囲気ですね、とテーブル係の人に言うと、昔から常連の作家や芸術家が集まる店で、テーブルを仕事机にしていた著名人も多いとのこと。
それを聞いてハッとする。小説『消えたドロテア』の語り手わたし(アントニー)が仲間との食事やトランプを夜な夜な楽しんでいたのは、こんな店だったのでは。発表された1976年という時代とも一致する。もしかしたらあの幻想的な作品はここで……、
なーんて想像すると物語の味わいがより深まった。

 テーブル係のおすすめに従い、ブルガリア伝統食であるキュウリのヨーグルトスープ、ドナウ川のマスのグリル、自家製チーズ、自家製ビールを注文する。
自家製、自家製とうるさいけど、生鮮食品も加工品もすべてバルカン山麓の自家農場と加工場で作られたもの。そのおいしさを、店内が暗すぎて私のスマホ写真ではうまく汲み取れなかったのが痛恨……(下の写真)

ドナウ川のマスのグリル

*****


→ ブルガリア篇(11)最終話 夜更けに迷う異国人を車に乗せてくれた夫婦 へつづく
← ブルガリア篇(9)「この人を中央駅で降ろしてあげて」
と優しいメモ へ戻る
← ブルガリア篇(0)旅のはじまり(著者プロフィールあり)

←寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」マガジン top
←寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」総目次

*****

このページの文章・写真の著作権は著者(寺田和代)に、版権は「編集工房けいこう舎」にございます。無断転載はご遠慮くださいませ。
もちろん、リンクやご紹介は大歓迎です!!(けいこう舎編集部)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?