作家のトレヴェニアンことロッド・ウィテカーは、1960年代から80年代の始めにかけて、数年の休みを挟みつつ、大学の教員をしていました。当時の教え子が、ネット上で彼について語っているのをいくつか見つけました。日本語訳で紹介します。
テキサス大学オースティン校
1968年まで大学院にいた人のようです。『シブミ』の作家は、自分のオフィスを日本風にしつらえて学生を驚かしていたらしい。枕に座っていたというのは座布団のことでしょう。女子学生の人気を集めているのは『アイガー・サンクション』の主人公ヘムロック教授そのままという感じです。サーカスというのは別のインタビューで移動遊園地 (traveling carnival) と言っていたものでしょうか。自分の話になるとどこまで本当かわからないことを言うのは毎度のことです。『アイガー』の刊行は1972年ですが、遅くとも1968年には執筆を考えていたこと、スパイ小説を書く目的が金を稼いで南仏へ移住することであったことがわかります。それだけということもないのでしょうが。
ノース・イースト・ロンドン・ポリテクニック
イギリスのジャーナリストで映画や小説も発表しているトム・クレイヴァーという方です。ロンドンのバーキングという地区にあったノース・イースト・ロンドン・ポリテクニックという(今はイースト・ロンドン大学になっている)学校で、創作 (creative writing) の指導を受けたそうです。これはトレヴェニアンがフルブライト助成金でイギリスに滞在していた1973年頃のことでしょう。「ジョナサン・ヘムロック」や「ジェマイマ・ブラウン」という名前がどういう洒落なのかは、残念ながらわかりません。代役を立ててインタビューに応じさせた、というのもいつのことかよくわかりません。
バックネル大学
ウィテカーが1977年から78年にかけて講師をしていたバックネル大学の学生だと思いますが、同じ頃に1学期だけいたペンシルバニア州立大学の学生かもしれない。「無作法で輝かしい」物語というのは、ニコラス・シアー名義で発表した小説『Rude Tales and Glorious』を踏まえた言い回し。
愛されたカリスマ教師
教え子によるトレヴェニアンの思い出話を三つご紹介しました。二つ目はなかなか貴重ではないかと思います。元のサイトが閉鎖されていて、今から Trevanian や Rod Whitaker で検索しても見つからないので。
大学教員としてのトレヴェニアンは、非常に知的で謎めいて面白い人物だったようです。悪評というのは見当たりません。博士号を得てテキサスに来て2年後には教師に飽きたと言ってますが、その後もいたって誠実に仕事をしているように見えます。オフィスを日本風にしたり、クリント・イーストウッドと電話していて遅刻したと言って学生を驚かしたりするのは、演劇出身らしい自己演出だなと思います。
作品と一致する作家と言えそうですが、『サンクション』シリーズや『シブミ』の主人公に比べると、もっと温かみのある人物という印象を受けました。
教え子のによる回想は、探せばまだあると思います。興味深いものが見つかったら、また取り上げようと思います。