夜のベルトコンベア

ひとり夜の道を すべる
酒精とジュニパーベリーの香りが
肺からしずかに湧き出している

ふわふわとした地面は
昼間ほど確かに在ってくれずに
大きく小さく 呼吸するように波打っている
わたしはベルベット製のベルトコンベアに乗って
すべすべと、夜の街の明かりを、
常夜灯の窓の家たちを、流れるように追い越してすべる

わたしの脚はもう無くなって
手も指も髪の毛もどこかに消えて
熱くひりつく喉と、かさつく唇と、
サーチライトみたいな二つの目玉だけの 頼りないお化けになって
すべっていく なめらかに
風がたぶん冷たい もう頰が無いからわからない
軽くなった身体でも このまま飛び立つには もう少しアルコールが必要で
断ち切れない重力に引っ張られて 地面につながれたままでいる
どこまでも不自由なお化けを笑って
歌おうと開いた唇に
乾いた風が吹き込んできた
喉がフルートみたいにボウと鳴った

すこしずつベルトコンベアの速度がおちて
いつのまにかわたしのねぐらの前で 終点だと 頼みもしないのに停まる
あらゆる面白味のないものと 少しだけいとしいものを詰め込んだねぐらに
帰ってきてそれでもなつかしい
酒場から一本道の なめらかなベルトコンベア
1.5kmの旅の終わりがいつもここ

にじんだ唇と乾く喉、サーチライトみたいな二つの目玉
藍色の湿気を吸い込んで、ひんやりする頬、額、べたつく首元、ささくれた指が生えてくる
かたちをすこしずつ整えて
掛け布団まみれのベッドに倒れこむ
わたしはもう
にんげんにもどるために ねむるのだ


だいじに無駄遣いさせていただきます!