見出し画像

800文字のショートストーリー作品一覧


はじめに

こんにちは、山下Topo洋平(@topoyohei)です。
僕が配信プラットフォーム「シラス」で放送しているラジオ番組の1コーナー「800文字のショートストーリー」に投稿された作品をここに載せておきます。

このコーナーではファンタジー、SF、ミステリー、恋愛、ホラー、ジャンル問わず800文字以内の短い物語を募集、コンテスト形式となっており、審査員は東京創元社で数々のSF作品を手掛けてきた編集者である小浜徹也さん
、星雲賞・日本SF大賞・日本推理作家協会賞を受賞したSF作家の菅浩江さん、そしてわたくし山下Topo洋平の3名が務めます。
シーズン2から、最優秀作品には賞金1万円を贈呈します!

ぜひみなさんの作品をお寄せください。投稿はこちらから

このページでは番組で紹介された作品をご紹介します。
放送日に各作品を紹介した回へのリンクを貼ってあります。
朗読も小浜徹也さんが務めてくれておりますので、ぜひそちらも聞いてみてください。

シーズン2

異星のお客

太陽系艦隊から調査のため派遣されたUSSアルカナ号は、目的地のドッポ星に到着した。
先住民が他の星へと去り、長らく無人だったこの星に、突然未知のエイリアンがやってきて、侵略されてしまった。このエイリアンの調査が今回の目的だ。
艦長以下3名の調査班が、転送装置で星に降り立った。
すぐさま、エイリアンの小型宇宙船が飛来し、中から数体のエイリアンが降りてきた。
早速、調査の開始だ。調査を担うのは、アンドロイドの"データム"である。
エイリアンが、いきなり大音量の音を調査班に向け放ってきた。
艦長「な、なんだこの音は?」
データム「艦長、これは彼らのコミュニケーション方法と思われます。現在解析中です。。。解析完了しました。彼らの言語で会話を試みます。」
エイリアン『カッ ドカドン、 カッ ドカドン!』(ようこそ、我々の星へ!)
データム『ドーンカ ドッカ ドン、 ドーンカ ドッカ ドン!』(はじめまして、お会いできて嬉しいです!)
艦長「なんだこれは?ただの音の連続だぞ。」
副長「昔の地球で流行った、音楽のリズムに似ているようですね」
艦長と副長が見守る中、エイリアンとデータムの、音によるコミュニケーションは2時間を超えた。そして、だんだん音のテンポ早くなり、それが最高潮に達したその時、エイリアンが乗ってきた小型宇宙船のハッチが突然パカッと開き、中からドローンのような飛行体が飛んできて、調査隊の前に何かを差し出した。
艦長「な、なんだ?これは....」
副長「おや?昔の地球で使われた、A4の紙みたいですね。」
それは地球の文字が書かれた、太古の書類のようなものだった。彼らも調査隊の言語を分析していたのだろう。
艦長「なんて書いてあるんだ?」
副長「これは....」
そこには、『本日のライブいかがでしたか?感想をお書きください』と書かれていた。彼らのアンケート用紙だった。

投稿者:アラン・チュー(2024.5.20

鏡のなかのでぃすとぴあ

私みたいなコを、鏡はどれだけ眺めてきたんだろう。・・・目の前にうつる自分。まず目立つのは赤いチェックの衣装、AKB風の・・・かもしれないけど、中の人はもっとかわいい!目はくりっとして大きく、少女漫画のようと、よく。ふたえを生かす、たっぷりした眉をかいて。瞳のまわりにラメを散らした。わし鼻はいやだけど。口もとには自然な感じの、薄い紅をさす。さらさらしたセミロングの髪に、桃色のエクステを編み込みで入れて。

不人気でも、いつも忙しくしていると。「でぃすとぴあ」だなと、兄は言った。その言葉を、私は知らなかったんだけど。「つまりはね、夢と現実はちがうということさ」。兄も、うまく説明できなくて。ちっぽけなライブハウスだから、鏡だって、案外、大したものは見ていないのかもしれないね。両手で頬を叩く。熱い光に照らされて。ステージに飛び出していった、わたし。

「ボン、ボン、ボン!」そこへ、勢いよくマイクが投げ出された。リングの弾力で跳ね、倒れている自分のそばに転がって。マイクは投げられた?もうろうとする私に、違和感がはしる。いま私は、「リング」上にいて。気のせいか、以前のステージよりもうすく、ひろい明るさを感じた。ただし、スポットは容赦なく私を捉えて。ステージから去っても、また別の「でぃすとぴあ」に行くのかと兄は言ったけど、つながらない。鏡の前にいた自分を思い出してみると。何かに憑りつかれたように、自分をガン見して。誰かに見せるというよりも、私が私をみてた。この門を叩いてから、しばらくして、自分はもう鏡のなかにいないと感じて。いってもビジュアルは大事なんよ。でも、リングにいる私について、みんなが見たいのは。いわば、素顔。これが、私のあたらしい現実になった。夢と現実はちがう!落ちたマイクを大事にとって、片膝つきながら言ってやった。「投げんじゃねえ!」わ!ケられた!鏡はわれて。生きる、わたしは。

投稿者:alice000(2024.2.26

※投稿者より
音楽を物語にするという前回のコンセプトからは離れ、地下アイドルからプロレスラーになった女子のことを書いてみました。アイドル、プロレスラー、劇団員など、将来に対する展望、保障の少ない「職場」を辿っていく、夢見る人たちは「転職」によって、どのような希望を得るのでしょう?私は、ここで鏡という装置に注目しました。鏡が私たちの意識外で、いろんなものを見ているという発想は、宮台先生などもよく話しています。一方で、私たちは鏡を覗くように、歴史のなかに、よく自分たちと似たもの(状況)を探そうとしてしまうけれど、本当は、まったくちがうもの、理解できない事柄を探すほうが大事なのではないか、鏡から離れたほうがよい、という米国の歴史学者、トーマス・コンラン先生に最近、とある配信で伺った考え方を今回の状況に当てはめてみます。なお、若いコたちが言うらしい「マルハラ」に配慮して、句点を外そうとも思いましたが、私の美意識がそれを拒み、代わりに句読点を個性的に使った文体、風変わりで、不思議なリズムで書けないかなという試みをしています。

スポーツカー

 ベッドの中で何度目かの寝返りを打った後、枕元の時計を見ると3時を少し回ったところだった。年に何回かあるが、こういう夜は突然やってくる。ベッドから抜け出して、部屋の電気をつけると、蛍光灯が一呼吸おいてから室内を照らした。
 着替えを済ませて、携帯と財布と鍵だけを持って家を出る。5月の夜はまだ寒かった。冷え切った車に体を滑り込ませて、エンジンを掛けた。車は軽く唸った後、エンジンが控えめに振動を伝えてくる。古い車でどこが壊れるかわからないから、丁寧に扱わなければならない。暖機を待つ間、手に息を吹きかけながら、車好きだった友人のことを考える。
「スポーツカーの定義を知ってるか?」
その時は適当な返事をした。
「車高が低くて馬力がある車って言うのは素人だ。知ってるやつは、走るために無駄をなくし、自分の手足みたいに操れる車って答えるんだ。」
友人はさらに続ける。
「格好つけて言うと、スポーツカーは乗用車の終わるところから始まり、レーシングカーの始まるところで終わる。」
 車も温まったので、そっと夜道に出た。住宅地の中をゆっくりと進み、信号のある交差点を曲がって国道に出たところから、アクセルを踏み込んでいく。赤信号をすり抜けながら、山道の入り口へハンドルを切った。坂道を登りながら、徐々に頭がクリアになるのを感じ、連続するカーブを慎重かつリズムよく走っていると、自分と車の鼓動が揃い始める。ピッタリと重なった頃に、山道を抜けてしまうのが、いつものパターンだ。
 朝日が昇り始める前に、帰り道につく。家の近くまで戻ってきたところで、友人との会話の続きを思い出す。
「でも、とっておきの言い方があるんだ。」
家の駐車場に車を停めてエンジンを切る前に、友人の言い方を心の中で反芻する。
「夜中に目が覚めた時、無性に乗りたくなる車がスポーツカーなんだ。」
エンジンを止めて車を降り、黄色いナンバープレートを2回軽く叩いてから家に入った。

投稿者:kkubota07(2024.1.29

※投稿者より
シロクマアイスさんの3部作がとてもよかったので、自分も何か書いてみようと思い送らせていただきました。

 雪という名前は父が付けてくれた。雪の日に生まれたからという単純な理由だ。大好きな父だった。ルービックキューブが得意で、私がどんなにグチャグチャにして渡しても、鼻歌を歌いながら魔法のように六面を揃えた。
 突然の病で父が亡くなったのが二年前で、母は葬式の時も案外しっかりしていた。私は母とは仲が良いとは言えなかった。自分の気持ちファーストの母にずっと反発し、醒めた目で母親を見ていた。大学も就職も実家から離れた場所を選び、殆ど帰省もしなかった。
 その母が倒れたと連絡が入り駆け付けたが、意識が戻らないまま亡くなった。あまりにも呆気なく私は一人ぼっちになってしまった。
 幸いリモートでも出来る仕事なので、私はしばらく両親の住んでいた山の上の家で暮らすことにした。海が見渡せる快適な家だ。
 可愛いフグのイラストが描かれたジップ袋が冷凍庫から出てきたので夕飯をてっちりにしたのだが、土鍋の底にカラカラと骨のようなものを見つけた。それは父が母に宛てた手紙のデータで、見つける筈の母は結局フグを解凍すること無く亡くなったのだ。父の切ない気持ちをせめて母に知っていてほしかった。
 母が倒れた駅の待合室に来てみた。丸いストーブの横には古びた本棚があり、ここでよく本を読んでいたらしい。堅い木の椅子に腰かけた時、急に思ったのだ。母はもしかしたら私のためにフグを食べなかったのではないか、と。夫を亡くしたばかりの母親を残してあっさりと都会に帰った娘でも母の事故死に直面すればさすがに自分を責めるだろう。それを危惧して躊躇っていたのではないか、と。
 私の美しすぎる誤解かもしれない。独りよがりのお目出たい勘違いかもしれない。でも今はそう解釈しよう。その方が母も、私の心の中での居心地がいいに決まっている。
 駅から出ると雪が降っていた。ひらひらと雪はコートの袖に止まり、一瞬六角形の結晶を見せて、ゆっくり溶けていった。

投稿者:シロクマ アイス(2023.12.29

※投稿者より
ラジオから自分の書いた文章が流れてくると、また書きたくなって、迂闊にも三つも続けてしまいました。しつこくてスミマセン。適当に名付けた雪ちゃんでしたが、最後に動き出してくれてよかったです。読んでいただいてありがとうございました。

グッド ラック

 君はどこでこれを開いているだろうか。あの陽当たりのいいリビングかな。首尾よく事が運ぶ事を祈りながら書いている。
 人生は儘ならないものだね。まさか五十才で余命半年の宣言を受けるとは。君があんまり嘆き悲しむものだから、僕は君を励ます立場に回るしかなかった。権利があるにも関わらず嘆くことを放棄した。我ながら健気だよな。おまけに残される妻用の毒を用意しろという無茶振り。君の我儘には笑っちゃうよ。
 フグの毒、効かなかったでしょ。じつはカワハギの肝なんだ。このデータを残すため、密閉が出来て温度変化に強い容器を探した。それをカワハギの肝で包んだ。僕が死んだ後、君が冷凍のフグの身と一緒に鍋に入れて解凍すればこれが現れるという仕組みだ。二回も練習したんだから本番も上手くいくだろう。
 こんなふうに胡麻化したのは僕の愛、という訳ではない。君にそんな死に方をしてほしくないだけだ。正々堂々と死んでほしい。例えば僕のようにちゃんと病を得てからだ。だから生きろよ。死ぬまで生きろよ。
 今でも思い出すよ。雪(ゆき)が君のお腹にできた時のことを。僕はあの日、君に始末してくれと言うつもりでいた。結婚していないとか、社会人になったばかりとか、今から思えば本当にくだらない理由で、無かったことにしたかったんだ。でも言えなかった。それは優しさなんかじゃない。ただ度胸がなかったんだ。
 大雪の降った日に生まれたばかりの赤ん坊が細い手足を懸命に動かしているのを見て、僕は泣いたよ。僕が殺そうとした命が、僕の気の弱さのお陰で、人間として生を受けていた。デタラメの多いこの世だけれど、生きる価値はいつだって間違いなくあるのだろう。
 君の眼を盗んで一週間かけてこれを書き上げた。もっと書きたいが、このデータは八百文字しか書けないらしい。だからこの辺で。君が幸せに生きていくことを心から願うよ。がんばれ。さよなら。ありがとう。じゃあな。        

投稿者:シロクマ アイス(2023.12.18放送

※投稿者より
前回「てんごく」を書いた後、どうしても続きを書きたくなってしまいました。800文字ショートストーリーなので、単独で読んでも成り立つように書いたつもりですが難しかったです。

てんごく

 夫が亡くなってから煙草を覚えた。いっとき寂しさがまぎれる。でも吸うのは一日一本だけ。それだけがささやかな決め事だ。
 夫の病気がわかった時には既に手遅れで、二人でさんざん泣いた後、私たちはある計画を立てた。事故死を装った心中だ。多少の時間差は出てしまうが致し方ない。夫を見送り、後始末をしてから私は速やかに消えるつもり。事故死ならば周りも許してくれるだろう。娘もなんとか暮らしているようで、こちらから連絡しなければ何の便りもない。気が楽だ。
 異常気象、戦争、しんどい事が多過ぎるこの世をこの先延々と一人で耐えるのは辛すぎると私は懇願し、彼も理解してくれた。
 まず家を処分して、その金で山の上にポツンと建つ中古の家を買った。バブルの頃の別荘で、古いが金の掛かった瀟洒な造りだ。眼下には大海原が広がり、水平線が見渡せる絶景の中で、毎日海から昇る太陽や月を眺めた。私たちは限られた時間を惜しんで人生を振り返り、いい思い出だけを語り合った。
 魚釣りが趣味の夫は器用な人で、釣った魚をすべて捌いてくれていた。彼は体調の良い時に何匹もフグを釣り、半身を鍋用に冷凍し、残りは見事な薄造りにしてくれた。
「これだけあれば豪勢なフグ鍋が出来るよ。で、これは猛毒の卵巣だ。くれぐれも慎重にな。もし君以外の誰かが間違って食べるなんて事があったら俺はあの世から化けて出るぞ」
 厳重にラップして冷凍庫の一番奥に入れた。
「フグの毒って何年くらい持つのかしら」
「弱くなるかもしれないけど、ゼロになることはないさ。でも急ぐことはない。使わないで済むならそれでいい。君の意思次第だ」
 夫の死からもうすぐ二年。そろそろ、てっちり鍋の時期だろうか。
 新しい煙草の封を切り、火を点けた。今日の貴重な一本を、海を見ながらゆっくり味わう。煙が風に流されていく。明日もまた、グズグズと煙草を吸うような気がする。

投稿者:シロクマ アイス(2023.12.4放送

3人の山下

画家の山下清、ジャズピアニストの山下洋輔、そして山下Topo洋平が、麻雀をしながら雑談していた。4人目はSF編集者の小浜徹也である。

清「ぼ、ぼ、ぼくは、せ、先日の、800字ショートストーリーの選考会を見て、す、すごい事に気が付いたんだな。」
徹也「え、どんなこと?」
清「せ、選考会で、ぜ、絶対に、一位を取る方法があるんだな。」
洋輔「そんな方法あるわけないだろ!ガーッハッハッハッ!」
清「か、簡単なんだな。し、新シーズンの開始直後、い、一気に10作品を書いて、まとめて投稿すればいいんだな。」
徹也「なるほど。選考対象の10作品を、全部自分の作品で埋め尽くしてしまう作戦か。」
洋輔「そんな姑息なやり方、ダメに決まってるだろ!」
Topo「確かにそうすることは可能ですね。気軽に作品どんどん送ってね、と言ってるし。でも、選考会で一位を取ることだけが目標になるのは、このコーナーの本来の趣旨じゃない気がしますけどね...」
洋輔「だいたい『数打ちゃ当たる』の考え方はダメだろ。クリエイティブでないと!ガハハッ」
徹也「小説の懸賞では、『今回は大賞の該当作品無し』になることも、時々ありますよ。」
清「ぼ、ぼ、ぼくは、は、貼り絵を続けてきたのは、そ、それが面白くて、好きだったからなんだな。」
洋輔「それは俺のフリージャズも同じだよ。」
Topo「それが大事ですよね。好きなことで真剣に遊ぶ。賞は単にその結果。」
徹也「まあそんなところかな~。お、ツモ!」
一同「えー!」

こうして麻雀の夜は更けていった。

投稿者:アラン・チュー(2023.11.20放送

※投稿者より
800字シーズン2も、気軽に投稿していきたい。と思って気軽に思いつくまま書いてたら、こんなの書いてしまいました。スマセン。。

タマコとヒデオ

昔々あるところに、タマコとヒデオいう二匹の兄妹犬がおりました。
妹のタマコと兄のヒデオはとっても仲良し。
いつも二人で野原を駆け回って遊んでいました。

ある日のこと、いつものように二人が野原で穴掘りをして遊んでいると、
一匹の綺麗なちょうちょが
ふわりふわり〜
ふわりふわり〜
と、飛んできました。

ちょうちょはモンシロチョウでもモンキチョウでもない、
いろんな色のついた蝶でした。

風に乗って流れてきたちょうちょは、
ひらりと一瞬、タマコの耳を撫でて通り過ぎていきました。

あれれ?見たことのないちょうちょがいるよ。

ちょうちょに気づいたタマコは、後をついていきました。
ヒデオはちょうちょより穴掘りに夢中です。

ちょうちょさん 見たことのない ちょうちょさん
あなたはとっても 綺麗だね。

タマコが追うと、ちょうちょは逃げます。
追いかけっこみたい。
タマコは嬉しくなってきました。

どこからやって きたのかな?
山からやって きたのかな?
空からやって きたのかな?

嬉しくて跳ねながらタマコはどんどんちょうちょを追いかけます。
黄色いたんぽぽを越えて
青いスミレを越えて
茂みを飛び越えた、その時でした。

なんとその先は、
高い高い崖になっていたのです。

驚いたタマコは茂みの草を前足で掴みました。
後ろ足はちゅうぶらりんです。

こわい、こわいこわい!
キャン、キャンキャン!
おにいちゃん、助けて!
キャンキャン、キャン!

タマコは一生懸命吠えました。
草を掴んでいる前足はだんだんとしびれてきます。
後ろ足はちゅうぶらりんのまんまです。
前足の感覚が、なくなりかけたその時……!

わんわんわん!

遠くから全速力で走ってきたヒデオが
タマコの前足を上手にくわえ、ひっぱりあげてくれました!

タマコ、大丈夫?けがはない?
おにいちゃん、ごめんね、ありがとう。
ヒデオは鼻でタマコを優しく撫でてあげました。

こうして二匹は、無事お母さんのところに 帰ることができました。
めでたし、めでたし。

投稿者:('ω')ノ(かおもじ)(2023.11.20放送

※投稿者より
子育てが苦手だった母が唯一寝る前に話してくれていた兄妹犬の創作物語を思い出しながら書きました。毎回妹犬(私)が崖から落ちそうになり、兄犬が助けてくれるという定番ものでしたが、なぜか毎回ハラハラしたり嬉しくなったりするので、話してくれとよくねだっていたのを覚えています。

シーズン1

第1回コンテスト結果発表

去る2024年11月6日、シーズン1の作品の中から大賞を決めるコンテストが行われました。濃密な選考会になりました。どの作品が栄冠に輝いたのか、ぜひご覧ください!

彼方のイルカショー

「昔は本物のイルカでショーをしていたよ。」イルカの話になったので皐が発言するとチャットは止まった。
やってしまった。私の役目はただの取り巻きだった。しばらくすると皐のコメントはなかったことにされクラスの会話は続いた。
2148年、AIとVR授業になっても級友との会話はなくならない。退屈な学校が終わると、そのままポートを開いて皐はVRイルカショーへ向かう。
案内AIが聞いてくる。
「皐さま、本日はいかがいたしましょうか?」
「スタッフルームに入りたいんだけど。」
「かしこまりました。スタッフルームに入るには以下の項目…」
いつものように説明も聞かずチェックをいれドアを開いた。空間全体がゴムのように引き延ばされて奥へ運ばれた。

そこはかつてインターネットと呼ばれた空間だった。物好きのハッカーがあそこにインターネットへのポートを仕込んだのだろう。
2030年代に生成AIによって、スパムとフェイクデータで汚染されたネット空間は文字通りゴミの山となり、今ではスタンドアローンサーバー以外は誰も使わない。
皐はここで不思議なものを見つけた。シラスという動画ファイルだ。
いい大人が酒を飲みながら喋っているだけの動画。意味がわからない。当時の有名人なのか、それにしては花も派手さもない。
この国を代表する哲学者、いまでは「ゴースト」と呼ばれる作曲家、ケーナ奏者もいた。サウスQにあるうどん屋の動画もあり、調べてみると現在は「生タピオカつちや」になっていた。
見ているうちに皐も少しずつ引き込まれていった。配信者の喋りとコメント。
皐は届いたタピオカジュースを飲みながら、100年以上前に行われていたのはリアルだったのかと考えてみた。 答えはわからない。だが、そこに集っている人たちは本当に楽しそうだった。親密な空気が流れていた。それを見ていると自分も楽しい気持ちになれたし、私も自分にとってのあの楽しそうな場所を見つけようと思った。

投稿者:パパイヤつちや(2023.10.23放送

※投稿者より
皐(さつき)文字数制限の関係で一文字の名前にしました。

ロックオン

 お前も驚いただろう。経理のいずみちゃん、営業の鼻山と、付き合ってるんだってな。やられたよー、ショッキングだなあ。あんなにいい子はいないぞ。可愛くて機転もきくし、性格もいい。俺ら営業のマドンナだからなあ。おおお、ビールきた、まずは乾杯するか。今日もお疲れえ。ぶあーうまい。あこのお通し美味しいぞ。お前も食ってみろよ。ええ! いずみちゃんには興味がない? なんでだよお、いつも思うけど、お前どんな子がいいんだ? そのうち教える? なんだもったいぶりやがって、さては狙ってる子いるな。
 そうだそうだ聞いてくれよ、先月なんだけどさ、購買の藤原に誘われて差しで飲んだんだよ。あいつ割といい奴だし話が盛り上がったまでは良かったんだけど。そしたら急に、そろそろ飽きてこないかって言うから、はぁ? て聞き返したら、女もいいけど、そろそろ男にも興味出てこねえかって。そんなもん興味ねえよ、って言ったら、男どうしの方が絶対いいぞ、俺と付き合ってみろよ、いろいろ教えるから、って言いだしやがって、もうびっくりするやら何やら、こいつ今までそういう目で俺を見てたかと思うとゾッとしてきて、絶対やだ、男には興味ねえって、はっきり言ってやったんだ。それでもなんだか気持ち悪くなって、早々に切り上げて逃げてきたよ。
 その後も、俺の退勤時に一緒に帰ろうとしたり、やたらと付きまとわれたんで、総務の立花にも話してみたんだ。そしたら、そういうのは職場における男女のもつれと同じことで、会社としても個人の職場環境を守るために対応すべきだって、それも驚いたけど、その後の話だと、どうもあいつ、配置換えになるかもだぞ。
 え? LGBTに対する理解も必要?
 いやそれは俺も解っているが、そういう話とはちょっと違うぞ。こっちの身にもなってみろよ。要するにだな、嫌な男に追いかけられてる女の気持ちと何ら変わらねえんだよ。
 だいたいだな、LGBTとか言って、やたらもてはやすけど、あくまでマイノリティなんだからな。もちろん理解が必要なのはわかるけど、何でもかんでもそれを中心に考える風潮は良くないぞ。理解することとそれとは全然別だ。
 ん、なんだって? それじゃ俺から藤原に乗り換えようかなって、おいおい、意味分かんねえよお・・・どゆこと?
 え、マジで何言ってんの? え、そうなの? は? へーそうなんだあ、だけど、あっ、いやそういうの俺ムリだから。え、いや、あの・・・まあそういうのもあるよねぇ・・・うーん、なるほど、そうかそうかあ。
 そ、それなら藤原もいいかもだな? そりゃ向こうがお前をどう思うかわかんねえけどもな。え、それとなく聞いてくれ? 俺がか? 俺から話すのはもう無理だって。いや勘弁してくれよ。そんな拝まれても困るよお。それはもう自分で頑張ってみたらどうだ? 俺も応援はするからさあ。えーと、あそうだ、ちょっと思い出した。ごめん、朝一番で取引先のとこ行かなくちゃならないんだった。
 そう、そうなんだよ、この前開拓した得意先のところ。だからさあ、そろそろ帰らねえとな。もっと居たい? いや悪いなあ、もう先帰るから、ここは俺が払っとくよ。いいからいいから、お前はゆっくりしていってくれ。  ああ分かった分かった来週の営業部納涼会の件な。任してくれ、そういうの俺得意だからさ、安心しろ、うまくやるって。なんか慌ただしくてごめんな。そいじゃあ行くから、お前も頑張れよー (了)

投稿者:伊和夫(いわお)(2023.10.2放送

※文字数オーバーのため、コンテスト対象外

マナちゃん

 コンビニの袋をぶら下げて、深夜の道をトボトボ歩いた。今日も疲れた。結局三時間も残業する羽目になってしまい、泣きたい気分なんかとっくに通り越している。
 家の鍵を開けると奥の部屋から「おかえり」と優しいマナちゃんの声がした。
「どうした? 遅かったじゃん」
「それがね、例のバイトがまた盛大なミスをやらかして延々引っ張られた。残業手当も付かないっていうのに。どう思う?」
「ムム、またアイツか。もうこうなったら奴を殺すしかないね」
「殺すって? マナちゃん過激」
「そんなことないよ。ね、どうやって殺そうか。飲みに誘って薬飲ませてやっちまおう」
 勝手に過激なことを言っているくせに、マナちゃんは相当混乱しているらしい。おでこの赤い警告灯が激しく点滅している。
 手を近づけると触れられないくらい熱くなっていた。私は仕方なくマナちゃんのお臍のリセットボタンを割り箸の頭で押した。
 ああ、今度の子は優しい子になるようにとずいぶん気を付けて三ヵ月も育ててきたのに、また失敗か。
マナちゃんを買う時、ショールームの男性は「これからご家族になりますね。一緒に暮らしていると不思議に性格も似てくるんですよ。名前はもうお決めになりましたか」
「愛娘のマナちゃんと呼ぶことにしました」
「おめでとうございます。今日がマナちゃんの誕生日ですね。お母さん、ボタンを押してマナちゃんに命を吹き込んであげてください」
 子供だましの儀式だと思ったが、やっぱり少し嬉しくて厳粛な気持ちにもなった。
 そのショールームの男性の左の薬指には誇らしげにリングが光っていたっけ。彼はAIを売っていても、家族があれば決して自分でロボットなんか買うことはないのだろう。
 九回目のマナちゃんの再生ボタンを押すのが恐ろしくて、私はずっと動けずにいる。

投稿者:シロクマ アイス(2023.8.21放送

ひとりぼっちのSNS

Twitter世間にすっかり嫌気がさした俺は、Twitterをすっぱりやめた。
そして自分専用の小さなSNSサービスをつくり、そこへ移住した。
住人は俺一人。
絶海の孤島に住む、ロビンソン・クルーソの気分だ。
ここは静かで、心地よい。 木の実や魚の、自給自足の生活にも慣れた。
たき火の前で、一晩中好きなことをつらつら考え、独り言をつぶやいても、誰からも文句言われないし、炎上もしない。
世間の動向や他人の主張などに、心を惑わされることもない。
やっと心の安定を得た気分だ。

そうして、数十年が過ぎた。
俺は死の床にあった。
臥せったまま思いだすのは、なぜか、ここに来る前の<世間>にいた頃の思い出ばかりだった。
(ほんとうに俺はここで、幸せだったのか?)
そういう思いも心をよぎったが、よくわからなかった。

それから数日後、島に突然1隻の船がやってきて、中から誰かが下りてきた。
「あなたは誰?」と俺は聞いた。
(ここには誰も来れないはずなんだが。)
「私は、<Witness>です。あなたを助けに来ました」
それは電脳空間内を監視するAIだった。
(いやだ。あそこへは帰りたくない!)
言っても無駄だった。
<Witness>は、死の間際の私をスキャンし、人格を抽出してデーター化した。
死んだ肉体を捨て、ソフトウエア人格となった私は、電脳空間の世間に、送り返された。

投稿者:アラン・チュー(2023.8.21放送

有名店

 その店はすぐわかった。薄暗い路地に行列ができている。俺は古い漆喰の壁に沿って最後尾に並ぶと、もうすぐありつく旨いラーメンに思いを馳せた。
 あれ、看板がないのか。白抜きの「ラーメン」の文字が、赤いくたびれた暖簾に書かれているだけだ。なるほど雑誌で見た堅物おやじだ。看板なんかいらねえってわけだな。
 お、若い男女が出てきた。列が進む。どうだ旨かっただろう。は? 何て冴えない顔をしているんだ。前の方で立ち止まって何か言いたそうだ、いや、そそくさと歩き出した。こんどはこっちを見ないように、足早に路地を抜けて行ったぞ。何だあいつらは。
 次にもう一人、40ぐらいの男だ。機嫌悪そうに、ずけずけと歩き去ったぞ。
 よし団体が出た。なんか感想を言い合ってみろ。無? 無? 一言も発せずに、行っちまった。
 建て付けが悪いアルミの引き戸まで来た。曇りガラスで中は見えないな。男2人が開けて出てきた。やっとだ。俺は暖簾を片手で上げながら、入れ違いに中へ入った。
 あっと声をあげそうになった。汚れた壁に品書きもなく、無機質な赤いカウンターがあるだけの狭い部屋だ。スープの臭みもない。丸椅子には無表情な客たちが、処刑の順番を待つ囚人のように頭をたれている。いや、まだ分からないぞ。堅物おやじの店ってのはこんなもんだろう。俺は空いた席に座った。
 え、お前が亭主? 注文を聞く丸顔の禿おやじは、写真とまるで違う。手が震えてるじゃないか。冷や汗も? 申し訳なさそうに涙ぐむなよ。
 ああ終わった。違う店なんだ。
 そうだ、客に向かってうちは美味しくないとは言えない。客も注文してから店を間違えたとは言えない。俺は処刑の順番を待つ囚人のように、頭をたれた。
 出されたラーメンで腹を満たすと、俺はそそくさと店を出て、外に並ぶ人たちを見た。不味いですなんて言えない。そりゃ営業妨害だ。俺は結局列を見ないように立ち去った。

 隣の路地に、誰も並んでいない有名店の看板を見た。

投稿者:伊和夫(いわお)(2023.7.10放送

※投稿者より
1000字越えから推敲を繰り返して798字まで頑張りました。無駄な文言を削り文を磨く練習として、800字という縛りは丁度いい短さかもしれませんね。

テン・セカンズ

 号砲が鳴ると、スターティングブロックから8つの肢体がしなやかに伸びあがった。俺はアイツよりも前に出た。前傾姿勢から上体を持ち上げると、みぞおちから脚の付け根までバネのように伸びる。蹴り上がる脚に余計な力は入っていない。全ての運動が胸を前へ押し出す力になっている。後ろに伸ばした脚を前へ引き寄せながら、腕を振ってこんどは反対の脚が繰り出される。安定した上体から振り放つ四肢が、地面に反発する力を確実に捉えていた。俺はフットプレートの設定を変えながら、苦しい練習をしてきたんだ。これまでスタートで前に出られず、得意の追い上げでもアイツを捉えることができなかった。しかし今日はいける。
 いや、それでもアイツは並んできた。速い。30メートル付近でアイツが前に出た。浅い呼吸に血流が悲鳴をあげた。だがこんなの予定どおりだ。全身の筋肉にまだ余力がある。ここからが見せ所だ。本当の敵は自分だ。俺はアイツをいっかい忘れよう。今出せる全てを絞り出して、それで抜けなければ負けるまでだ。だがこの差ならいける。スタートで稼いだ分、後半の伸びで前に出られるはずだ。訓練の成果は全身に沁みわたっている。血管が腫れ上がり、筋肉がちぎれるまで走ればいい。あとのことは考えない。
 おかしい。いつもと違う。風を切るというよりも、風を纏っている感覚だ。ふんわりと柔らかい。動きがスムーズだ。速い。俺は速い。気づくとあと、20メートルだ。アイツが真横にいた。しかし抜けない。アイツも後半に、備えてきたんだ。あと10メートル。俺は慌てなかった。風を纏っている。前に出た。あと3メートル。持ち前の伸びで、ぐいと引き離した。やった。青空が広い。誰も前にいない。勝った。勝ったんだ。俺は勝った。ここ一番の大勝負だ。アイツが抱きついてきた。やめろ。汗がまとわりつく。俺はフィールドの、ちくちくした芝生に倒れた。太陽の匂いだ。何も見えない。もう真っ白だ。

投稿者:伊和夫(いわお)(2023.5.22放送

※投稿者より
私は趣味でマラソンやハーフマラソンをやっていますが、短距離はあまり経験ありません。若い時も陸上やっていませんでした。ランニングフォームは少し習っていますが、この文章は創作と思ってください。長距離だとランナーズハイはありますが、短距離でそういうのは無いらしいです。ただ10秒間の奮闘を一人称で切り取って、克明に書いて見たかったものです。
よろしくお願いいたします。

9%の威力

 その日、夫は関西に四日間の出張だった。コロナの間はずっと家でリモートワークだったので、本当に久しぶりの出張だ。
「え、四日も行くの? あら、寂しいわ」
 小躍りしたい気持ちとは裏腹に滑らかにそんな言葉が出た。結婚して三年目ともなればいろいろ立ち回りも上手くなる。潤滑油というやつだ。
 会社の帰りに私はデパ地下に寄った。普段ならせいぜい半額シールの貼られた総菜を買うくらいだが、今日は散々迷った挙句、奮発して霜降りのA5ランクの宮崎牛を300グラムも買った。名古屋コーチンの卵と下仁田ネギと春菊。完璧なすき焼きが出来そうだ。
 バスを降りてから、焼き豆腐を買い忘れた事に気づき、仕方なくコンビニに寄る。
 焼き豆腐の横は飲み物コーナーで、そこに9%の缶チューハイを見つけてしまった。ストロング缶というやつだ。どんなものか、一度飲んでみたいと思っていた。でもアルコールに弱い夫の前で飲んだらドン引きされそうで、一度も買ったことはない。
 よし、今夜試してやる。
 帰ってすぐにお風呂に入り、すき焼き鍋に牛脂を入れたところで念願のストロング缶を開けた。グビっと飲んでみる。
 甘くて美味しい。なぁんだ普通のサワーと一緒じゃん。グビっとまた飲む。ありゃりゃ、楽しい。胃の辺りでアルコールが踊ってるう。
 大いに愉快になって盛大にすき焼きを作り、テレビを点けたらドラマがやっていた。妙に心に沁みる。私は主人公の気持ちがわかりすぎて切なくて、気がつけばオイオイと声を出して泣いていた。その日はどうやってベッドに入ったのか記憶が無い。
翌朝、テーブルの上に鉛筆の走り書きがあった。酔っぱらいの私はこっぱずかしい詩を書きなぐったらしい。恐るべし9%。ただ非常に残念なことに、食べたはずの宮崎牛の味に関する記憶は一切無かった。恐るべし9%。

投稿者:宮崎アホイ(2023.5.8放送

丘の上へのレクイエム

 若いころは鋭く尖って、純粋であろうと思う。でも、周りの人からすすめられた道をちょっと歩いてみることが、本当に自分のためになることだと知っていれば、もうすこし実りある人生を歩めたかもしれないと、最近、悔やむこともある。
 
 つらつら考えながら、小高い丘をのぼってきた。軽やかに、陽の光が降り注ぐなか、時折、静かな風が通り過ぎる午後である。キアロスタミの映画のように、斜めの道がついて、緑ゆたかな丘であった。6月。歩幅は大きく、テンポは緩やかだ。丘の上には、皆が木を植えていく。いずれは幹が育ち、枝葉をのばして、だんだんと「ヤマ」ができ、それらしい場所へと変貌していくのだという。あの人はそこに眠っていた。

 最初は、「本当」の部分がないのかと感じていた。本でも、映画でも、自分がすすめたものなら、大抵、すぐに受け容れてくれるが、それがあまりにも受け身のように思えたからだ。ふたりが友達だからというのでなく、知るかぎり、誰にでもそんな風に接していた。まるで自分ではない何者かへと変わっていくことが「いい」と信じていたかのようで、鏡の前に立って、自分を見つめたとき、昨日と同じでいる姿が許せなかったのではなかろうか。肉体を五線譜のような器として考えれば、いつもちがう鍵盤を叩いて、半音ずつ和音をズラしていき、立っている場所を刻々と揺さぶっていくような人生は際限もなく、豊かに思えたけれど。

 目前に立つと、木はまだ小さく、葉音がさわさわと鳴った。すこしだけ鋭い風が吹くと、まだうまく吹けない笛の、低い音のような響きが一瞬、その空間にぼうと立ち上がる。深く息を吸い込むと、また、ぼうと鳴った。それきり閑として、優しげな陽射しが退屈に降り注いだ。改めて取り出した笛を構えると、Cの音を慎重に、静かに吹いてのばした。こんな穏やかな日にも、風は緩やかに響きを奪っていくのである。

 鳴き笛に そよぐ葉音や 夏木立

投稿者:alice000(2023.4.24放送

【自己解題】
 本作は Topoさんのヴォーカル曲『丘へ続くレクイエム』をモティーフにし、予てから曲を聴いて抱いていたひとつのイメージを形にしたものです。題名は憶えのわるい私が、よく間違えるタイトルへとすこし変えています。これまでの投稿作品では余韻を残す感じのものが多く、そちらのほうがよさげにも思ったのですが、本作は短いなかにも完結するものになり、私小説のようなテイストでまとまって、ちょっと茶化すように俳句で締めています。

 文中の「ふたり」の関係性、特に亡くなった方への敬意というのが主題になっていますが、執筆途中から、筆者は男性でも、物語のなかでは性別が明確でないほうがいいと考えだし、そのために主語を極力、削って書くということを思いつきました。

 交響曲やソナタのような音楽を小説的に書いてみたいという発想は、昔からもっていました。平野啓一郎氏の長編小説『葬送』や、古典にもそうした具合の作品はありますが、あくまで音楽そのものを言語化したいと夢想していたのです。今回は歌詞をもつ作品をモティーフにしただけですが、当時、構想していたのは歌詞のない曲を言葉にすることでした。昔のアイディアを思い出しながら、Topoさんの演奏や考え方、シラスのなかで得た感覚にリスペクトをこめて書いたものです。

フライングフェザー

 彩子は大学一年生。夏季休暇を利用して、友を誘って、ロサンゼルスに住む叔母のところへ、一ヵ月半のホームステイに来ていた。
 アクセルを固定したままのドライブ、食べたら豚になるぞ!と書かれたウエハースの載った巨大なパフェ、行く先々でのレディーファーストの男性たち、スケールの大きさに驚きながら、日本のことなどすっかり忘れて、毎日を満喫していた。

「あ〜あ、もう少しで帰国だわ〜」
と、1日でも長くロスにいたい気持ちの高まる、ある日の朝のこと、
彩子がベットから脚を下ろすと、サイドテーブルに羽毛が載っていた。
「掛け布団の羽毛が、はみ出したのね」
と、大して気にも止めずにリビングに行くと、叔母が奥のお仏壇に手を合わせていた。
振り向くや否や、
「お供えしてあるコップのお水の中に、羽毛が浮かんでたの」
と、指でつまんで不思議そうにしている。
「うちには、羽毛のものは一枚もないのにねえ〜」
彩子は「えっ?」と思った。
さっきのベットサイドテーブルに載っていたものと、うり二つだ。
急いでベットルームに行き、羽毛を手に取り、リビングに戻った。
「叔母さん、これも」 叔父も友も四人共、首をかしげていた。

朝食を済ませ、「今日は大型ショッピングセンターに連れて行こうね」 などと話していた直後、電話のベルが鳴った。
「彩子、お母さんからよ」 受話器をとった彩子の顔が青ざめ、嗚咽が漏れた。
「彩子、ごめんね。朝見たら、チュンが死んでたの。庭にお墓作っておくから」

投稿者:アラ、イユーミ(2023.3.6放送

※投稿者より
この話は、本当のお話です。一緒にいた友は、私です。Topoさんの名曲、「飛梅」伝説ならぬ、「飛羽」実話です。永年可愛がってくれたご主人様に、最期のお別れを告げに、羽毛がはるばる海を渡って来たのです。
彩子さんは、それ以後、鳥は飼っていません。

地球の未来

地球を開発し尽くし、行き場のなくなった人類。
宇宙に活路を見出そうとしたが、技術開発の行き詰まりや、その他の多くの足下の問題に阻まれ、地球から出て行く事ができなかった。
人口爆発、食料やエネルギーの枯渇、それらをめぐる各国間の争奪、戦争、テロ、大量虐殺。
ごく少数の持てる者が、ますます全てを所有し、城壁や各種の防衛網でサイロ化する一方で、 他の多くの持てざる者は、暴徒化した。

。。。と、ここまで書いて、 この暗い救いのないストーリーの先が書けなくなった作者は、後半をChatGPTに書いてもらうことにした。。。

このような状況下、人類は自らの未来を憂い、宇宙への憧れを失い、自らの歴史に嘆き始めた。
しかし、そんな中に、小さなグループが現れた。
彼らは、地球を再開発することを目標とし、技術革新を進めていった。
彼らは、再生可能エネルギー技術の開発や、環境保護に向けた取り組みを進め、地球を再び豊かな場所にするための戦いを始めた。
人類は、再び宇宙への憧れを取り戻し、未来を期待するようになった。

。。。よかった、と作者は胸をなでおろした。AIは明るい未来のエンディングを書いてくれた。
人間にはもう期待できないが、かわりにAIが、明るい未来を切り開いてくれるのだろう、、か?

投稿者:知久こりあ(2023.2.20放送

Googleストリートビュー

いつもの通勤路の交差点。自転車に乗って信号待ちしていたら、目の前をGoogleストリートビューの撮影車が通りかかった。
車体の上の特殊な360度カメラで、街中の風景を撮影しながら走っていくやつだ。噂には聞いていたが初めて見た。
Googleストリートビューは、撮影データをGoogleマップから呼び出し、実際の360度風景を表示できる便利なサービスだ。
風景だけではなく、撮影時にその場にいた車や歩行者も、一部モザイクをかけられ、そのまま表示される。
「あれ?もしかして今、自分も映りこんだ?。あとで見てみよう。」
このサービスをよく利用するテックおたくの私としては、このとき自分が移りこんだ心配より、記念にスクショ取りたいな、と思ったのだった。

数日後、もうそろそろ撮影データが反映されてるかな、と思い、Googleマップを開いてみた。
いつもの交差点に移動し、ストリートビューを表示。
あった。
いつも乗ってる自転車。
こないだと同じように、信号待ちしてる。
でも、乗っているのは、自分ではなかった。
この自転車の前の持ち主。 数年前に高校を卒業後、大学入学して家を出たが、その後音信不通になった息子の姿だった。

投稿者:ウェイン祥太(2023.2.6放送

もし記事が楽しかった、面白かった、ためになった、など、みなさまの時間を彩ることができていたならサポートしていただけたら嬉しいです。いただいたサポートは活動費として大切に使わせていただきます。これからも良いものを発信していけるよう頑張りますので応援よろしくお願いします!