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肩の痛みと胸の痛み

いつからだろう。朝起きると体のどこかしらが痛い。ソファで寝ているせいもあるのだろうが、不摂生に歳を重ねた結果だろう。今更ながらに胃薬とサプリを食後に飲み込む。

ここ最近は週に何度か実家に顔を出し、ゴミ屋敷を片付けてはいるのだが、
先日のこと、兄が三回目のワクチンを受けるというので、実家へ留守番をしに行った。

実家に着くと兄から、
「お母さんは今週、また様子がおかしくて、玄関から出ていこうとしたりするから気をつけて」と注意が入る。

兄はワクチンを打った帰りに、スーパーで買い物をしてくるとのことで、一時間半くらいで帰る予定だと言う。その間、僕は一階でゴミの片付けをしていたのだが、兄が出かけて三十分もすると二階に居るはずの母が、一階のキッチンでウロウロとしていた。

話しかけると「〇〇がいつ戻るか?」と繰り返す。「もうすぐ戻るよ」と答えるが、それでも納得せず、とりあえず二階の自分の部屋に連れていくのだか、ずっと「〇〇は、いつ戻る?」と聞いてくる。

〇〇の所は僕の名前だったが、そこは兄に「今日は〇〇が来るから、一緒に待っててね」と言われ、名前が印象に残っただけだろう。間違えを流して「あと三十分くらいで、お兄ちゃんは帰ってくるよ。買い物するって言ってたし。なにか美味しい物を買ってきてくれるかもよ」と笑って応えるのだが、母は「そんなものより、早く帰ってきて欲しい」と不安気に答える。
「女の人にババァ死ね!って言われた」
「ん? 怖い夢を見たの?」
と、なかなか会話にもならない。
「もう時間過ぎたよ。〇〇はいつ帰ってくる?」
母はそれをずっと言っているのだ。
「〇〇はいつ帰ってくる?」
僕を前にして名前を間違え、僕がいつ帰るのかを聞いてくる母。
家のそこいらじゅうにゴミを溜め込み死んでいった父。

人のゴールは何処にあるのだろうか。

この先もっと歳を重ねると、もっと体の不具合が出るだろうし、もっと厳しい知らせも入ってくる。

五十肩か。

ただ腕が上にあがらないくらいの認識だったが、変な角度に腕を動かすと痛みがズキッと心臓にまで走る。背中が痒くてもかけず、洋服の着替えも煩わしい。

今の所、幸せは戸棚に並ぶ薬のビンに入っている。


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