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ゴミの城〜020~母との時間

これまでのお話

実家へ行ったときに、ちょうど母親がトイレへ行く所で二階から兄が介抱しながら一緒に降りてきていた。母は足もおぼつかずトイレへ行くのがやっとで、僕は母と兄に「ただいま」と声をかけて母が階段を降りるのを手伝うと奥の部屋へと向かった。以前から母は一人で排泄もできない。兄が手伝っている。
父親の位牌に線香を上げていると、トイレから僕の名前がする。
「○○来ているんでしょ。……こんな姿、○○には見せられない」と母親の涙声が聞こえてきた。

家、全体が排泄物の匂いがして、どこの窓も開いてはいない。僕が以前に掃除して出したゴミもそのまま置いてある。

母が兄に連れられて二階の部屋に戻ると、兄が降りてきた。買い物に行くので母を見ていてくれとのこと。

僕は「部屋は二階じゃなくて一階にした方が良いよ」「窓を開けて換気した方が良いよ」と伝えるが、曖昧な返事が返ってくる。

兄が出かけて介護ベットで横になっている母の側へ行って話しかけた。母親に「お兄ちゃんがプリンを買ってきてくれるって言うから、二人で待ってようね」と声をかける。その後も母親の学生の頃のアルバムを見せながら声をかける。会話は続かないが受け答えはちゃんとしていて安心した。

目を閉じている母を見ると怖くなってくる。掛けられた布団がわずかに動くのを見て安心する。

二時間ほどしてから兄が帰ってきた。プリンは買ってくるのを忘れてしまっていた。

そのあと少しだけ庭の木を切った。前回、怖くて切れなかったのだが、木に脚立をかけて木を切った。時間がなくて下までは切れなかったが、今回は木を切れた。

帰りに母の部屋に顔を出して挨拶をしたが、母は「この人は誰なのだろう?」という顔で僕を見ていた。

翌日、病院で検査があるというので早朝に実家へ行って、母と兄を車に乗せて病院へ向かう。途中、むかし住んでいた家の前を通り過ぎるも誰も気にもとめない。
病院に着き、いつも通り僕は駐車場で待っていたが、四時間近くかかった。歳を取ると病院へ行くのもとてもエネルギーがいる行動だ。戻ってきた母を兄と二人がかりで車に乗せる。とても疲れた様子で、帰りの車の中で母が

「おなかが痛い」って
「もうすぐ、わたし死んじゃうの?」って言っていた。

幼い頃、いや大人になってからも、実家に住んでいた頃はどこかが痛くなったら母親に「……が痛い」と伝えていた。いつも母はそれに対応してくれた。今日、それを痩せ細った母に言われた。

実家へたまに行ってゴミを片付けてはいるが、母が亡くなったら? 兄は仕事をしたこともないし収入もない。実家は売る羽目になるのかもしれない。いつも家を片付けた所で母も兄も気にもとめないし喜ぶわけではない。もっと早く片付けていれば、母さんは絶対に喜んでくれたんだけど。父親が生きているときは父親が怒ったし。いまさら綺麗にした所で意味がないかもしれない。

次に行くときはプリンを買っていこう。せめて、プリンを食べて笑ってくれると良いんだけど。笑ってくれないと……。

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続く 〜021~ どうすればゴミを捨てられるのか?



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