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ゴミの城

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動画~https://youtu.be/YN4iTq7kIF4  父親が他界、実家に残されたのは子供のように振舞う母親と引きこもりの兄、そして大量に残されたゴミの山だった。 登場…
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#掃除

ゴミの城~001~主人を失ったゴミ屋敷

 先日、父が亡くなった。  結婚して実家を出てから三十年近くが経つ、実家には両親と兄が暮らしていた。僕は男だらけの三人兄弟の真ん中。弟も結婚して実家を出ている。その弟から夜中に電話があった。とても暑くて寝苦しい夜だった。 「父さんが亡くなったみたいだよ」  父は今月もたないだろう。と思っていたのでショックは少なかった。それでも心臓がドクンドクンといつもより早く動いていた。すぐに車を走らせ、隣町の市立病院の前で弟と合流して、静まり返り明かりも最小限しか点灯していない深夜の

ゴミの城~002~暗い時間

 これまでのお話  母に対して最初に違和感を感じたのは去年の春のことだった。世界を覆ったコロナウィルス、なるべく僕は人に会わないような生活をしていた。それまで月に一度は顔を出していた実家へも行かなかいようにしていた。  数か月ぶりに実家へ顔を出し、母と買い物に出かけたときのことだった。実家に行くといつも利用するスーパーの屋上の駐車場。そこに車を停めたとき、母がこう呟いた。 「ここに停めるのは初めてね」 「んっ? 何回もここに停めてるじゃん」  何を言っているのだろう

ゴミの城~003~要因

 これまでのお話  ほんの少し前、手を伸ばせば届きそうな距離に過去がある。目をつぶればすぐに戻れそうなのに戻れない。戻ってやり直せればどんなに良いことだろう。  父が嫌がっても病院に入院させれば良かった。頻繁に母親に会いに行けば良かった。そうしていれば、二人は今も元気で暮らしていたのではないか? 両親を色んな所に連れて行ってあげれば良かった。日本には素敵な所がたくさんある。もっとお金を貯めておけば良かった。もっと勉強しておけば良かった。  それでも過去には誰も戻れない。

ゴミの城~007~一難去ってまた一難

これまでのお話  前回からかなり日にちが空いてしまったが、こまめに実家に帰り掃除をしている。前回の続きでいうと、庭とベランダをうろついていたハクビシンは、二階のベランダにまで伸びる葡萄の木を切って、ベランダを片付けたことによって居なくなった。  屋根の上は下から伸びた葡萄の木と発泡スチロールに入った水やら植物やらが沢山。全くどうやって運んだのだろう?   何度も物を下へ運び、なんとかここまでに  とりあえず一階の部屋へ持っていったのだが、庭も物だらけで置く場所がないの

ゴミの城〜012~逃避と笑顔

これまでのお話 日曜日に実家へ行って家の掃除をしていたのだが、先週に引き続き兄が買い物に行く間、留守番をしていた。前回は庭を掃除していて少し目を離した隙に母親に外に出ていかれてしまったので、今回は玄関のチェーンが外れないように鍵をかけておいてから、一階の部屋を掃除していた。 母親を逃さないように。というと人聞きが悪いが、いまの母は一人で外に出ていってしまうと、帰ってこれないという危惧がある。案の定、五分もしないうちに母親が二階から降りてきた。 「お兄ちゃん、買い物に行っ

ゴミの城〜014~あっという間に過ぎていく時間とゆっくりな時間

これまでのお話 久しぶりに文字を書く。実家のゴミ屋敷の掃除をしながら、その模様をYou Tubeで動画をあげたりもしていたのだが、夏の初めに子供がコロナウイルスに罹り自分も罹患してしまい回復後、待機期間を過ぎて、いざ実家へ行こうかと思った矢先に、また別の子供が今度はインフルエンザに罹り、その待機期間を経る前に僕の友達がコロナウイルスに罹り、またその子供が罹りと……。高齢の母親に感染してはマズイと思い、実家には足を運ばなかったのだ。 そのまま心が折れてしまった……。 その

ゴミの城〜015~モチベーションを上げるには

これまでのお話 心が折れて二ヶ月も放っておいたが再び実家へ顔を出し、今度は少しずつ家を片付けている。 心が折れた要因を前回も書いたがまとめてみる。 作業の停滞~以前は掃除をしてゴミをまとめたときにゴミ袋が何個もできると達成感があった。それが庭の掃除になると鉄などの粗大ゴミやプランターに入っている大量の土、伸び切って二階の屋根をも越える木や大きな水槽だらけで思ったように進まなくなった。 現在の両親~父は去年亡くなり、母は少し言動がおかしい。病院で診察してもらったが認知症

ゴミの城〜016~子供と一緒に実家の掃除

これまでのお話 認知症気味の母親が兄の留守に一人で外に出ていってしまい、転んで硬膜下血腫というものができてしまった。その日のうちに手術、そしてそのまま入院してしまった。 母が退院する前に「母の部屋とベランダを掃除してしまおう!」と思い、実家へ行く準備をしていると、ちょうど部屋に息子が入ってきたので、息子に声をかけてみると「掃除を手伝ってくれる」と言うので、一緒に実家へと向かった。息子が実家へ行くのは久しぶりだ。彼が覚えているのは、まだ元気だった頃の母だ。家の中は入ったこと

ゴミの城〜017~石碑の前の照れた顔~実家の写真の処遇

これまでのお話 物心ついた時には家にカメラがあった。そのカメラは家族で旅行へ行くときや、僕たち兄弟が幼稚園や学校に入学する時などに父親が使っていた。 父は決まって「そこに立て」と、僕らを学校の入口やお寺の石碑の隣などに立たせるのだ。あらためてそんな写真をいま見てみると僕はいつも照れくさそうな顔をしていた。もちろん、ちゃんと理由がある。入り口というものは、たいてい人が入ってくるものだ。知らない人の視線を浴びながら大人のような背広を着させられた僕はいつも恥ずかしくて父が早くシャ

ゴミの城〜018~捨てたがり~物を捨てたくて仕方がない

これまでのお話 父は物を捨てられず実家は「ゴミ屋敷」と化したが、その影響なのか? 自身は不要な物があるのが嫌で嫌でたまらない。 ゴミの日の前日になると捨てられる物を探して極力、ゴミ袋にゴミを入れていく。出かけるときは必ず空のペットボトルや宅配で届いたダンボールなどを持って近所のスーパーにあるリサイクルボックスに立ち寄る。 ここ最近、フリマアプリやリサイクルショップなどで自分の不要な物をかなり売ってしまった。それでも家には他の家族もいるので物は多い。増えていく子供の荷物を

ゴミの城〜021~どうすればゴミを捨てられるのか?

これまでのお話 父親が遺したゴミ屋敷を少しずつ片付けていて、その様子をYou Tubeに載せているのですが、動画を視聴して下さっている方からコメントを頂くことがあります。 ゴミ掃除は心が折れることが多く、頂いたお言葉に励まされ実家へと向かうのですが、コメントの中でも同じようにゴミを少しずつ片付けていらっしゃる方が多く、コメントを拝見する度に「大変だろうな……」と想像しています。 捨てると怒るゴミの処理は?父親がゴミを溜めるようになったのは、父が仕事を辞めてからだと思います

ゴミの城〜022~兄と喧嘩

これまでのお話 実家には母親と兄が住んでいる。母は認知症気味で目の焦点も合わず、いつもベットの上で横になっていて、僕が行っても言葉を発することはまずない。兄は中学生の頃から引きこもりで、現在は介護4級となった母親の面倒を診ている。 実家のゴミ屋敷を綺麗にしようと通っていても、いつも「母親が亡くなったら、家は売ることになるのではないか?」と思いながら掃除をしていた。 先週、実家に行ったときに兄に「母親の貯金から、いくらか出して家を直そう」と提案してみた。少しばかり貯金があ

ゴミの城〜023~庭の木

これまでのお話 兄と喧嘩をした翌週、気まずかったが僕から兄にメールで「今日、行きましょうか?」と連絡をしてみた。すぐに兄から「今日は午前中にお母さんと買い物に行ったので大丈夫」と返信があった。とりあえず怒ってはなさそうだし、来週にでも顔を出すことにした。 一週間振りに実家に顔を出すと、玄関先の木の枝が切ってあった。てっきり前の家のおじさんが切ってくれたのかと思い、兄に聞いてみたら「台風が来るから切った」とのこと。兄が木を切るなんて珍しい……。喧嘩をしたときに僕が色々と言っ

ゴミの城〜024~母の誕生日

これまでのお話 先日、母親の誕生日だった。母は81歳になった。父の方が歳上だったのだが、父が81歳で亡くなったので今年で母と父は同じ歳になった。 誕生日の当日は仕事で顔を出せなかったので、前日の夜に実家へ顔を出した。母が病院から退院してすぐの頃は、医者から「柔らかい物を食べさせてくれ」と言われていたので、差し入れはプリンやヨーグルトなど柔らかそうな物だったのだが、兄に聞いたら「最近は、ある程度の物は食べている」ということで、母の好きなお寿司を持っていった。 ほんの数年前