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UIの論文を読む "Gender-Inclusive Design: Sense of Belonging and Bias in Web Interfaces"

2018年のCHIで発表された論文。ファーストオーサーはスタンフォード大学のHuman-Conputer Intraction Groupに在籍する博士課程の学生。

研究の目的

この研究の前にも、性差によってWebに対する評価が変わることを示す研究がいくつかあるようで、それによると「男性は左右対称のWebレイアウトを好む」とか「女性は男性よりもカラフルであったり視覚的な複雑さが高いインターフェースを好む」といった差異があるらしい(先行研究はちゃんと読んでいないので「好む prefer」というのがどういう状況を指すのかはわからない)。本論はそれらを下敷きにしつつ、「インターフェースの知覚における性差が、そのインターフェースを通じて提供される情報の知覚にも影響を与えるのではないか」という仮説を検証するものである。

今回題材となったのはコンピューターサイエンス入門講座の紹介Webサイトである。この分野は特に女性の参画という文脈で心理学実験が多く行われているため、その流れに乗ったものとしている。ここで重要な要素のひとつとされているのが「周囲への帰属感 ambient belonging」で、「周囲の文化やコミュニティに自分がフィットしていると感じられること」である。この帰属感はささいなものに影響を受けてしまうことが知られており、例えば部屋に置かれている雑誌の種類などによっていかようにも変化してしまう。この ambient belonging がWebサイトのデザインによっても変わってしまうのではないか、という仮説の検証が本論の内容である。

結論から言うと「Webサイトのデザインによって、ambient belongingに性差が生まれる」である。まあそうだよなあという直感どおりのものではあるし、提示されたデザインがちょっと極端すぎる印象なのでなんだかなあという気がするけど、検証の内容をまとめてみる。

実験内容

本研究では、内容やレイアウトは同一で、見た目のみが異なる2つのコンピューターサイエンス入門講座紹介サイトを構築した。片方は「男っぽい」ステレオタイプを感じさせるデザインで、もう一方はジェンダーニュートラルなデザインとしている。

どちらのデザインがステレオタイプを指しているのか言う必要もないくらい極端なデザイン、というか陳腐な印象がある(「ジェンダーニュートラル」って植物以外にやりようないのかな)。細かい違いは本論を参照してほしいが、

・トップ画像
・背景色
・フォント
・文字色

の4つが変更点となっている。ランダムに振り分けられた被験者にこれらのページのうち片方を提示したのち、下記6つの指標に紐付いた設問に回答してもらう、という実験である。6つの指標は必ずしもその講座と直接関係があるわけではなく、コンピュータサイエンスそのものに対する指標もある。

6つの指標
受講意向:その講座を受講したいと思ったか
周囲への帰属感:どれほど講座に対する帰属感を感じられるか
成功の予感:この講座を受講したときにどれだけうまくいくと感じたか
自己自信:コンピュータサイエンスについての自身の能力にどれほど自信があるか
長期的なコンピュータサイエンスの学習意向:コンピュータサイエンスやプログラミングを学習することに対する興味がどれだけあるか
性別に関する不安:性別が自身のパフォーマンスにどれほど影響を与えそうか、性別が他の生徒から自分に対する感情にどれほど影響を与えそうか(たとえばもしその講座における自身の成績が悪い場合、他の人がそれをあなたの性別のせいにするかどうか)

この調査結果を主に性別の観点から分析している。ちなみに、ここで言う被験者の「性別」は、被験者からの自己申告によるものであり、当人の肉体的な性別は特に考慮していない模様である(111人の被験者のうち、56人が男性、55人が女性。それ以外の性別を申告した被験者はいなかったらしい)。

実験結果

簡単に言うと、「男っぽい」ステレオタイプを感じさせるデザインのページを提示された女性は、6つの指標すべてで否定的な影響が見られたという結果になったらしい。つまり、上のWebサイト画像の右側のデザインを提示された女性は、講座を受講したいと思う率が低く、講座への帰属感も低く、受講したところで成功できる気もせず、CSに関するスキルにも自信がもてず、CS自体への学習意欲も低く、性別に関する不安も大きかったという。まあ一部については特に驚きがない結果である。見た感じ男っぽいWebサイトだと「女性は対象としていないのかな」と感じてしまうのは無理もない。が、CS自体への学習意欲が下がってしまったり、性別に対する不安が大きくなってしまうのは、Webデザインがもたらす心理的作用が思いのほか大きい(そのWebページの範疇を超えたところにまで作用する)ということを意味する。

また、この研究はわりと「男性性のステレオタイプを提示されることによる女性への心理的な悪影響」に焦点を当てている感じだが、どちらかというと個人的に面白いのは男っぽいデザインを提示された男性もやや否定的な影響が見られなくもないということである。本論中では「男性同士の提示されたデザインの違いに基づく評価結果に有意差はない」とされていたが、どちらにせよ男っぽいデザインを提示しても、それは男性に対しても特に効果がない、ということには変わりがない。だからといってなんでもかんでもジェンダーバイアスを避けたWebデザインにすべきだ、というのは早とちりだが、Webデザインにおける「男っぽい」「女っぽい」が本当に必要なのかというところは新たな検討が加えられてもいいのではないかと思った。

まとめ

バイアスのかかったWebデザインが、そのWebサイト自体だけでなく、その内容となる分野全体に対して心理的な影響を与える、というのが提示された論文ではあったが、提示されているデザインがやや陳腐というか、「そりゃそういう差も出るだろ」ってくらい画像の影響が強いデザインだったので、学びと言うか新たな発見という感じはやや薄い。あと個人的にはこれはただのWebデザインであって、UIデザインの範疇ではない気がする。どちらかというといわゆるビジュアルデザインというか。

なので、できればこういった画像を含まず、もう少し操作性までを考慮したUI設計における性差、みたいなのを検証してほしかったなと思わなくもないなあ。

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WebサービスのIA、UI。 誰の役にも立たない文章を書くのが好きです。