Fate/Ruminants Things Order 〈prologue〉
《注意》
この小説は株式会社TYPE-MOONのスマートフォン向けゲーム「Fate/Grand Order」と同人サークルRuminant`s whimperのPC用シューティングゲーム「HellSinker.」の二次創作クロスオーバー小説となります。
Prologue 「WE ARE WAITING THE DAWN」
深夜2時、藤丸立夏は不意に目を醒ました。奇妙な夢を見たのだ。カルデアに召喚された英霊たちの夢の中に入り込むことは今まで幾度もあったがそれらのどれとも似つかぬ奇妙な夢。
この世の終わりのような夕焼けの中で、その色に飲み込まれず尚一層輝く琥珀色の光があった。琥珀は何かを示そうとしたようにゆらゆらと蠢いた後、立夏の頬に触れて―そこで夢は途切れた。
抽象的な夢のようだが、その体感は目の醒めた今でも残るほどに具体的で―冷たい空気、夕焼けの中でさらに鮮やかに煌めく琥珀、そして頬に触れた柔らかで温かい感触―すべてが夢でなく今しがた起きたことであるかのようにさえはっきりと感じられた。
別段気分は悪くない、むしろすっきりした気分だが目が冴えてしまい今から眠る気にもなれない。珍しいことだった。悪夢に魘されて起きるならまだしも、不思議な夢を見て良い気分で起きたなどあまり人に相談するようなことでもない。一体どうしたものか。
パジャマを脱いでカルデアの制服に袖を通し、ぼさぼさになったオレンジ色の髪を頭の左で括り、自室から出る。食堂か休憩所あたりで暇を潰すことにしようか。
真夜中のカルデアは静かだ。慌ただしく働きまわる職員も、それを手伝ういくらかのサーヴァントも、あるいはふらふらと遊び回っているサーヴァントも、どこからともなく現れるフォウも、そしてマシュもいない。廊下に響くのは自分の足音だけ。
遠くの方にまだ明かりの付いた部屋がある。中央管制室。中でモニターを睨みつけていたのはやはり彼女?であった。
「おはようダ・ヴィンチちゃん。遅くまでお疲れさま」
「こんばんはリッカちゃん。お早いお目覚めのようだね」
レオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデアのサーヴァントの一人にして技術部門局長。万能の天才。
「急に目が覚めちゃって。ダ・ヴィンチちゃんこそこんな時間まで一体どうしたの」
「昨日のレイシフトの後からどうもシバの様子が怪しくてね。カルデアス上のどこにもない点を勝手に観測し続けている。当然何も見えないし私達が操作したわけでもない。直そうにもこちらの操作を一切受け付けない。全く困ったものさ」
天才は画面を睨みつける。彼女がこのようなトラブルにここまで手こずるなど早々起こり得ないことだ。いつもならこういうときに時刻も状況も問わず口を挟んでくるホームズも今はなぜかいない。今日は珍しいことばかりだ。
「わたしも覗いていいかな?ちょっと気になる」
「どうぞ。もしかするとマスターのキミの身に関係することかもだしね」
立夏もダ・ヴィンチの睨みつけるモニターを覗き込む。なる程確かに一切の情報が見えずモニターは灰色の線だけを...
「...あれ?」
「どうしたんだい?何か見えたりした?」
「なんだろうこれ。急に画面が...」
灰色が突如大きくねじれ始める。ねじれた線は曲がり、重なり、連なり、大地から天に向けて伸びる塔のようなシルエットを造り上げた。同時にカルデアスに真っ赤な点が発生、サイレンが鳴り響く。
「ダ・ヴィンチちゃん、これって」
「特異点だ!どうやらシバはずっとこいつを睨んでいたらしい!リッカちゃん、悪いがすぐにレイシフトの準備を頼む!」
「皆、こんな真夜中に申し訳ないね。仕事の時間だ。特異点が発生した。場所は1958年の東京。本来なら特筆すべき事件は何も起きていない年だが...」
「...アガルタのときと同じ?」
「おそらくはそうだ。時間神殿から逃げのびた魔神柱が作り上げた亜種特異点、その可能性がが高い。当然ながら長々とこのまま放っておく訳にはいかない。リッカちゃん、頼めるかい?」
「もちろん。今カルデアで動けるマスターは私だけだしどうせ目も覚めちゃってたしね。」
「よろしい、そしてありがとう。早いうちに解決してしまうに越したことはないしね。総員、レイシフトの準備を」
ダ・ヴィンチちゃんの号令とともにスタッフたちが各々の席に着き始める中、紫色の髪の少女がこちらに駆け寄ってくる。
「おはようマシュ。こんな夜遅くにごめんね」
「先輩の謝ることではありません。先輩こそ今日は眠れなかったと聞きましたが大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。別にどこも痛くないし至って健康だよ。むしろすっきりしてる」
「そ、それなら、いいの、ですが」
「マシュ?」
「...最近、先輩にばかり無理をさせてしまっている自分が不甲斐ないです。それに、なんだか先輩が遠くに行ってしまいそうな気がして...」
デミ・サーヴァントとしてのマシュの力は未だに失われたままだ。7つの特異点を旅する間立夏を守り続けたマシュ・キリエライトの盾はもはやそこにはない。しかし、
「大丈夫だよマシュ。マシュがここで観ててくれるからこそ私はどこへだって行けるしどこからだって帰ってこれる。だから安心して。必ず今回も帰ってくるから」
藤丸立夏にとって、マシュの存在は彼女自身を繋ぎ止める砦であることに変わりはない。
「だから、今回もオペレーティングお願いね」
「...!はい!このマシュ・キリエライト、誠心誠意先輩のサポートをさせていただきます!」
マシュが席に向かい、立夏は背を向けてコフィンに向かう。大丈夫、今回だってうまくやれる。今までもそうしてきたように。
「それじゃ、行ってくるね」
『アンサモンプログラム スタート』
『霊子変換を開始します』
立夏コフィン内のクッションに身体を預け、大きく深呼吸する。
「やっぱり慣れないなあ、これ」
何度もこなしてきたとは言えタイムスリップという本来ありえないようなことをしているのだ。早々慣れようはずもないか。
なおも止まらぬ彼女の緊張に呼応するように、コフィンがガタガタと揺れ始める。
―揺れ始める?
レイシフトのときにコフィンに物理的な揺れが生じることは今までなかった。
「コフィンの様子がおかしい!レイシフトを中止しろ!」
異状を察知したダ・ヴィンチが叫ぶ。
「駄目です!こちらの操作を受け付けません!プログラムがロックされています!」
そのスタッフの言葉を証明するように、アナウンスが異質な声色で異質な言葉を吐き出し始める。
『識別......ド入力を......ブート.............ーストへのログオンを開始...』
「電源操作もダメです!クソッ、何か手は!?」
「特異点の年代及び座標が変動開始!これは...未来です、それも数千年単位、測定ができません!」
「先輩!先輩!」
「...開かない?なんで!?」
内側からコフィンを押し開けようとするが扉はビクともしない。ロックが働いているわけではない、何か別の硬さを感じる。
『よう......同朋よ。私はあなたの苦痛を知ら......しかしあなたの苦しみは私のもの.......どうか尊厳とともにあれ』
「コフィンを物理的にでも開けろ...早く止め...」
「...んぱい!せん......」
ダ・ヴィンチやマシュたちの声が遠のく。意識が薄れていく。
『接続完了。...ーラ...ドシステム、再生を開始します』
そして、青い光とともに立夏の意識は吹き飛んだ。
これは人理焼却、人理修復、それらのどれにも含まれないうつろな夢と記憶の結晶。
過去でも未来でもない、世界と世界の隙間に生まれたほんの僅かな願いの物語。
異種特異点
A.R.■■■■
永久■■楽園 カーディナルシャフト
《追憶の観測者》
楽園の塔は起動する。
――その尊厳の下に、彼の世に永久の開放を
Fate/Ruminants Things Order
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