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サウナの導線設計に関する考察

湯快爽快の茅ヶ崎店は僕のホームサウナである。

1998年にオーブンした25年の老舗。茅ヶ崎に引っ越してきてから2年半くらい通ってるが、これまでNoteで言語化したことはなかった。

当たり前になってしまったことに対して言語化を試みることは、見えなくなってしまったことに気づく方法でもある。

そんなこんなで湯快爽快に対してあらためて考察をしてみることにする。

まず湯快爽快の茅ヶ崎店で特徴的なのが「飲食エリアを通過しなければならない導線設計」だ。

1階が受付で、2階にサウナがある。その2階のサウナへ行くには飲食店エリアを"必ず"通過しなければならない設計になっている。

ここで今年の3月にアメリカのラスベガスに行ったときのことを思い出した。ラスベガスではホテルのチェックインを行うには、"必ず"カジノエリアを通過しなければならない導線設計になっている。

カジノはラスベガスのホテルにとっては重要なキャッシュポイントであり、大きな収益装置だ。ユーザーが必ず行わなければならないチェックインという行為をする際の導線にカジノを置くことで、必ずカジノとのタッチポイントを作れる。

このタッチポイントによる知覚刺激が発生し、カジノをやるつもりがなくとも「せっかくラスベガスに来たんだから少しやってみようか」というパーセプションの変化(態度変容)が起こる。つまりリードフェーズから顧客フェーズに引き上げることができるのだ。

湯快爽快(だけでなくスーパー銭湯全般)の導線設計から、飲食をバックエンド(収益)商品としているということが見えてくる。飲食エリアというタッチポイントで知覚刺激を起こし「せっかくだからサ飯食べて行こうか」というパーセプションの変化を起こす。

入館料を支払うとサウナは使い放題なので、施設側としては単価が上げられない。となると入館料以外のキャッシュポイントを作る必要があるので、それは飲食やアカスリやマッサージなどのオプションになる。

湯快爽快では理髪店も併設されており、リフレッシュというパッケージでも販売されている。つまりサウナはフロントエンド(集客)商品という位置付け。ほぼ100%の利用者がお風呂・サウナ目的で訪問する。ただサウナは集客はできても収益にはならない。

湯快爽快の導線設計のポイントは「フロントエンド商品のサウナで集客しつつも、物理的にはフロントエンド商品はバックエンド商品の飲食エリアの奥に置かれている」という点だ。

前述の通り、湯快爽快の茅ヶ崎店ではサウナは飲食エリアの奥にあり、必ず通過しなければならない。

これは仕事帰りに居酒屋街を通過しなければ自宅に帰れないのと同じで「誘惑と戦う」環境を儲けている。

スーパーでレジを待つ列にお菓子が置いてあり、待ち時間に子供に手を伸ばさせる設計と同じ。つまり、サウナから出た際に食べて帰ってもらい単価を上げる狙いがあると分かる。

男性のサウナは2つ。スタンダードな高温サウナと塩サウナ。高温サウナのキャパは結構大きく2段しかないが20-30人は入れるのではないか。いつもテレビの音が大きいので、もう少し小さくしてもらえたら嬉しい。

塩サウナはけっこうな低温なので、汗をかくのに時間がかかる。普通にしてるとじわっと発汗するまで20分くらいかかるため、ミスト式にするなど回転率を高める改善が必要。

塩サウナは外に面する場所にあるので、ドアの開閉があると外気が入ってさらに発汗しにくくなる。特に冬場は難易度は高め。お湯で下茹でするか、サウナで少しじんわり汗をかいてから遷移するかで時短を試みている。

このように施設ごとに難易度が変わってくるので、攻略を試みるこういう試行錯誤は楽しい。「どのサウナに入るかより、目の前のサウナにどうアプローチするか」が重要で、いつも実験を繰り返しながらサウナを楽しんでいる。

改善点を何点か。

サウナマットの交換の館内方法も塩サウナ室内でもなぜが流れるが、不要だと思う。館内放送って現実に引き戻されるし、放送がなくとも全く問題ない内容なので緊急時以外はなくしてもらいたい。飛行機で映画観てる際にアナウンスが流れると意識が途切れてしまうのと同じ。

駅のシャトルバスの出発5分前に館内放送をサウナ室内で流されても間に合わない。

またサウナマット交換に時間をかけすぎている。ドアを開けたまま5分以上じっくり時間をかけて交換するので、サウナ室の温度はめちゃくちゃ下がる。

ここら辺はサウナーフレンドリーではないなぁと感じる。昔からの方法をそのまま踏襲しており、利用者の変わりゆくニーズに対応していない。時間がかかるのは仕方ないとしても換気は必要ない。ここも改善してもらいたい。

水風呂から外気浴エリアの寝湯までは50歩かかる。50歩って結構長く感じる。20歩くらいで外気浴ができないと"ととのう"時間が少なくなってしまう。

水風呂から上がった瞬間から"ととのう"を享受できる時間は1秒ずつ減っている。水風呂から外気浴スペースの導線設計の目安は20歩以内は意識する。

サウナや飲食エリア単位の全体最適の導線設計は良いが、サウナ、水風呂、外気浴単位のサウナエリアの個別最適の導線設計は改善が必要な印象。

先日のスパメッツァで目覚めた温冷交代浴に関して今回も試してみた。温冷交代浴は自律神経のスイッチングの回数をサウナよりも短時間で稼げる。

心身のチューニングを目的とした場合、温冷交代浴でも十分目的は達成できる。

湯快爽快の水風呂は16℃、隣の日替わり湯は40℃なので24℃の差。スパメッツァは35℃差だったので、やはり物足りない。

ただ、その物足りなさは水風呂が原因ではない。温冷交代浴って水風呂が大事だと思ってたけど、実はお湯の方が重要だなぁと気づいた。

水風呂で身体を冷やしてから熱いお湯に入った際に毛細血管が広がる感覚がたまらない。身体が解凍される感覚は熱いお湯があってこそ。

麻布十番の竹の湯では、水風呂は15-16度くらいだが熱湯が43-44℃くらいあったのでこの"解凍感覚"が堪能できた。

つまりキーファクタになるのはお湯であり、温冷交代浴のお湯は43℃-45℃くらいあってほしい。自分が作る側になったら、温冷交代浴は「お湯の温度が命」と壁に貼っておくことにする。

湯快爽快でなサウナをギフトとして販売している。これはターゲットを「寄贈者」と「利用者」に分解することを意味する。利用者だけに販売するよりも、寄贈者向けにも販売することでターゲットが広がる。

寄贈者は自分で使う訳ではないので、複数人に対して商品を購入する可能性のあるターゲットだ。ここの良いところは「その商品がギフトの可能性を秘めていることは、提供側から気づかせようとしている」点だ。

基本的には「その商品のギフトの可能性」は提示してもらわないと「考えたことすらなかった」となる。だから気づかせてあげる必要がある。

そしてサウナ+マッサージなどパッケージングしているのも良い。「父の日ギフト」などモーメントも取り入れて購買口実を設計しているのも良い。

人間はいつもその商品を購入するための言い訳を欲しがっている。それを与えてあげるのも提供側の仕事。

利用者に対して売ると1:1(この人が自分向けに購入するので1人1商品)になるのに対し、ギフト化して寄贈者にと売ると1:N(1人が同じ商品を複数個購入)をしてもらえる可能性がある。

帰りの階段前でギフトをノーティスしているが、ここは精算するフロント前でも良いのではないか。フロントまでの距離で「やっぱりやめとこう」の可能性を少しでも減らすために。

とりあえず、ギフト化は引き出しとしてもっておきたい。

飲食エリアでは「湘南ソフト」というソフトクリームを販売しているが、間違いなく素材は普通のソフトクリーム。

スペシャル感を出すネーミングやエボシ岩をモチーフにしたカレーなど、湘南感を出そうとする姿勢は凄く良い。これらは地元民というより、外から来た観光客向けのキャッシュポイント。

このように普段通い慣れた場所でも色々と気づきが得られた。

慣れてくると、どうしても気づけることが逓減してしまう。気づける量を増やすには、しばらく離れてみるか、言語化を試みること。今回は後者のアプローチをしてみた。

サウナだけでなく、当たり前になってしまったことをあらためて言語化してみて、気づきを回収していく機会を設けても良いかもしれないと感じた湯快爽快だった。

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