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【八人のアダム】 2-13 シルガラ

部隊は目標の軍事施設廃墟に向けて、移動を開始した。
先頭は囮役であるピップのモルゴンである。その両脇後方にはウィークシティのスターズ五機が布陣し、上空からは全体を俯瞰するように、ティアのティターニアが旋回している。

ピップのモルゴンが目的の廃墟まで五kmほどの距離まで接近したとき、上空を旋回していたティターニアから部隊各員に通信が入った。
「こちらティターニア。前方にスターエネルギー反応を検知。複数機がモルゴンに接近中」
「こちらモルゴン、了解」
ピップは岩を障害にするようにモルゴンを不規則に移動させた。敵が攻撃をしてきても狙いをつけづらくするためであった。
複数機のスターズは、そのままスピードを上げてモルゴンを追ってきた。モルゴンからもその機影が確認できた。
「こちらティターニア、スターズは三機。画像を撮影したので送信する」
ピップは受信したスターズの映像を解析した。
「こちらモルゴン、解析の結果、対象機体は<シルガラ>と判明。自律式スターズです」
「了解した。各員、予想通り、自律式だ。作戦通りにやるぞ」
ワイルドから部隊に号令が入った。

<シルガラ>。
猫科の猛獣を模したと言われる自律式スターズである。
全長は約二メートルほど。
空中浮遊能力はないが、地面を蹴って高速移動することで、その最高時速は二百kmにも達するとされる。
機装は軽量で火力は高くないが、その動きは俊敏であり、とくに複数機に囲まれた場合は危険にさらされるだろう。

(追いつかれたらやばい)
ピップは全速力で後退を開始した。
しかし、岩場の地形上ではピップのモルゴンよりも<シルガラ>たちの方が速度は上だった。
モルゴンとシルガラの距離は徐々に縮まっていき、シルガラは発砲した。
(射ってきた、でも!)
敵の先制攻撃の確認こそが、ピップの囮としての第一の任務である。
ピップは外部スピーカーのスイッチをオンにして、叫んだ。
「警告する、我々に積極的交戦の意思はない。ただし次の攻撃があった場合、我々もそちらを攻撃する! 警告する!」
ピップはこの警告を二度繰り返した。
もし相手方に自律式スターズを差し向けている人間がいた場合に、正当防衛を主張するためである。
その間にも、シルガラは迫りながら、数度の発砲を繰り返してくる。そのビームがモルゴンをかすめた。
(まだかよ、追いつかれちまうぜ)
ピップがそう思った時である。

激しい音とともに発射された鋭いレーザー粒子がシルガラを貫いた。
待ち構えていた味方機、<モルビーナ>がレーザーを発射したのである。
「シャッ、命中! 俺ってば天才ッッ!」
射手のザーズが奇声を上げた。
胴体を貫かれたシルガラはもくもくと煙を上げて沈黙をした。

それをみた残り二機のシルガラは撤退を始めた。
しかし、それらはすでにティアの<ティターニア>にロックオンされている。
ティアがトリガーを引くと、「ぱしゅッ」と小気味よい音とともに、小型ミサイルが二発、発射された。

空戦機、<ティターニア>。
大戦時、連合国のエリートパイロットが操縦する、空戦特化のスターズである。標準機装はバルカン、スタービーム、そして小型のミサイルである。空中におけるスピードは陸戦型のスターズとは比較にならず、圧倒的に速い。このように拓けた大地の戦闘では無類の強さを発揮する。

ティターニアから発射された二発のミサイルは二機のスターズを見事に捉え、撃破した。

ピップはミサイルがシルガラに着弾するまさにその瞬間を、モルゴンから視認した。
(すごい、これがティターニアか)
ピップははじめて見るティターニアの戦闘能力に感嘆した。ティアの腕前も並の手際ではなかった。
これには普通のスターズでは、たとえばピップのモルゴンなどでは、とても歯が立たないだろう。索敵能力、戦闘能力、どちらもずば抜けている。

部隊はあっという間に三機のシルガーラを破壊した。完勝であった。
「ブーラ、自律式スターズを徹底的に破壊しておけ。万が一、動き出されちゃ厄介だからな」
ワイルド隊長の指示で、ブーラは<シルガラ>の機体を爆弾で粉々にしてしまった。
(そこまでしなくても平気なんだけどな。残っていればいろいろ調べることもできたのに)
ピップがそう思っていると、ワイルド隊長から指示が飛んだ。
「モルゴンはもう一度施設に接近を。ティアさんはこのまま上空の警備をお願いします。再び敵が出てくれば、もう一度同じ作戦を続けましょう」
「了解」とティア。
「了解です」とピップも応答をする。

ピップは廃墟が目視できるほどの距離まで接近した。
上空にはティターニアがいると思うと安心感があり、大胆に接近できる。
「隊長、まだスターズは出てきません」
「よし、警戒をおこたるな。まだほかにもスターズが控えている可能性は高い。徐々に接近するぞ」
ピップはさらに廃墟に接近した。廃墟とモルゴンの距離はすでに五百メートルを切っているだろう。だが、ほかのスターズが出てくる気配はまだない。味方機も廃墟を囲むように接近する。
隊長の指示で、味方スターズが施設の壁を一部破壊した。
それでも廃墟からスターズが出てくる様子はない。

部隊は複数のレーダーを駆使して、人の有無、スターエネルギーの有無などを確認した。結果として、生体反応、熱源、スターエネルギーの反応はすべて得られなかった。
ワイルド隊長から各機に通信が飛ぶ。
「こいつは完全に無人かな。さっきの三機ですべてなのかもしれない」
「すこしあっけないですね。事前の情報では、強力な自律式スターズがいるとありましたが」
とティアが答えた。ピップも同感だった。シルガラは素早い動きが強みのスターズではあるが、そこまで強力な自律式スターズというわけではない。
「我々の準備が良かったのでしょう。そしてティア殿のティターニアが強力なのですよ。一度シティへ今の状況を連携しておきましょう」
ワイルド隊長はウィークシティへと<モバディオ>を介して通信を送り、状況を伝えた。

程なく、シティから返信が届いた。
「強力なスターズがいると言っても、あくまで一般人から寄せられた情報だ。我々のようにしっかりと編隊を組んだスターズであれば相手にはならないのだろう。とはいえ、まだ目標施設に自律式スターズが潜んでいる可能性はある。安全を確保しつつ、現場判断で、施設の調査と目標物の入手を進めてくれ」
「了解」
ワイルドはシティとの通信を終えると、施設の外に隊員を集めた。
「シティから施設調査を進めるように指令が入った。私はスターズから降りて施設内を調査しようと思う。そこで」
といいながら、ワイルドはティアを見た。
「内部を一緒に確認をしていただきたいため、ティアさんも入っていただけますか?」
ティアは一瞬意外な表情を浮かべたあと、穏やかに答えた。
「ワイルド隊長、ティターニアはこの部隊中ではもっとも哨戒能力が高いと思われます。万が一、どこか伏兵などがいたときに備えて、私は外の警戒に回った方が良いかと思います」
「おっしゃる通りですが、周囲は見晴らしの良い砂漠ですし、外に伏兵がいる懸念は非常に少ないと見ています。そうなると、中の調査に注力をしても良いでしょう。また、施設内では、ティアさんの判断をお伺いしたい状況もあるかと想像しています。市長からもティアさんの知見を頼りにするように言われておりますし」
「そうですか…。わかりました」
「ありがとうございます。よし、あと二人ほど、中に入ろう。ザーズ、ブーラ、おまえたちもこい」
「はあ、やっぱり。呼ばれるような気がしたんだ」ザーズが大袈裟に首を振った。
「ぼくも? おいしいものがあるといいナあ」とブーラは呑気である。
「よし。では我々四人で建物内部の調査を進める。残り三人は外の警戒を続けろ。何かあったらすぐに連絡を」
ティアが口を挟んだ。
「隊長、ちょっといいでしょうか。できればピップくんにも中に入ってもらうのはいかがでしょう? 何といっても、今回の目標は<マザースター>です。スターエンジニアである彼がいたほうが良いように思われますが、いかがですか?」
「む…なるほど」
ワイルドは少し考えた。
「よいでしょう。彼は一応、私の監視対象ですからな。そばにいてもらったほうがよいとはいえる。いいね、スターエンジニアくん」
ピップとしては、モルゴンから離れるのは少し嫌な気もしたが、ティアが自分を必要としてくれたことは単純にうれしかったし、中にマザースターがあるかもしれないなら、行ってみたいと思った。そして何より、今のピップの立場で部隊の責任者であるワイルド隊長に逆らうわけにもいかない。
「わかりました。何ができるかわかりませんが、お手伝いします」
「よし。では、行こうか。中では何があるかわからない。各員、装備を怠るな」
そう言うとワイルドはスターズを降りた。
ピップは銃をウィークシティに没収されているため、何も持たずに降りた。それに気がついたティアがワイルドにいった。
「隊長、彼に私の銃を貸し出します。良いですか」
「いや、それなら私の分をひとつ貸しましょう。少年、俺を撃つなよ?」
ワイルドはにやりと笑いながら、ピップに銃を手渡した。

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