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勉強が出来る陽キャに勝つ方法

日曜日は街にカップルが溢れるからあまり好きじゃない。

そんなこと前々からわかりきっていたのだから、出かける日をずらせば良かったと後悔する。
だけどもう遅い。既に敵襲を許した後にそんなことを考えようとも、丸腰の僕にはもうどうにも出来ない。
本屋へと向かうエレベーターの中、綺麗な髪をした、いい匂いを漂わせる女が、早見沙織のような声でもって、彼氏と熱力学の話をしている。
エントロピーがどうのこうの。マクスウェルの悪魔があーだこーだ。
僕は許せなかった。
美人が勉強なんかするな。彼氏と熱力学を語るな。それも神聖な安息日に。
僕のアイデンティティがなくなるだろ。
プライドだけは一丁前だった。
それに、確かに僕は丸腰だったが、この千円カットでスポーツ刈りにしてもらった頭の中には、賢い脳みそがたんとつまっているはずだった。
みんなが彼氏や彼女、サッカー、ラグビーと喚いてる間、ひたすら隅で勉強し続けてきた僕は、こんなチャラチャラしたやつよりも自分の方が賢いということを世界へ示さねばならなかった。
そう思った僕は、携帯電話を徐ろに耳へ当て、その時僕が一番賢いと思われる話を始めた。
これは、ただの学術的な話ではいけなかった。
なぜなら僕からはいい匂いがしないし、髪もボサボサだったからだ。それに何より、僕の美声はどの有名声優にも似ていなかった。
「あ、もしもし〜どうしたの急に〜。うん。うん。あ〜、ファインマンダイアグラムね〜。」
軽いジャブを放つ。勝ったか。ちらりとカップルを見る。カップルは僕の方など全く見ていない。最近できたパンケーキ屋の話をしている。
心の中でガッツポーズをする。
勝った。
そうかそうか、もう僕の前で専門的な話など出来ないか。
ピンポン。
エレベーターが本屋の階に止まる。
暗黒微笑をマスクに隠しながら、僕は確かな勝利の余韻を胸にエレベーターを降りた。

今日は、好きなラノベ作家の新刊発売日なのだ。

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