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グランツーリスモ7はグランツーリスモsportの後継作ではなかった話

 グランツーリスモ7が発売されてだいたい3週間。もうエンディングをご覧になった方も多く、やりこんでる方の情報も合わせると、グランツーリスモ7がだいたいどういうゲームかというのはわかってきた感じです。
 それに伴って、昨今、ネット上では賛否両論飛び交っている状況で。個人的にはいろいろな意味で「まあ、こんなものだろう」と予想していたとおり(肯定的評価とはちょっと違うんですが)だったのですが、不満を持っている方たちの気持ちもよくわかる、というところです。
 今日の時点でグランツーリスモ7について思っていることをレビュー代わりにちょっと書き残しておこうかと思いますので、怒るほどではないけどなんかいろいろモヤモヤするよね、と思っている方はぜひお付き合いを。

1 延期しないぞ、これは期待できる?

 さて発売前、グランツーリスモ7への期待はとても高いものがありました。グランツーリスモsportは素晴らしいゲームでしたが、やはり経年的な飽きも出てきていた中、PS5で新しいグランツーリスモが遊べるということで、多くの方が楽しみにしていました。
 そんな中、発売日がアナウンスされ予約受付が始まり。後述しますが、紹介映像も何本も配信されて、これはどうやら延期はなさそうだと。
 予約しました報告も頻繁に見るようになり、発売延期になるんじゃない?と疑心暗鬼だった界隈の雰囲気もこの辺りから一変。こんな発売前の早い時期からアナウンスができるんだから開発も順調にいったようだ、みたいな受け止め方をしている方も多く。

 ただですね、「私はわかっていた」みたいに言いたいわけではないんですが、発売延期なし=開発が順調 というのは一昔前のセオリーでして。
 最近でも、有名な某国産サッカーゲームシリーズや某戦国シミュレーションシリーズが豪快にやらかしているわけです。セオリーが変わった背景として指摘されているのが、ネット接続が前提となってバグ修正などが後からでもできるようになったこと。
 遊ぶ側としては歓迎できませんが、出す側とするととりあえずリリースしてしまっても何とかなるわけです。むしろ、コンテンツや機能追加などのアップデートをすることで、ゲームに新たな刺激を与え寿命を延ばす=ひいては販売の長期化にもつながるという発想もあって(モン〇ン商法とも言われますが)。販売=ほぼゲームが完成ではないのが最近の製作側の考えかと。

 それに加え、上で例にも挙げましたが、人気のシリーズもので期待値が高い作品ほど、リリース時期に対する圧力も強いわけです。会社の業績や資金繰りに直結しますから。1か月後に入る100万円と3カ月後に入る100万円では全然違うわけです。
 GT7のエンディングを見てもあれだけの人がかかわっているわけです。ポリフォニーも社員が300人くらいいたはずです。部外者なのでポリフォニーさんの収益構造がわかるわけもありませんが、グランツーリスモシリーズの売上の影響が相当大きいだろうとは自明の理で。末期のsportの収益がどれくらいあったかはわかりませんが、利益の柱が何本もあるメーカーとは違うでしょう。社員への給料をはじめとした会社の経営を考えると、そうそういつまでも発売を引っ張れないだろうなというのは推測できるところで。

 これまでのグランツーリスモの歴史、そして最後まで直らなかったsportでのいくつかのバグを考えると、おそらく完成形では出てこない確率が非常に高いだろうと考えていました。とはいえ盛り上がっている中、水を差すようなことも言えず。悶々としていた記憶があります。

2 期待を煽ったトレーラー

 巷の期待を更に煽ったのが、何度も配信されたゲーム内容の紹介映像(トレーラー)かと。新しい映像が出るたびにツイッターやYoutubeで盛り上がる。映像のワンシーンを取り上げて、これはどういうことなんだろうと盛り上がる。光の走り方がコースを表現しているというのでまた盛り上がる。みんなの期待値がどんどん上がっていったわけです。

 ここは個人差もあるので何とも言えませんが、私は、実は紹介映像を見てもいろいろ引っかかってしまってノレなかったくちで。
 映像を見て、絵がきれいというのはわかりました。ただまあそれはPS5になる以上、想像できるし当然の変化だろうと。じゃあ肝心のゲーム内容はどうなるのかというと、実は何も出てきていない。
 この文章を書くにあたって改めてトレーラーを見返して確認しましたが、プロデューサーとして自動車の歴史や文化への思い入れを語るシーンが大半で、具体的なゲームの内容については、実は意外なほど出てきていない。きれいな映像がずっと流れているので、雰囲気でごまかされがちですが。
 7はどんなゲームかという肝心な情報は、いままでと同じようなコンテンツがあって、新しい要素ではミュージックリプレイというのがあって…ぐらいしかわからない。
 正直、これはいろいろ怪しいぞ…と思っていたところではありました。

 それ以外に新しい遊び方とか要素はないのかな?と思いつつ映像を見ていたのですが、中でも一番気になったのが、どれも見慣れたコースの映像で、新しく収録されたコースのアナウンスがなかったこと。
 GTsportに飽きが来ていたと先ほど書きましたが、7の開発に伴いsportのアップデートがなくなって、新しいコースの追加がなくなったことが大きいと思っています。レースでよく使うのはGr3やGr4で車も固定になってしまいコースも変わらないとなると、やはり飽きが来るのはやむをえないかと。
 ところが「7」でも懐かしのコースの復活はあっても、新コースの情報はなく。ここはかなり引っかかったところでした。GT7がどんなクオリティでリリースされるか、そこを占う大きなポイントだと考えていたので。

3 強調された原点回帰とマルチプレイとの距離感

 もう一つ、トレーラーを見ていて気づいたのが、これは皆さんも感じたと思うんですが、「ワールドマップが復活しました!」「中古車ショップがあります!」「チューニングパーツがたくさんあります!」などを結構強く押し出して原点回帰をやたら強調していたこと。
 流石にはっきり口にしてはいませんでしたが、トレーラーを見て「sportとは違う路線でやりたいんだな」というのは皆さん察したかと。

 しかし、昔ながらの遊び方を重視しているのはわかりましたが、どういう新しいソロコンテンツを用意したのかは皆目わからず。個人的には「F1 20XX」のストーリーモード的なもの、ライバルとの戦いみたいなのがあるのかなと予想していたんですが、結果としてはミュージックリプレイだけだったようです。

 そしてもう一つ、トレーラー等でマルチプレイ(対人レース)についてほとんど言及がなかったのも特徴的でした。
 あれだけワールドツアーとかで盛り上げていたから「グランツーリスモ7ではこんな世界大会を大々的にやる予定です」「日々こんな公式戦やデイリーレースが開催されています」みたいにどかーんとぶち上げてくるかと思いきや何もなし。
 ロビーでフレンドといろんなレースができます、みたいなユーザー間のマルチプレイについての説明もほとんどなく、ロビーの機能やゲーム画面等の詳しい紹介もなし。
 これは明らかにマルチプレイを重視していないな、というのが読み取れて。

 一方で、sportがあれだけ長きにわたって楽しまれたのは、ユーザー同士のマルチプレイの貢献が大きかったことは明白で。sportでコミュニティの楽しさを知ったという声が非常に多かったわけです。
 この、作り手とユーザーのマルチプレイに対する温度差は、トレーラーからはっきり見えていたので、巷はGT7発売に向けてヒートアップしていましたが、個人的には「発売されたら、マルチプレイ絡みでいろいろ不満が出そうな感じだな」と予想していて、大丈夫かな…と思っていたところです。

 私なんかは、まさかこのオンライン全盛のご時世にロビー機能なくしたりしないよな?とまで心配していたんですが、直前のメディアインタビューで

――ゲームのマルチプレーヤー部分は「グランツーリスモSPORT」と同じくらい幅広いものになるのでしょうか。
山内氏:
はい。オンラインマルチプレイに関しては「GT SPORT」と同等ですね。「グランツーリスモ7」に関して言うと。

https://game.watch.impress.co.jp/docs/interview/1385460.html

とあったので、拡充はしていないけどsportと同レベルはキープされていると思っていたんですが(爆笑)。
 まあ、いまとなるとトレーラーでロビーの機能の詳細を紹介しなかった(できなかった)理由もよーくわかりますが。

4 グランツーリスモ7とは何だったのか?

 タイトルにもしたところですが、私の結論としては

「グランツーリスモ7」は「グランツーリスモ6」の後継作(続編)であって、「グランツーリスモsport」の後継作ではない

ということになります。当然だろ!という方はごめんなさい。
 でもですね、私も含めてみんな、勘違いというか錯覚というか「グランツーリスモ7」は「グランツーリスモsport」の後継作(続編)だと思っていたのではないでしょうか。
 それが、いい悪いはまったく別の話として、山内さんの頭の中では、多分こうなっている、ということです。

 じゃあ「グランツーリスモsport」は何だったのか、となりますが、おそらく「外伝」的なポジションなんだと思います。
 マルチプレイを強調した特殊な作品。グランツーリスモの正統ではないという位置づけになっていると推測しています。

 私も、それでいいのか?と思うんですが、いま目の前にある「グランツーリスモ7」というゲームとこれまでに語られたすべての情報が、そうであることを指し示していると思います。
 ワールドマップ見ればわかりますよね。マルチプレイとスポーツは端っこにあるんです。グランツーリスモ7のメインのコンテンツではないことを明々白々に宣言しているわけです。
 でも、時期的に「グランツーリスモsport」からはじめた人も多いはずなんです。「6」はPS3のゲームですからね。そういう人にとっては「sport」こそが ”グランツーリスモ" だったりするでしょうから難しいですよね。

 さて、これからグランツーリスモ7はどうなっていくのか。
 車の挙動やセッティング系のバグは、まあこのシリーズのお約束として、これからのアップデートで徐々に洗練されていくでしょうが、ロビー回りがどうなるか。
 これだけユーザーの不満が大きいと何らかの対応はされるでしょうが、どの程度の優先度で対応されるか、とGTsportのロビー機能を超えるものが提供されるのか、あたりが今後のポイントになってくると思います。

 上記の二つとも、開発側(山内氏といっていいかも)のプライオリティは高くないとおもわれます。PP周りあたりを先に解決したいのではないかと。

 開発リソースに限りがあるからリリース時に間に合わなかっただけで、これだけ不満が出ればすぐに対応するのでは、という考えもあるかもしれませんが、そもそもAIソフィー(どこへ行った?)やら夜空の星座をNASAと連携して変化を再現みたいなところに力を入れていたぐらいなので(汗) 私も早くロビーがsportレベルになり、更には安定性や機能面でsportを上回るロビーとなることを強く望んでいますが、これらの要素を考えると先を予想するに、何とも見通しがたいと感じています(予想が外れることを祈っています)。

 私がまとめとして書けるのは、自分自身も含めて、「グランツーリスモ7」とは、プロデューサーの考えが色濃く反映された作品だという点も含め、この記事で書いてきたようなコンセプトのゲームなんだと理解して付き合っていった方が(精神衛生的な面も含めて)よいのかなということです。

5 最後に

 冒頭でも書きましたが、現在、賛否両論が交差する状況で。怒る人たちの気持ちもよくわかるところです。

 一方で、開発側を擁護する立場の方の声も多く目にします。それだけグランツーリスモというシリーズが愛されている証明でもありますし、自分が好きなものに文句を言われるのは不快なのも人間の心情です。

 ただ、今回について言うと、まあちょっといろいろやり過ぎたかなという気がしています。特に事前のパブリシティの部分で。

 私も動画を作ったりしますが、小説家や漫画家、芸術家など物(創作物)を作る人間は、基本的には「作品で語るべし」なんです。世に送り出す作品がすべて。それをどう受け取るかは受け手の自由と。

 ところが、素晴らしい作品を見ると、それをどんな人がどんなことを考えて作ったのか知りたくなるのも人間の常で。創作物をビジネスで扱うのなら、そういったお客さんのニーズにもある程度は答えなくてはいけなくて。ですので、販促やパブリシティとして顔を出してインタビューに答えたりもすることになる。
 ただ、やっぱりそれをやり過ぎてはいけない。あくまでも創作物がメインで、補助的に楽しむ材料として作り手の言葉というのはあるべきで。その意味で、今回は事前のパブリシティ(トレーラーやインタビュー)で、話し過ぎたのではないかと感じています。

 この記事でも書きましたし、皆さんもお気づきのとおり、あのパブリシティではかなーり都合のいいことしか言っていない(笑)。ぜひトレーラーやインタビューをもう一度ご覧いただきたいところ。
 まあパブリシティとは多かれ少なかれそういうものではあるんですが、それを顔を出してやっちゃうと、やっぱり後での反発も大きくなるのです。ああいうのには人の顔を出してはいけない。

 更にサーバーメンテナンス後の対応についてもあえて一言書くと、メンテが伸びて、みんなそれなりにうむむ…となっているそのタイミングで、あのゲームバランス調整に関するコメントを出す必要はなかっただろうなというのが偽らざる本音。

 あのタイミングでは「メンテ長くなってごめんね」だけで終わらせるべきだと思うし、あのタイミングで、ユーザーの不満に対し自分の考えを述べるべきではなかったと思います。

 どうしてもあのタイミングでユーザーに対して自分の考えを主張したいのであれば、改善された作品(ゲーム)なり、せめて具体的な対応内容と実施期日の予定を一緒に提示するべきでしょうし、「いま、この瞬間にそれを具体的に書けないのは歯痒い」と言って、作品がないまま自分の考えだけを書くのはやはりユーザーの反発を招くと思います。
 その意味では、ゲーム作りもそうですしパブリシティもそうですが、プロデューサーが全面的に前に出過ぎているのが、かなり気になっているところではあります。いままででも山内氏あってのシリーズではありましたが、ちょっと今回は特に目に付きます。

 やっぱり作り手は「作品がすべて」ですから。

 今回も長くなってしまいましたが、グランツーリスモ7について今日の時点で感じていることを好き勝手に書いて、まとめてみました。
 なんかモヤモヤしていた方たちの、考えの整理のお役に立てれば幸いです。