2022年F1最終戦を見ての感想

 今シーズンも終わりました。早々に鈴鹿でフェルスタッペンがチャンピオンを決定したこともあって、最後の数戦は消化試合的な緩めの雰囲気が漂っていたところですが、チャンピオンシップ2位争いやベッテルラストレースという話題もあって最後までなんだかんだいって楽しめたシーズンかと。

 今シーズンは結果として、フェルスタッペンが圧倒的な強さを誇ったシーズンということになりました。勝ちも勝ったり15勝。レース数が違うとは言えマクラーレン・ホンダを思い出させる勝利数。

 でも、ファンの多くは「いつのまにそんなに勝ってたの?」という印象ではないでしょうか。過去にも特定のチーム・ドライバーが勝ちまくったシーズンはありましたが、そういうときは大抵「ああ、今年は〇〇にはどうやっても敵わないな」「どうせ〇〇が勝つんでしょ」みたいな空気が漂っているもの。
 今シーズンの特徴は、絶対的な強さをさほど感じさせないのに、フェルスタッペンとレッドブルが圧倒的な成績を残したところにあると思います。

 その要因がフェラーリにあることは間違いありません。シーズン序盤から車の素性がいいことは明らかで。車の速さ(特に予選の一発)を見る限り、今年は拮抗したシーズンになるのは必至だったはずなのに、どうしてこうなった…という。

 結論を言えば、フェラーリが自滅したシーズンとなるのでしょう。一年を通じて個々のレースでフェラーリのミスの多さは目立っていました。ドライバーのミスもありましたが、やはりチームサイドのレースマネジメントで疑問符のつく場面が多く。

 一つ一つは小さなミスなんです。でもそれで失ったポイントがレッドブルに行って加算されていく。その繰り返しの積み重ね。塵も積もれば…の言葉どおり、それが最後にはここまでの大差となった。

 あとは、門外漢なので詳しいことは言えませんが、シーズンを通した開発の管理でも差があったように思います。少しずつではありますが、フェラーリがレッドブルとメルセデスに対して相対的に優位性を失っていったのはシーズンを俯瞰してみると明らかで。
 元々の車の素性の違いなのか、開発力の違いなのか、フェラーリの気が緩んだか、原因は定かでありませんが、ポーパシング規制の変更への対応も含め、レースを通じての開発の違いが、結果の圧倒的な差をもたらしたのもこれまた明らか。

 もうひとつ、多くのファンにとって案外だったのがメルセデスの成績でしょうか。ただ、手前味噌になりますが、個人的にはこれは予想していたところ。昨年のこの原稿で、こんなことを書いているのです。

そして歴史の歯車は元には戻らない。私が言う「時代の流れ」というのがあるのなら、来年以降、ハミルトンの8回目のワールドチャンピオンは相当難しくなったはずです。

 個人競技は別として、団体(チーム)競技では特定のチームが○連覇という長い期間に渡って一強時代を築くことが往々にしてあります。F1でもシューマッハをはじめとしてそういう時代が何度もありましたし、日本のプロ野球の巨人のV9など他スポーツでも事例に困りません。

 ポイントは連覇が終わったあとなんですね。他のチームにタイトルを奪われ連覇記録が途絶えた。でも強いチームであることに変わりはないんだから、一年おいてタイトル奪還、再び連覇街道もありうる、多くの方がこう考えがちなんですが、実はこういった事例はかなり少ない。まったくないとは言いませんが、常勝チームが連覇が途絶えた後、同じような強さを維持し続ける例は非常に稀有です。

 これは連覇中のチームだけが得られる「実力の嵩上げ」効果があると思うのです。ある特定のチームが勝ち続ける時期とは、他のチームからみると「勝ち方がわからない」期間なわけです。どうやったら一番の存在に勝てるのか。勝てれば自分のやり方で大丈夫とわかりますが、勝てないと絶対的な自信がないまま試行錯誤を繰り返さなければいけない。結果迷って、しなくていいチャレンジをして自滅したりする。
 「〇〇には勝てないな」「やっぱりあそこは強いな」と周囲に対して精神的な優位に立てるのは実はとても大きいのです。

 ところがこの「実力の嵩上げ」は、負けてしまった瞬間にきれいさっぱり消滅します。それどころか、いままでの最強チームは嵩上げされた実力分がなくなることに加え、自分たちのやり方への自信を失います。逆に打ち破って新たな勝者となったチームは自信という上積みを得ます。

 嵩上げされた状態で拮抗していた力は、新しい勝者が誕生した瞬間に、一気に逆転して大きな差が開くのです。これが団体競技で連覇を続けたチームが一度破れると、元のような連覇を再び達成するのが難しい理由です。

 去年、少なくない人に訝しげな目で見られながらも、来年のハミルトンは厳しいと思うよーと言い続けたのは、こういった歴史が語る「時代の流れ」を知ってたからこそ。説明が長くなってしまいましたが、メルセデスもやはりこの例に漏れなかったのは、これを読んでる皆さんがよくご存知ですね。

 さて来年はどうなるか。もちろん車の出来次第となるのですが、レギュレーションが大きく変わらない以上、レッドブル有利、フェラーリが追う一番手という構図は変わらないと思います。
 その中で勝負のシーソーがどちらに傾くか。もし来年もレッドブルが勝てばフェルスタッペン黄金期が始まるかもしれません。

さて、また新しいシーズンを楽しみに待ちましょう。