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ハッピーアイスクリーム

イカれた人間なので既婚者なのに8年も前の恋愛話をする。

8年前、3年超付き合った人と別れた。

中学の入学当初にクラスメートとして知り合ってから3年後、オタクなので話が通じるし互いの人間関係の諸々から話す機会が増えて、悪くないな、と思っていたら相手から告白された。

正直、高校生の割には結構真面目に付き合ったつもりである。どちらも言語化が比較的得意なタイプなので、価値観が衝突した時はちゃんと話し合いができていた。

しかし結論から言うと、3年超も付き合ったのに相手のことをほとんど知らずに別れた。
互いの核心に触れて崩壊することを極端に恐れてしまったからだ。

どういう家庭環境で育ち、幼少期は何を考え、どんな人と親しくなり、何に挫折し、どう自分で乗り越え、これからどう生きていきたいか、など何も知らないままだった。
別に聞く機会はいくらでもあっただろうに、お互いに聞けなかった。

思えば、最初から私に謎の劣等感を抱えて接してきていた。だから自分の内面をちゃんと伝えてくれたこともないし、私のことを聞いてきたこともほとんどない。
あまり私の真髄を知りたくないんだろうな、という感覚は常に感じていたし、それを感じていたからこそ私も聞けなかった。

それを聞いて、もし共感できなかったらどうしよう。
上手い返しができなかったら、もう取り返しがつかなくなるのかもしれない。
そういう不安が常にあった。


だから見て見ぬふりをした。趣味の話や、友達の話など、当たり障りのない話だけをして、いつか確実にぶつかるであろう将来をとにかく先延ばしにした。

そしてその問題はついに大学受験が迫った頃に直面した。
高校3年間同じクラスで大学受験という同じ目標に向かっているにもかかわらず、私は幸い志望校の判定が基本安定していたが相手の成績がなかなか振るわなくなってきてしまったのだ。

本気で将来のことを考えていくならこの挫折をどう乗り越えるかを話し合う必要があったのに、私は受験が終わるまで向き合いたくなかった。

そんな時、受験1ヶ月を切ったクリスマスに突然の別れ話をされた。(そのせいで数年間クリスマスがトラウマになった)

自分のことを滅多に話さない人が、初めてぶちまけてきたのだ。

「もう劣等感に耐えられない」「合わせる顔がない」「このまま付き合い続けると自分のことをどんどん嫌いになってしまう」

なんで私は恋人にこんなことを言わせているのか。それは受験勉強よりも遥かに辛いものがあった。共倒れ寸前になった。

話すと長くなるため割愛するが、その後一悶着二悶着してとりあえず現役の受験はどうにか持ち堪えたが、私が大学へ進学し、相手が地元で浪人し遠距離になり、ソッコーでまた破局の危機に陥った。

遠距離になり互いが置かれている環境が一層異なるものになったのに、関係性だけどうにか維持しようとし、でもその歪みに耐えられなくなった。

相手のメンタルがどんどんおかしくなり、完全に修復不可能になったため、直接会って話して別れようという話になった。

久しぶりに会い、数時間後には別れるのに謎に買い物をした。普通に昼食も食べた。その後公園で2,3時間別れ話をした。
歩み寄ろうとしても互いの差に傷つけ合う結果になったので、別々の道を生きようと決断した。

3年間微妙に張り詰めていた糸が突然切れて楽になった。

お互い良い人見つけて幸せになろうね、と言って決着が着いた後、謎に2人でチャリ屋に寄った。

こんなにぶちまけ合ったのに同じ道を歩めないとわかった今、もう失うものは何もなく、心から他愛ない話ができることがめちゃくちゃ楽しかった。
今なら一から分かり合えるかもしれないと一瞬思ったが、でももうそれも無理なんだろうなとすぐに確信した。

そうして私たちは別れた。


こうした経験は恋愛でも友情でもよくある話だ。

真逆な親友二人の関係性が崩れていき、全く別々の道を歩むことになった経緯を描ききった作品が、京都アニメーション作、『響け!ユーフォニアム』シリーズのスピンオフ作品である『リズと青い鳥』だ。

希美と過ごす毎日が幸せなみぞれと、
一度退部をしたが再び戻ってきた希美。
中学時代、ひとりぼっちだったみぞれに希美が声を掛けたときから、みぞれにとって希美は世界そのものだった。
みぞれは、いつかまた希美が自分の前から消えてしまうのではないか、という不安を拭えずにいた。
そして、二人で出る最後のコンクール。
自由曲は「リズと青い鳥」。 童話をもとに作られたこの曲にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。
「物語はハッピーエンドがいいよ」 屈託なくそう話す希美と、いつか別れがくることを恐れ続けるみぞれ。
一ずっとずっと、そばにいて一
童話の物語に自分たちを重ねながら、日々を過ごしていく二人。
みぞれがリズで、希美が青い鳥。
でも……。
どこか噛み合わない二人は、歯車が噛み合う一瞬を求めて回り続ける。

映画『リズと青い鳥』公式サイトより

みぞれと希美はずっと一緒にいるのに何もかもがバラバラで、お互いの話を聞かず、歩み寄ろうとしても一線を置かれてしまうどこかピリついた空気が漂い続けた後についに片方が爆発した。そしてこれまで抱えていた感情を吐露し、もう二人が同じ道を並んで歩むことができないとわかる決定的な一言があった末にフッと笑う。そして、帰り際にこれまでバラバラだった二人の足音が重なる一瞬が最大の魅せ場である。

みぞれと希美は隣り合った二つの歯車がびっくりするほど噛み合っていない。
最後の一瞬を除いて。

それでも、一瞬だけでも噛み合ったことにきっと二人は報われた気持ちになれただろう。
歯車が噛み合わないことを恐れているといつまでも噛み合う瞬間は来ない。だから、その一瞬を逃さないためにも自分と相手の本音を受け入れて、伝えて、回り続ける必要がある。

もしかすると二度と噛み合う日は来ないかもしれない。それでも、きっとその一瞬の経験がその後の人生の大きな一歩になると私は思っているし、自分の歯車を回し続けたことで、どの歯車が自分にとって噛み合うのかがわかるようになるだろう。

あの人には自分に合う歯車が見つかっただろうか。どうか回り続けていてほしいと、今も願いながら私は私の人生を生きている。

もうこれから先の人生で交わることもなく、交わろうとも思わないし、あと数年したら私の記憶力では何もかも忘れてしまうのだろう。
それでも分かり合えたかもしれない別れ際の一瞬だけは忘れずにいたい。

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