かぼちゃ

元気だったことなどない。
ものごころついたころにはなにか不安で。最初の不安は、いつかすべてが終わるということでしたね。

今は、両手にかぼちゃを持って走る。
大きいのと小さいの。
どちらか選んでもらうから。
かぼちゃボーイこと私が飛びだすと少し声をひそめた野菜ボーイと肉ガールの談笑もかわいい。

小さいほうのかぼちゃ「なにかやましいことでもあるわけ?」
青いよ野菜ボーイ。

かぼちゃを待っているのはスポーティボーイだったはずだが、選ぶのはおじいちゃんだった。
「おじいちゃんどっちがいいの」
「いや、こういうかぼちゃじゃなくて……」
えっ、こういうかぼちゃではないの?
止まるおじいちゃん。
「こういうのじゃなくて……」

こういうのじゃなくて……。
 

空はからりと晴れている。
どこを吹きぬけても蝉の声。
綿菓子をちょっとひとくちもらったあとの本体のいびつさを表現した雲もある。
風に水の含まれていない夏。
ただただ光る。

こういうのじゃなくて、どういうのがいいのだろう。わからないままの我々の時間の停滞を打ち破ったのは、横から割って入ってきたおかんガールでした。
「大きいやつ」
あっというまに、私の右手からでけえかぼちゃを取り上げ、かごに放ります。そのまま背中を向けて立ち去ろうとする嵐のようなかぼちゃ三世代に私はおもわず
「えっ……」
と声をあげてしまいました。おじいちゃん、それでいいの、かぼちゃ。それじゃないっていってたじゃんか。
私の「えっ」に気づいたおかんガールは振り向いて
「あ、はい。ありがとうございました」
と、ひとことくれたのでした。
そうじゃなくて、おじいちゃんは納得したのかしら、あのかぼちゃで。

小さいほうのかぼちゃを抱えて廊下を戻ると、ま〜だ野菜ボーイと肉ガールがいて、今度は私のほうをじっと見ているから、なに? とおもってわたしもわたしで目を合わせたままなに? という感じで通りすぎていって、通りすぎたあともお互いになに? と思って振り返ってもまだこっち見てるからなに? とおもってかぼちゃ持って走るとかいうことはもう今日が最初で最後だと思うと、いつか終わるすべてが愉快だった。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻