魔性

夢の国から醒めて、東京のもっとも暗い場所に夜のあいだだけ休む場所を決めた私たちは、風呂のあと、疲れ果ててもう動けなくなったひとりをおいて他の者たちでそこを抜けだした。おなかがすいてしまったのだった。

あそこがおいしいよと詳しい者がいうので、雑炊の店に入った。わさび雑炊で街並みが滲んでしまった。

そのあとまたここはふつうのお店だよと詳しい者がいうので、酒をのむ店に入った。順番が逆。雑炊が先なんて変。

この詳しい者は魔性という名前の酒を頼んだ。この人ははじめて会った10年前から魔性であった。ぼくたちはこの魔性をまんなかにおいて物事を進めているようなところが常にある。この夜だってそう。

カウンターのむこうで、酒を混ぜる器を両手で振っている人がいる。よくテレビで見たことがあるいかにもバーテンダーといった動きである。その音が聞こえるとぼくたちは話を中断してまでもそちらに顔をむけた。

酒を混ぜている人の目が泳いだとき、胸がどきりとして痛かった。こんなところで見世物として大々的にバーテンダーをやっているくせに、急に興味津々の顔で見つめられると動揺してしまうという男性の自意識過剰な顔がいやらしかったから。酒のせいもある。

店を出たら朝だった。
警察が夜のあいだにあったもんちゃくの残骸をすくってまわるのを横目に歩きながら、10年前の放課後のあの子たちにまた会えたような気がし、ぼくのなかではずっとそのままのあの子たちなのに、こんなあそびもさして特別な夜とは感じなくて退屈そうなこの子たちが、愛おしくて、悲しい。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻