ゆくえ

泣くとき、理屈で泣く。感情による動作ではなくて、理性による。涙の流れ道にははじまりの点とおわりの点、すなわちできごととそれを受けとめる気持ちとの二点があり、あたまのなかに浮かぶそれらの点のあいだに、意図的にせよおのずからにせよ言葉の筋道ができた瞬間、二点を結ぶ軌道で涙は流れます。

古くからある喫茶店の女将の話を聞いても、幸せについての問答をしても、どの昔話にうなずいても、ゆくえのなさがかなしかった。

「若くてよかったことなんてぼくはない」
「若いほうがいいよ。歳をとると体が動かなくなっていくの。それは五十六十にならないとわからないけれど」
「体が動けば幸せなの?」
「お金がないと幸せじゃないとおもう」
「お金があれば幸せなの?」
「両方だとおもう」

もうゆくえの定まった人にとっては、はじめから大体の道が見えている人にとっては、涙も、幸せも、それほど単純なことなのだった。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻