鯛のあたまが売っていた。
150円だというから買う。

うちに帰ってラップを解き、
顔半分をめくってみる。
あばらだの、
よくわからない白くてふよふよした
脂身みたいなものが折り重なっている。
おまけつきだね。
いわゆるあらというものか。

それとはべつに、たまたま
自分の体のすべてがいやだった。
なにかいらいらするとおもったら
自分の体のすべてが不愉快だった。

鱗をとるあいだ、鯛と目が合った。
うわ、ブス。
鯛ってとてもブサイクだ。
水族館でまぐろを見たときは
顔のパーツの見事なバランスに
驚かされたものである。
たまげるほどかわいかった。
それと比べると鯛はひどい。
うらめしそうにこっちを見ている。

鍋に鯛とだいこん、かぶの葉を入れ煮る。
呑んだり料理に使ったりしてきた
四合瓶がおしまいになった。

鯛の頭を引きあげて食す。
人間はむごいことをする。
骨たちを接着していた肉は
ほろほろに煮崩れて、
ひとつひとつにわかれる骨。
頬骨や眼窩のまわりには
おいしい部分がたくさんある。
表情筋だろうか。
眼球はぶよっと落ちた。
そのまわりにオリーブオイルのような
金色の油が流れだしている。
体にいいといわれる部分だ。
魚からしか取れないという油。
でも見た目が怖かったので
そっとほかの器によけて捨てた。
たとえ魚の眼だとしても
なんだかいやなきもちがする。

高校の生物の先生が
海岸に打ちあげられた鯨の背骨を
ひとつ、
背負って持ち帰った話、
思いだす。
背骨がひとつってなにかというと、
脊椎って骨がいくつも連なって
頭から尾まで続いているではないですか、
そのうちのひとつ、かついで、
家に持って帰ったっていう話。
人間の背骨は一個、たぶん
拳の半分くらいだろうけど、
鯨のは一個30キロくらいあったそう。
それを担いで、休み休み車まで運び、
自宅の庭で熱湯をかけたりしながら
きれいにこすって、飾ったのだとか。
家族からは非難ごうごうだったとか。
(そりゃそうだろ)

好きだから、
肉片だらけの背骨を抱いて、
死んだくじらのにおいにまみれても、
持って帰るようなことができるんだね。

ぼくにはそんなに好きなものない。
なにも持って帰りたくない。

箸のさきでつつきまわして
ばらばらになった鯛の顔のうち、
一番きれいなのは歯並びだった。
歯並びの悪い魚って、いません。
箸の先ほどのちいさな歯がこまごまとならんでいる。
それ……
なにを食べるためにある歯なの。
顔の肉にしても、
別に笑うわけでもないのに、
なんのためについてるの。
鯛ってなにを食べて生きてきて
なにに笑って生きてきて、
こんなことされているの、いま。
顔半分と肋とどこかの肉と
ひとからげに売り捨てられて。
ぼくはおいしかったけど、
おまえはどういう気持ちなの。

急に苦しくなって、早めに寝た。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻