透明の壁

方向のわからない私は
ずっと知っている町にさえ
迷ってしまいます。

知らない道に突入すると
急に不安になります。
深夜、さびついた自転車の
鎖のきしみだけある。

住むための場所のあいだに
大きな道。
車道は透明な防音壁で
区切られています。

なんとなくこの道を
くだれば我が家という気がし、
こいだのですけど、
こげどもこげども壁。
だんだん気がへんになる。
まよいこむという言葉の通り、
異次元の袋小路にはいりこみ
逃げられないような不安。

人間は楽。
あたまのよいひとが
暮らしのためのものを
いつも造ってくれるのだ。
透明な壁の防音効果はすごい。
すぐそこを走る車は見えるのに
音はずっと遠くのよう。
片耳を癈いたかとおもう。
もう片方の耳は鬱々と咲く
赤い椿の花壇に傾聴。
壁のむこうを流れる鉄塊は
すべてこの壁に投射された
映像のような気もしてきた。

そこにふと水のにおい。
春の水のにおいです。
ああ、川だ。
不気味な道は川にあたり、
既知となりました。
昔からあるこの川に
昔からだれもが
嗚呼川だと思ったのでしょう。
流れに救われて
漕ぐのも軽やかに感じるのでした。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻