にっぽんハム

2、3歳ごろの記憶で鮮明に覚えているものがある。まだ言葉を話せなかったが、大人がなにを言っているかはわかる、そういうときのおもいでである。

家が狭く、寝ているところと食べるところが同じ部屋だった。朝、布団で目を覚ますと、ちゃぶ台のうえに食べ物が並べられているのが見えた。いや、においがさきだったかもしれない、そのときから目が悪かったはずだから。食べ物のにおいがして目を開けて、実際にそこに食べ物があるという、いま思えば大変恵まれて贅沢なことだ。

這っていくと、ヤマザキ春のパン祭りのあの白い皿が何枚か並べられていて、その上にそれぞれブロッコリーの茹でたもの、切られた卵焼き、焼かれたウインナーなどが置かれている。

ぼくは素手でウインナーやブロッコリーを掴んで、口の中にいれる。すると台所のほうから母親がのぞいてきて、なにかを言われる。強く叱られるわけでもなかったようにおもう、あ、また食べてるというようなことを言われるのだった。

特にウインナーというものは依存性のある味付けであるため、幼児のころからウインナー依存となった私はこれら加工肉の総称を「にっぽんハム」とし、よくせがんだ。

あの朝のおかずたちは兄の弁当の具だった。
兄もべつだんそれを怒らなかった。
そこからはじまり、私は兄のさまざまなものを毀損し、横領し、妨害してきた。
兄はべつだんそれを怒らなかった。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻