原チャ拭く子

雨ふるのかふらないのかはっきりしなさい、まったく。自転車をこぎながら、降らないうちになるべく進もうと気持ちがあせったとき、きれいな戸建てから出てきた高校生とおぼしき男の子が、その軒先に停められてある原動機付自転車の桃色の車体と座席を、布切れで丹念に拭いているところを通りすぎ、ぼくはもう一度子どもにもどって、あのときの銭湯からやり直した。風呂からあがって、じぶんの体を拭く人たちに似ていたから。

ぼくはからだをふくおとなたちをじっとみていた。だれもみなてぎわよく、すばやいのにふきのこしがない。じぶんのかたちをよくわかっている。なんぜんかいもなんまんかいもからだをふくのだ。ぼくもこれから、あんなにじょうずにからだをふくのだ、と思っていた。

二十余年が経ち、勾配のある橋のまんなかで、あの男の子の乗る薄桃の原チャに追い越されたぼくは、いつからだったろうか、じぶんのかたちがわからないままなのだ。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻