器用ね

30キロほど自転車をこいだあと、15キロほどまえにさようならをした友人から言葉が届いた。

それに対して、自転車を漕ぎすぎて今、臀部が痛くなってきました、休憩をしていますよと返信した。東京と隣の県をつなぐ橋を越え、見知った町にたどりついたころだった。

「左右のケツを使い分けている」とふざけて言った。しかし友人は、私もそれを駆使しながらあなたと並走していましたがね、とあたりまえに言った。

左右のケツを使い分けるというのはなに?
それは、体重をどちらかひとつのケツに乗せることで、ケツ全体が疲弊することを避けるための技術です。わたしは、いまさっき人生ではじめてこの技を習得したというのに、彼はぼくといるあいだあたりまえに左右のケツを使い分けていたのだ。なんと器用なことだろう。

器用な人というのはあたりまえに、大抵の人ができないことをこなしている。
「ねえ、いまこうしてたでしょ、なにそれ」
「え、それがふつうじゃないの」
「ふつうじゃないよ、そんなことしているの、あなただけです。すごい」
そういうことがよくある。
わたしなんて不器用な部類なので、ケツの左右を使い分けているのあなただけですよ、そう言われるかなと思って披露したときにはもうみんなあたりまえにケツを使い分けていて、なんだか恥ずかしい、そういうふうになりがちだぞ。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻