日本橋

八重洲地下街の珈琲屋を出たあと豆乳茶の余韻で我ながら理不尽な怒りを希釈し、丸善のまえを歩くころには平気になった。生まれてからこれまで聞こえてきた言葉のどこからが幻聴で、どこまでがそうでなかったか、わかるようになるために東京がある。

ぼくは自己ではなく、この日は確かに前景となり、町ゆく海の日の人々をながめた。

カレー屋でとなりにいた夫妻のことをまた思い返す。ふたりでカレーをおえてふたりで口を拭ったあと、しばらくなにも言わない時間があって、妻のほうが帽子を手渡した。夫が帽子をかぶり、同時に妻も帽子をかぶった、おそろいの藁の。夫が立ち上がりおもむろに手をのばすので、妻は鞄の持ち手をそこに差しだした。そのまま会計台へ歩いていく夫、そのあいだ妻はなにか身支度をして、会計の済んだところにうしろからついて歩いて、ふたり店を出ていった。

地下鉄への階段を降りるとき、陰が暗かった。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻