たばこ

売れなくて賞味期限のきれた在庫を整理した。送り返すためにダンボールにつめた。

そのなかに一箱だけ、キャメルシガーのメンソールがあった。一箱だけどうしても売れなかったのだけれど、シガーには賞味期限が設定されていないのでそれを理由に返品することもできない。一箱だけのために売り場をつくるのも面倒なので、じぶんで買った。

家に帰って吸ってみると、去年の夏、はじめて吸ったたばこと同じ味がした。一度に一年の煙が肺まで遡ってきた。たばこを教えてくれた友達と同じ場所にあけた穴をメンソールが通る。ゆうとくんのまねをしてキャメルにした。

両親はふたりともセブンスターだった。どちらかがどちらかのまねをしたのかもしれないといまさらながらそういうふうに見ると、なんだか切ない。

私はあした音楽をする。ゆうとくんも音楽をしている。私のは遊びだが、彼はずっと立派にやっている。調べたらすぐに顔を見られるのだけれど、もう見ないことにしている。

「君の知らないところで生きて
ぼくはたまたま生き延びただけ」

ツラちゃんと聴いたかつ江の歌。

あしたやる曲のなかにはツラちゃんに聴かせたことのあるものもある。数年前、同じライブハウスによく出ている人の曲、聴いてみて、といってSoundCloudのリンクを送った。わあ、いいねえと言ってくれたツラちゃん。
あしたやるんだ。
ツラちゃんから「形見分け」と言って渡されたウォークマン、聴けないくせに、ぼくじぶんの曲聴かせてばっかりじゃん。

ツラちゃんと一緒にたばこ吸えなかった。そのときはまだたばこを吸わなかったから。初めて会ったとき、あの通りの角にある灰皿でツラちゃんのたばこを待ったね。あのときにもどって今までのいろんな話をしたい。ツラちゃんのいろんな話は聞かないくせに、ぼくじぶんの話聞かせてばっかりじゃん。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻