言葉と拳
にんげんには表現する方法が少ないので、言葉。花のように獣のように全身で愛を体現できれば楽なのに、いまある愉快な余白をすべて捨てたってそのほうが楽なのに、言葉とかいう万能にみせかけた欠陥品をふりかざしてじぶんの傷口ばかりひろげて。
「水着の女の子すげえエロい」
はじめて訪れた海で、はじめて人を殴った。
「殴れ!」
殴ってからはじめて、あれぼくべつにこの人に怒っているわけではないよな、塩辛い水はとめどなく循環した、人間の体は小さな海なのだと生物学の講義を聞いてからなんとなく思いつづけていたことがはっきりと目の前に例示された。どんなに還ろうとしても、まだそのときではないのである。
「はるちゃんは足つくけど、俺はもう足つかないよう」
「それとおなじことです」
「なあに。わからない」
ぼくの海は空っぽだった、もうなにも残っていない、なにも流入してこない、だれにも注ぐことができない、これまでもこれからも、停滞せざるを得ない不具の体たちを置きざりにして流動するあなたたちの海、海、海。
五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻