生霊

眠りにおちるすこしまえ、
きょうの続きの夢をみる。
耳元で名前を呼ばれたり、
浮遊する意識の外側を守る
薄っぺらなぼくの体の背面から
架空の両腕が伸びてきて、
現実に抱きよせて
ベッドのうえに戻したりする。
目を覚まして、慌てる。
残る感覚はすべて
子どものころ、
母親に抱かれて寝たときの。
ふたりの心地よさのための
抱合ではなく、
なにか大きな流れのなかに
必然としてある抱合だった。

生きている相手の幻でさえ
悲しかった。
ぼくは物心ついたころから
準備をしてきた。
多臓器不全の祖父の
むくんだ手を握った病室から、
今日まで、
ずっと準備をしている。
それでも間に合わない早さで、
ぼくは幻を感じる。
もしももうだれにも
会えなくなったとき、
その夜を越えることができるのか。
触れたところの暖かさが怖い。
二度と思い出せないくらい、
悲しくないくらい、
心の外側にあってほしい、
すべての愛するものは。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻