塔のふもとの町には人々が集まって騒いでいた。食べ物屋はどこも満員で、番号の書かれた札を渡されて、呼ばれるまで待つという始末だった。

ぼくたちの目当ては、とある漫画を呼び物にして一か月間だけ開かれる喫茶店であった。ふもとの町はいくつかの建造物のなかに詰め込まれていて、小さな喫茶室を見つけるのに苦労した。

この喫茶店は大盛況で、ここでも数字の札を持たされる。七時間待ちとのことだった。 

しかたがない。あまり塔以外に来る理由のない土地であるから、隣の駅まで散策することにした。

碁盤の目状の道は大戦で焦土と化したことの余波であろうと、共歩きの者が言った。
その盤面の右上から脱出して道なりに進んだ先で一軒、また折り返して商店街のなかの一軒、また塔の近くで一軒、よさそうな喫茶店に入り茶をした。
最後の喫茶店は写真師が営んでいるらしい喫茶店であった。定かではない。店主であろうと推測するには幼すぎる、少年にも見える小柄の男性が、なにか一番この店のことをよくわかっていそうなことを馴染みの客と話していたので、そしてその声が「ぼくも半世紀生きてきましたが」と前置きしてから話すような気品と丸さを帯びていたので、おそらくこの男の子が店主だろうと決めつけた。
前二軒で洋菓子ばかり食べてもう甘味は内臓によくなかろうと、グリーンティーなるものを頼んだ。
しかしグリーンティーというものは、色は緑であるが緑茶のことではなく、なにか緑色のとても甘い飲み物であった。
暮れていく日を見ながら共歩きの人は「グリーンティーは甘いものだと相場が決まっているよ」と教えてくださった。
もし、最初に目当ての店に入ってしまっていたら、グリーンティーが甘い飲み物だということも知らずに生きていた。七時間待たされて得をした。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻