反対です〜

晴れ着の子供たちと菊の花、親にでもならぬかぎりあの祝詞を記憶に残すことのできない惜しさ。

弓道場というものの外側をはじめて歩いて覗き、物珍しさでゆっくり通りすぎるあいだに聞こえた鳴弦のそういえばたったひとつだったことなどにおどろく。いっ矢に込めるあまりの時間のながさと我々のいのちの一瞬! 七五三の彼らにも菊花にもおなじ、一回きりの時間しか与えられていない。

同伴者は昼食をしたカレー屋に携帯電話を忘れてしまっていた。取りに戻ったのは夕方。

店の戸を開けて中にはいるとこの料理屋の女将らしきインド人が既に察した様子で「いらっしゃいませ〜」と、給仕をするのとおなじ優しい調子で言う。

携帯電話ありませんでしたか、とたずねると、
「はい〜ここにあります〜」
と、笑顔で棚を指さす。持ち主は丁寧に礼を言ってそれを受け取り、僕達は店をあとにしようとした。
「またお越しください〜」
これは女将の優しい皮肉である。

引き戸を閉める際、同伴者が戸のないほうの壁に誤って手を伸ばしたとき、
「反対です〜」
すかさずインド女将。インド女将鋭すぎる。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻