割れている物

ガラスの器が好き。
みんな好きでしょ。
ガラスに液体を湛えてごらんなさい。
光を飲んでいるみたいでしょう。
茶だろうが酒だろうが
ガラスで喫したら
たちまち光である。

ただ心で好きなだけで、
実際のところ熱心ではない。
だから家にあるガラスは
トリスについていたハイボール用のと、
ワインについてたグラスがふたつと、
レモンサワーについてたコップ。

おまけと侮るなかれ。
トリスのグラスはよかった。
丸くてかわいらしく、
口の当たり方もよく、
なにを飲んでもおいしかった。

まあそのすべて割れたんですけれども。

すべて割れた。
割れたというとガラスがおのずから割れやがったかのような言い方だがもちろん私の過失で割った。

割れたときはとても悲しい。
器は大抵、完全な形をしている。
それが割れて、不完全になる。
割れたガラスはもう終わりである。
一瞬で全機能を停止する。
突然だめになる。
とても悲しい。
そのくせ、どうして割ったのか、
犯人である私も覚えていない。
透明だからだろうか
終わりかたが惨いわりに。

洗っているときに手が滑って。
棚のなかでほかの食器とぶつかって。
床に落として。
テーブルに倒して。
あっとおもう。
あっ!
と思ったときにはもう
光がこなごなに散らばっているわけ。

器たちを包む。
割れ物とは
割れる前の状態のことだと気づく。
割れたらもう割れ物ではない。
割れている物だ。

最初のひとつを包んだまま、
外に持っていくのがおっくうで、
部屋のすみにおいておいたら、
ついにすべてが割れたので、
並べた。
罪。

割れ物という呼び方も
あたかもこのひとたちが
じぶんから割れたような感がある。
割れるのだからしかたない。
そういう居直り。
正しくは割り物ではないか。
ぼくが割ってるんだから
割れ物ではなく割り物である。

そういえば、
無印良品のコップは割れない。
あるときは背丈から落としたが
フローリングでバウンドした。
たくましいコップ。
ガラスは割れてくれないとな。
そう思ったりもする自分がいや。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻