透明になるときの音

むかしから有名だという
パン屋に入ると
むかしから生きている人たちが
狭い店内にぱんぱんで
パンとパンのあいだで
パンを選んでいる。

パンのショーケースは
店の奥までつづいており、
その向こうがわに五、六人
パン売りびとが横並びにいて、
パン買いびとたちが
パンを指さしながら
パンの名前を言うのを待っている。

なにがいいかときかれ、
カレーパン、桜、栗と答えた。
一緒に歩いてきた人は
右から二番目のパン売りに声をかけ
カレーパン、桜、栗と言った。
男のいとけないパン売りは
お兄さん云々と言いながら
ふくろにパンをつめた。
ええそうですねと、
わたしの隣にいる人が答えた。
すごい腕してるから、
何年くらいしてるんですか。
もう三十何年かな。
すごいですね、
ぼくもやってるんですが全然
太くならなくて。
それは気合が足りないよ。
わたしはパンを受けとりながら
うんざりして歩道を眺めた。
心底うんざりした。
パンのにおいとパンを買う老人たちの声。
透明な水だったらどんなにか
あたたかい薄曇りだろう。
反射して光になる。
濁った私は水ですらなく
ぶよぶよと干からびていく。
どろどろに朽ちていく身体。


五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻