花篋をば賜りけり

平家物語は高校生のときに、祇園精舎、那須与一、大原御幸だけかいつまんで習った記憶がある。祇園精舎は暗記させられる部分だし那須与一はかっこいいシーンだからやるとして、大原御幸を授業でやるというのはあまり聞かない気がする。

大原御幸のなかに花がたみをば賜りけりという表現がある。

後白河院が到着したときたまたま建礼門院は花摘みに出かけているところで、別の尼が後白河院を迎える。つつじの花を摘んだ花籠をたずさえて戻ってきた建礼門院は後白河院の姿を認め、花籠を持ったまま「恥ずかしい、会いたくない、消えてしまいたい」などと思って立ちつくした。それを見た尼が花籠を受け取る。

この「花籠を受け取った」の部分が文語だと「花篋をば賜りけり」ということになる。
まずはながたみをばたまわりけりという音の美しさたるや。
あとそれ以上に、
ただ花籠を受けとっただけの場面を
わざわざ書いているところに
表現の細やかさが感じられる。
映画やドラマのある現代なら
だれもが思いつきそうなシーンだが、
西洋の文学も演劇もまだ
入ってきていない時代に
よくこんなにも端的な
情景描写が成されたものだ。
しかもこのシーン、
おそらく史実とはあまり関係のない、
完全な物語である。
尼や女院、後白河院の発話は
当時の筆者に伝え聞かされた
ものである可能性もあろうが、
尼が花籠を受けとったのは
明らかに創作である。
後白河院が
「それで女院が山から降りてきて〜
つつじの花を摘んでて〜
気まずそうにしてて〜
それを尼が受けとってた〜」
と、だれかに話したのかも
しれないけれども、
まあないでしょう。

アニメの『平家物語』を今更み、
古典の再文脈化に感銘を受け、
(カワイイ・アニメ文化と
武士道の滅びの美学の融合)
思いだしたことでありました。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻