ぺろぺろまんじゅう

博物館で「すべすべまんじゅうがに」というとてもかわいい、つるつる、ぷっくりした蟹の標本を見ていたとき、私はぺろぺろまんじゅうの刑を思い出していた。

小学校の校長先生は「のだきら」と呼ばれていた。みずから呼ばせていた。名前はのだあきらなのだが、ドラキュラ伯爵のたぐい(?)で子どもの血を啜って生きているので、のだきらと呼びなさいとのことであった。
元々は、大きな声ではっきり話さないとのだあきらがドラキュラに聞こえてしまうからという教育のための説教だったのが、みずから望んでドラキュラになってしまった、のだきら。
特に悪い子が好きだそうである。だからいい子にしないとのだきら先生に食べられてしまうよ。

小学一年のこどもというのは生徒といえどもまだほとんど物心がついていない。教育と保育が同居しているような教室で読み聞かせとか部屋あそびとかをする、こどもの時間がたまに設けられていた。

我々に残された甘いこどもの時間にのだきらはさっそうと現れる。そして空想の話で子どもたちを沸かせるのである。

覚えているのはひとつだけなのだが、今でも覚えているということは印象が強いからである。
ある日暗い高架下を歩いていたら、血を流した男の死体がありました。先生はドラキュラなので平気なのですが、みんなは怖いとおもうので、暗い道を通って帰らずに明るくて人がたくさんいる道を通って帰りましょう。
という、下校のさいの注意であった。いちいちモチーフがおどろおどろしい。いま子どもにこんな話をしていることが親にバレたら結構問題になるとおもう。

さて、本題のぺろぺろまんじゅう。
きちんとできない、おりこうにできない子どもに課される罰である。教室などでうるさい子がいると「ぺろぺろまんじゅうするよ」と脅す、のだきら。しかもこれは女子限定の刑罰である。男子には「はなくそそうじ」という別のものが用意されていた。
執行の際、ぺろぺろまんじゅうは男子には見えないところで行われ、はなくそそうじは女子には見えないところで行われていた。そして具体的な内容も明かされなかった。だから現在に至るまでそれが一体なんなのかは、知らない。しかしなにかむごいことを想像させる音の響きである。
私は実際にはなくそそうじを施された男子生徒に話を伺ったことがあるが、彼の小鼻のあたりが赤くなっていた。物理的になにかをされたようでもあるし、しかし男子生徒はなにかすがすがしい様子で微笑んでいたから、そこまでひどいことはされていないようでもある。

ぺろぺろまんじゅうだぞ! といって追いかけられると、子どもたちはその言葉の面白さからきゃっきゃと喜んで逃げまわっていた。のだきらはかなり人気があった。
あれは一体なんだったのか。
ドラキュラのたぐい(?)というのをあれから一度も目にしない。私の空想だったのかとも思う。

すべすべまんじゅうがにには毒があるのでかわいくても飼えないということですが、要はフグ毒などとおなじことで、食べると死んでしまう毒なのであり、飼育しているぶんには問題ないみたいですよ。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻