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とんぎゅらすは糸あそびを始めた

50年も昔のことだ。
高度経済成長の時代で、世の中がどんどん便利になり、進化し、活気のある時代だった。
一方、これでよいのかと立ち止まってみる時代でもあった。自然回帰への文化の時代でもあった。

布を染める染色の勉強をしていて、次々と世の中に産み出される美しい布に心奪われた。
が、そんな時代だったので、より前の段階である、布をつくる勉強をしたいと思うようになった。

染色の先生がご紹介くださったはたおりの先生の教室で習い始めた。その当時としても懐かしみのある洋風のご自宅。働きながら、半ドンの土曜日に通った。

先生は、そののちに世界的にも高名になられる方だった。当時は先生もお若く、ペーペーの私は先生について予備知識もないままお気軽に入門したのだった。

いつでもゆったりと温かく受け止めてくださるすてきな先生だった。
染織の技はもちろんのことだが、元気で明るいデザインがすてきだった。私ははたおりをライフワークにしようと改めて心に決めたのだった。

休憩時間になると母上様がお茶とスイーツの準備をしてくださり、素敵な2年間を過ごしたのだった。

と、過去完了形になるのは、結婚と転居で通えなくなったからだ。

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それからは、楽しい家庭ではあったものの、どなた様もそうであるように、その時その時の仕事や子育てや介護やらで夢中で人生を過ごした。病気もしてやっと日々をめくっていく時もあった。

頭の中では染織への憧れがくるくる回っていて、時折足を突っ込んでみるものの、優先させなければならないことが目の前にあって、出した片足を引っ込めていた。かろうじて足跡だけはつけていたと思っていたい。

年月は経ち、必然的に婆様の仲間入りを果たしてしまった。

50年前の志はどうしたの? いつやるの? 残り時間は少ない。

人生のスタート時からこの世界に挑んできている方々を存じ上げておりますから、私なんぞはその遥か後ろからさえも追いかけるなんてことはできない。
だから、自分の居場所で自分なりに楽しめる作品づくりができたらいいなと思っている。

つくりたいものは、身の回りで役立ったり心地よい空間や時間を生み出したりしてくれるモノ。
自分が楽しんで作業をし、楽しんで使えるモノ。

そして、糸紡ぎをしたり、縫物をしたりすることもこの仕事に加えて、凡そ概ね糸へんのつくものに興味があるのでこの手仕事を「とんぎゅらすの糸あそび」と名前をつけて楽しむことにした。

現在また、幸い、情熱的で楽しい先生に出会うことができた。教えを受けながら、自分で試行錯誤しながらモノをつくっていきたいと思っている。

70代を「糸あそび」をして過ごそう。
そのために、健康に気をつけて活動寿命を少しでも長く保ちたい。

「とんぎゅらす」とは、子供時代のニックネームの変形であり、卒業制作の、染色した布からつくった大きな縫いぐるみのタイトルでもある。

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