全員桃太郎

昔々、あるところに、川が流れていました。何の変哲もない小さな川は、何千年、何万年、山から海へ、只々止めどなく流れていました。ある日、その川に突然、桃が流れてきました。地球史に残るほどの大きな桃でした。さらに驚くべきことに、桃はひとつ、またひとつ、上流から次々と流れてきたのです。何十個もの大きな桃たちは、小さな川をひしめき合いながら、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れていき、やがて海へ出ました。波にさらわれ、散り散りに漂流し始めると、かつて小さな川を狭そうに流れていた立派な桃たちは、ただのピンク色の小さな球体になり、黒っぽい点になり、そして青い大海原に飲み込まれてしまいました。あれほど大きな桃が一体どこからやってきたのか、それは永遠に、誰にもわかりません。この世界には、そもそも人がいないのですから。(終)

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