タイトル平成

元号の選定に関わった教育漢字を眺めながら考える

天皇陛下の退位が2年後になるだろうというニュースを目にします。およそ2年後には、皇太子さまの即位と共に、現在の「平成」からの改元が行われることでしょう。
元号はこれまでに(定説では)247あり、漢字は72字しか使われていないそうです。

元号の選定にあたっては、

ア 国民の理想としてふさわしいようなよい意味を持つものであること。
イ 漢字2字であること。
ウ 書きやすいこと。
エ 読みやすいこと。
オ これまでに元号又はおくり名として用いられたものでないこと。
カ 俗用されているものでないこと。
元号選定手続について(昭和54年10月23日閣議報告案)

が条件として定められているそうです。

「書きやすい」「読みやすい」というのは、小学校で習う程度の漢字ということでしょうか。確かに「明治」以降の元号は、全て教育漢字(小学校で習う漢字)で構成されています。というわけで、次の元号も教育漢字で構成されるかもしれないですね。

そう思い、教育漢字の中で元号にまつわる漢字がどれだけあるのか調べてまとめてみました。

実際に元号に使用されたことがある漢字はもちろんですが、「平成」の「成」の字がそれまで案として出されながら採用されておらず、今回が初採用だったことを踏まえ、今までの未採用案元号に使われたことがある漢字も確認しました(所功『年号の歴史 元号制度の史的研究 増補版』雄山閣Booksをもとに作成)。さらに、天皇の「おくり名」(=天皇名)で使われたことがある漢字も確認しました。


教育漢字内の元号使用字は49字で全体の5%

下記に、学年別漢字配当表に沿って、各学年ごとの漢字と、その中で元号の選定に関わったものをまとめています。現在の教育漢字1006字のうち、元号に使用された漢字は49字、未採用案での漢字は53字でした。ちなみに、次期学習指導要領では都道府県の漢字20字が新たに小学校で学習することになりそうなので、こちらも調査しています。

眺めてみましょう。

1年生で習う漢字です。元号使用字は7字で全体の12.5%というのは全学年で最も高い数値です。四角囲みは元号に10回以上使用されているものです。「天」は27回も使用されています。「大正」の「正」も19回の使用ですが、元号を研究していた森鴎外は、「正」は中国では縁起が良くない字として使用していないなどと批判しています(猪瀬直樹『天皇の影法師』中公文庫参照)。

2年生で習う漢字。「元」は27回使用。「大正」元号選定の際にあった<「光文」誤報事件>の「光」は、まだ元号に採用されていないんですね。「平成」選定の際に「文思」案があったという情報がありますが、最終案には入っていないみたいなので、「思」には印をつけていません。

3年生で習う漢字。「定」は16回も候補に挙がっていながら未採用だそうです。「幸」は候補にすらなっていないんですね。「安」は次の元号案の有力候補とも言われているようですが、「大正」「昭和」「平成」制定時の総理大臣の名前には元号と同じ漢字は使われていません。

4年生で習う漢字。「治」は元号に21回使われています。「功」は7回、「順」は8回候補に挙がっているが未採用です。「照」は一度もないようです。

5年生で習う漢字。「永」は全漢字中最多で27回も元号に使用されています。「応」も20回。「徳」も多いですが、「おくり名」として考えると気になることがあるようです。「平成」選定時の最終案には「正化」と「修文」があったそうですが、「修」はそれまで候補にも挙がったことがない漢字です。

6年生で習う漢字。6年生まで来ると少なくなりますね。画数が多い漢字が多くなるからでしょうか。

次期学習指導要領で追加予定の、都道府県の漢字です。「おくり名」として「奈」は使用されていますが、あんまり元号と関係が深そうな感じはないですね……。


次の元号、というより自分がそうあってほしいと願う未来への思いを漢字二字で考える

ここまで元号に関わった教育漢字を眺めてきましたが、それでは次の元号はというと……。うーむ。

「次の元号」と思うと、気が引けてしまいますが、「今年の漢字」のように、未来を願っての漢字2字を考えよう、と思うとあれこれ夢想したくなります。

今回の改元は明治以降の例と違い、生前退位であるから、厳粛さの中にも哀しさの少ない、温かさのあるものになるのかなと思います(そう願いたいです)。だから、それに見合った、やわらかさ、温かさ、明るさのある漢字がよいのではと考え、思いきって「」を浮かべました。

これまでの元号は中国の書物に出典があります。「桜」は日本と中国とで意味が違う言葉なのでそうした意味では用いられないですが、所功氏は「ただ今後は、日本の古典から採用されることもありうる」と述べていますから、全くないということではないかなと。。

元号で考えると、「桜和(おうわ)」「桜久(おうきゅう)」「桜寧(おうねい)」あたりでしょうか。

「寧」は教育漢字ではないですが、これまで48回も候補に挙がっている「無冠の帝王(?)」みたいな漢字ですので、挙げてみました。難点として、「桜」は5年生で習うけれど、「おう」の読みは中学校で学習されるというのはありますが……。

あとは、災害などの困難に手を取り合って乗り越えるという願いを込めて、「」はどうでしょう。

元号で考えると、「協中(きょうちゅう)」「協明(きょうめい)」「協永(きょうえい)」など。

「明治」のM、「大正」のT、「昭和」のS、「平成」のHのどれにも重ならないKの頭文字にもなります。「協」と「桜」を合わせて、「協桜(きょうおう)」なども浮かびますね。

仕事柄、漢字と向き合うことが多いですが、「元号」という観点でみると発見がいろいろとあり、それぞれの漢字の新たな特徴、魅力を知ることになりました。

新しい時代へとポジティブに向き合えるような元号を望みたいです。

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