タイトル字2

漢字の許容が学校のテストに反映されるのかどうかと、そこからどう考えるか

漢字の字体がどこまで許容されるかについては、以前「どこまでが漢字の細かな違いなのか」で考察しました。

許容漢字の問題については、学校教育、特にテストの採点に影響するのかどうかを考えなければなりません(とまどっている現場もあるのかなと思います……)。

今回は、もし学校の漢字テストに関わる教材を作ることになったらと想定して、自分なりの解釈をまとめていきたいと思います。


漢字の許容は、学校の指導では難しい?

許容漢字の指針を示したのであれば、どの場面でも、それが学校のテストであっても適用されるのかというと、そうではないようです。

朝日新聞の解説記事「(いちからわかる!)常用漢字の字形、国が指針を出したね」にこのようなことが書かれています。

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 ホ もう、漢字ドリルはやらなくてもいいのか?
 A そう甘(あま)くはない。学校で習う字の形をまず基本として覚(おぼ)えておくことは大事なことだ。授業で習った通りに書けているかを確かめるテストでは、×になることもあるよ。今回の指針は、学校内でのテストではなく、採用試験や資格試験などでは、細かな違いで正誤(せいご)を決めることのないように提案しているんだ。

朝日新聞

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この記事にある、「×になることもある」とは本当でしょうか。指針を確認してみます。

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Q26 学校のテスト等との関係
児童が漢字の書き取りテストで,教科書の字とは違うものの「字体についての解説」では認められている形の字を書いてきました。このような場合は,正答として認めるべきなのでしょうか。
A「児童生徒が書いた漢字の評価については,指導した字形以外の字形であっても,指導の場面や状況を踏まえつつ,柔軟に評価すること」とされています。

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)(案)

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「柔軟に評価する」ということが、「×になることもある」でしょうか。やっぱりテストでは×になることもあるんでしょうね。

そもそも、常用漢字表の考えでは、字体は定まったものではなく「概念」であるので、その漢字であるという骨組みが過不足なくあれば間違いではない、としているはず。

それなのに、×になることがあるのは、どうしてなんでしょう?


学校教育では、「標準」の字体がある

ここで一つ知っておかなければならないのは、「学習指導要領」に示された考え方です。

学習指導要領では、

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(ウ) 漢字の指導においては,学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とすること。

小学校学習指導要領 国語

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とあり、その解説として、

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(ウ)は,漢字の標準的な字体の拠り所を示している。漢字の指導の際には,学習指導要領の「学年別漢字配当表」に示された漢字の字体を標準として指導することを示している。しかし,この「標準」とは,字体に対する一つの手掛かりを示すものであり,これ以外を誤りとするものではない。児童の書く文字を評価する場合には,「常用漢字表」(昭和56年内閣告示)の「前書き」にある活字のデザイン上の差異,活字と筆写の楷書との関係なども考慮することが望ましい。

小学校学習指導要領解説 国語

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とあります。

学校教育では、「学年別漢字配当表」に示された漢字の字体を「標準」として指導しているのですね。

ちなみに、この解説は2010年に常用漢字が改定される前の文章ですが、改定後の対応として、

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○ 児童生徒が書いた漢字の評価については,指導した字形以外の字形であっても,指導の場面や状況を踏まえつつ,柔軟に評価することが適当。

「常用漢字表改定に伴う学校教育上の対応について」(まとめ)

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としています。考え方に変化はないですね。

で、この学習指導要領で示された「学年別漢字配当表」の字体をもとに、各教科書会社はそれぞれの教科書体を作成します。この教科書体は、教科書会社によって少しずつ違いがあります(「園」の十二画目を「はらう」か「とめる」かなど)。

……長々と書いてしまったので、ここまでを図にしてみました。

図の中に( )つきで書いていますが、常用漢字表にも掲載するための便宜上の字体があります。また、学習指導要領解説では「標準」以外の字体を誤りとするものではないと書かれています。

常用漢字表の考え方の中にあるけれども、学校教育ではまず漢字を覚えさせるという指導をしていかなければならないので、その手本として学習指導要領で「標準」の字体を提示しています。

国語の教科書の全国採択率1位の光村図書では、HPで今回の指針の考え方をしっかりと紹介したうえで、学校での漢字学習について最後にこのように記しています。

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子どもたちが漢字を学ぶ際に,初めから複数の字形が示されていると混乱を招くかもしれません。最初は,例えば教科書体(手書き文字に近い書体)のような標準形で学習し,書き慣れてくる中で自然発生的に標準形以外の形が見られるようになったときに,そのルールを知っていくのがよいでしょう。

教科書の言葉 Q&A 第14回 漢字の正しい書き方とは?

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漢字の標準形というのは、漢字学習において必要なものだということですね。


目指す字体があると、正誤の細かな判断基準が出てきてしまう

各教科書会社は、「標準」字体をもとに教科書体を作成してはいますが、漢字の字形の細かな指導は、書写で少し扱うぐらいしかしていません(国語の教科書には書かれていません)。

ではどこかというと、「とめる」「はねる」「長く書く」などの字形の細かなポイントに基づく書き方の指導は、漢字ドリルなどの補助教材に網羅されています。

児童は、漢字ドリルに書かれたポイントに沿って漢字を学習していくということですね。

そして、この書き方ポイントがあることによって、学校のテストでは「授業で習った通りに書けているか」を問われ、「細かな」正誤判断基準が発生するのではないかと思います。

注意しておきたいのは、これは学習指導要領で定める「標準」字体を正しく書けているかによる正誤判断だということです。

だから、採用試験や漢字検定では、こうした正誤判断基準はないということです(高校入試はどうなんでしょう…? いろいろ考え方がありそうです)。


書き方ポイントと許容例がぶつからないようにしたい

整理したところで……。

指針での漢字の許容を影響させるかどうかは各漢字ドリルの判断になると思います。

漢字ドリルの書き方ポイントに「はねるよ」とあれば、テストでははねることが正答基準になるでしょう。

とはいえ、今回の指針で示された具体的な許容例と真っ向からぶつかる書き方ポイントを掲載するのは、どうなんだろうと思います。

漢字ドリルの使用者から、文化庁の指針では許容例だ、と指摘されたら、どう説明すればいいのだろうかと困ってしまうので……。

そうしたこれまでの考察から判断すると、「もし漢字ドリルで漢字の書き方ポイントを作成することになったら、指針での許容例と対立しないように提示すること」という結論に達しました。

この結論が、「文字の細部に必要以上の注意が向けられ,本来であれば問題にならない違いによって,漢字の正誤が決められる傾向が生じている。(常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)の概要)」問題に対する、学校教育に配慮した解決法であればいいな、と思っています。

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