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憧れの獅子に会いに 山形「酒田まつり」

2年前のお正月、夫の実家のリビングにて当時1歳の長男はテレビを指さして言った。
「アッ!」
大人たちは言った。あれは獅子やねぇ。しし。
長男は気に入ったようでたどたどしく何度も繰り返していた。
「シ、シ。シ、シ。」

それ以来『獅子舞』は彼のお気に入りコンテンツとなった。YouTubeで関連動画を探してはジッと見入る長男。


2歳になり、流暢にしゃべるようになった長男は言った。
「チョウナンくんは、シシに会いたい。」
彼の指す「シシ」。それはYouTubeで彼が最も気に入っている動画に登場する獅子、山形県酒田市の「獅子パックン」だ。
公道にたたずむ巨大な獅子が、ワッショイ!のかけごえと共に子どもをパクリパクリと噛む。子どもを全身丸々飲み込んでしまう獅子は、大人が見ても大迫力だ。長男よ、怖くないのかね。

獅子パックンのお祭り、酒田まつりは毎年5月19、20日に行われる。

今年の酒田まつり、獅子パックンが現れる20日本祭りは月曜であった。
獅子パックンに会いに行くには、幼稚園を休まねばならない。
入園早々おやすみのご相談もなんですけど……とためらいつつ、私は担任の先生に1日欠席したい旨を相談してみた。
先生は目を輝かせて言った。
「それは素敵ですね!おやすみ大丈夫ですよ。チョウナンくんの興味があることを、どんどん経験させてあげてください!」

夫も有給をとり、宿泊先もおさえた。土日月の2泊3日、獅子パックンに会いに行く旅に出かけよう。

山形は一見地味であるが(失礼)、子どもの喜びそうな場所を探してみると案外行くところがある(失礼)のである。
酒田まつり前に立ち寄った山形各所もとても良かった。子どもも親も大満足であった。しかし今日は獅子パックンのお話、また別の機会に紹介する。


土日の山形旅行をたっぷり楽しんで、月曜、酒田まつり本祭りの日がやってきた。暑すぎない快晴。祭り日和だ。お祭り会場から少し離れた駐車場に車を置いて、獅子パックンポイントに向かった。

長男が獅子パックンに出会ってから1年半、3歳の彼にとって人生のほぼ半分にわたり想い焦がれていた獅子と、とうとう対面する。
「シシパックンはどこ?あっち?」胸の高まりが聞こえるかのような足取りで、長男は駆けていく。

風にのって、耳に馴染んだ「ピッピッ、ワッショイ」という笛の音とかけ声が聞こえてくる。YouTubeで幾度となく聞いたリズムだ。

歩行者天国となった目の前の交差点の左手から、獅子パックンがヌッと現れた。小型バスに獅子頭が付いたかのような大きさだ。

獅子パックンは交差点を左折して、奥へと歩を進める。
「まって!シシパックン!まって!」
大丈夫、獅子パックンは向こうで待っていてくれるよ。転ばないようにゆっくり行こうか。


獅子パックンポイントでは、すでに十数人が列を作っていた。
長男は列に並ばず、獅子パックンを近くで眺めていたいらしい。
夫に付き添ってもらって、長男は獅子パックンの真横の歩道の縁石に座って待つことにし、私と次男が地元の方々に混じって並ぶ。

獅子パックンが始まる。
列の先頭の子が獅子の口内に座らされる。「ヨイショー!ヨイショー!ヨイショー!」という威勢の良いかけ声と共に獅子が口をパクパクさせる。やはり怖いのだろう。子どもの泣く声が聞こえた。

子どもたちが次々に飲み込まれパックンされる様子を、長男は神妙な面持ちで見つめ微動だにしなかった。
そろそろ我が家の順番である。夫と長男も列に戻り、長男は正面から獅子と対峙した。生まれてこのかた、ここまで真剣な顔になったことがあっただろうか。3歳でも「覚悟を決めた顔」をするのだ。

順番が来た。獅子の口内に子どもたちを預ける。
長男はキリッとした表情を崩さない。次男はすでに泣きそうだ。
「ヨイショー!ヨイショー!ヨイショー!」

獅子に噛んでもらった子どもたちを迎えに行く。
次男は両手を伸ばし、母に助けを求める顔でギャーンと泣いた。
長男は涼しい顔をして、父に抱えてもらって地面にスタッと降り立った。
「チョウナンくん、シシは怖くないの。」
やり切った達成感、誇りに満ちた表情だった。3歳あなどれん。


YouTubeで見かけなければ、それに長男が興味を持たなければ、知らなかった祭り。子どもの興味関心に付き合う旅は、親にとっても新しい発見の連続で、クセになりそうだ。

どこも混み合うお盆休み。エアコンのきいた室内で、親子でいろんな祭り動画を見ながら子が「ここに行ってみたい。」と言うのを待ち、旅のプランを立ててみるのもオツかもしれない。

子どもに加え夫も体調が芳しくない我が家の今年の夏は、そうやってゆるゆる過ごそう。


参考までに、1歳の長男が魅了されていた獅子パックン動画はこちら。
(酒田ではなく、浦安に出張してきた獅子パックンの様子である。)

私たちが行った日の獅子パックンもアップされていた。


画面の向こうの憧れに、行動すれば手が届くことを知った長男は、先日テレビを見ていて「チョウナンくん、ここに行きたいな。」と言った。
テレビに写っていたのは、フィンランド・ヘルシンキのカフェ。(長男はなぜか、お洒落カフェが大好きである。)……すぐには行けないかなぁ、と口ごもる母に「行けるよ!明日行こう!」とせがむ息子。
子どもがいない時代、貯金など気にせず、思い立ったらすぐ航空券を取ってしまう時期がママにもあったよ。でも、今は家計というものがだな。

夢は現実と地続きであることを知ってほしいから、これからも出来るだけ君の希望に沿った旅をしようと思っている。ヘルシンキはちょっと待ってくれ。

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