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【初期研修医さん向け】手技がうまくなりたい!と思ったときにやってほしい、3つのコト。


いきなりですが、皆さん「さしもの」は得意ですか?

医療現場で働き始めて、真っ先に直面するのが「さしもの」をはじめとした手技の数々。採血とか、点滴とか、血ガスとか、中心静脈穿刺とか、腰椎穿刺とか、胃管とか。麻酔科に回れば、気管挿管や脊髄くも膜下麻酔をする機会もあるかもしれません。

こういった手技は医療行為には必要不可欠です。ですが、一朝一夕で習得できるものではありません。

今回は「手技が苦手!」「なんでできないのかわからない!」「一日も早くうまくなりたい!」という若い先生方に、少しでも早く上達するための私なりのステップを紹介します。


大前提として、医療行為には必ず「適用」があります。私たちが、自分以外の人を針で刺したり、切ったりできるのは、その行為が「医療」だからです。なので、手技を行う際は、なぜそれが必要なのかという適用をしっかりと理解し、手技で起こりうる合併症やリスクを頭に入れた上で行ってください。


ステップ① 分解する


どんな手技も、最初は「誰かがやっているのを見る」ことから始まります。

誰かの手技を見て学ぶ。

簡単なことのように思えますが、ただ漫然と見ているだけでは身につきません。ただ見るのではなく、一つ一つの動きを「分解」して観察するのが大事です。

たとえば末梢静脈路を確保する場合。

ある先生が、さっと駆血帯を結び、あっという間に穿刺したとしましょう。この時、「上手だな」で終わってしまったら、実にもったいないです。

その先生はまず何を準備していましたか?
準備したものをどこに置いていましたか?
患者さんの腕をどこに置き、どれくらいの高さにしていましたか?
血管に対する体の角度は?
針の持ち方は? 刺入点は? 刺入角度は?
逆血があったらどれくらいの角度に寝かせて、何mm進めましたか?
そのとき、左手は何をしていましたか?

ほんの数分の間に、いくつもの工程が隠されています。その工程を、できるだけ細かく洗い出してください。


上手な人の手技というのは、迷いがなく、流れるようにスムーズです。あまりにもスムーズすぎて、分解できないこともあります。ですが「うまい人がやっていることを上手に真似する」ためには、工程を一つ一つ分解していくことが大切です。


分解できない!という場合は、手技を解説している本を読みましょう。なんでもいいです。先輩からもらったものでも、研修医室にあるものでも構いません。手技系の書籍というのは、とにかく「手技の分解」をしています。


分解どころか、そもそも「器具の名前がわからない」方は、それを勉強することから始めましょう。輸液ポンプにシリンジポンプ、翼状針にサーフロー、CVにPICCにブラッドアクセス。言葉を知らなければ、分解はできません。

10年くらい昔になりますが、私が研修医の頃は、この本を読んでいました。(古い本ですが、わかりやすく描かれていて、とても詳しいです)




ステップ② 言語化する


手技が分解できたら、言葉にしてください。見たものを「言葉」にすることで、はじめて「再現」できます。

言葉はなんでもいいです。たとえば静脈を穿刺するとき、血管の結合部から1mmくらい離れたところから刺しているとか。動脈穿刺のときは手首をけっこう反らしているな、とか。とにかく、言葉にする。できれば、それを紙に書いたり声に出したりしてください。自分の外に出すことで、より理解は定着します。


麻酔科3年目のとき、言語化がものすごく上手な先生に出会いました。

乳児の中心静脈穿刺をする際に指導を受けたのですが、肩枕のサイズ、首の傾ける角度、エコーの持ち方、皮膚に当てる角度、穿刺部位、穿刺角度をすべて「言葉」で指示されていて、それがすべて的確。さらには「今、穿刺した場所から、何度で刺入したら何mm先で針の先端が見えるか考えて刺せ」と言われたときは、全身から汗が吹き出したのを覚えています。(幸い、穿刺は1回で無事に終わりました)

後からうかがうと、その先生は実は不器用だったそうです。不器用だから「なんとなく」ではうまく行かない。だからこそ、自分がなにを意図して、なにをして、どうすればできるのかを言語化して、とことん突き詰められたのだと思います。


余談ですが、別の先生からも「あなたはそれなりにセンスはあるけど、センスで終わったらそれ以上うまくはならない」と指摘されました。世の中には、抜群ではないけれど、”ちょっとセンスがある”人がいます。ちょっとセンスがあると、簡単なものは苦労せずにできてしまう。けれど、難しいものはできないまま終わってしまうと。他の人が80%の精度で出来るものを、99.9%の確率まで上げるのが麻酔科医の仕事です。それ以来、私は「自分がなにをやっているか」をそれまで以上に意識して言語化するようになりました。


「自分の言葉で言語化できない」場合は、手技の本を読みましょう。私のおすすめはこちらです。麻酔科医向けですが、麻酔科志望でなくとも、静脈や動脈、中心静脈穿刺に関して非常に参考になると思います。



ステップ③ 一般化する


実際に患者さんに対して手技を行ったら、PDCAを回しましょう。PDCAとは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のサイクルを繰り返し行うことで、継続的な業務の改善を促す技法です。

PDCAは古い!と言われることもありますが、「個人の手技の質を評価し向上させる」ためには十分有用だと思っています。手技に限らず、「医師としてやって行くためには、絶えずセルフフィードバッグが大切だ」と、先輩から教わりました。


自分が行う手技を分解して言語化し、手順を想定する(Plan:計画)。
実際に手技を行います(Do:実行)。
手技を振り返り、できたこと、できなかったことを考えます(Check:評価)。
なぜうまくできたのか、なぜできなかったのか。できたポイントと改善点を探します(Action:改善)。


「改善点」を探すときに是非やってほしいのが「一般化」です。

患者さんはひとりひとり違います。年齢も、痛みの感じ方も、手技の難しさも。だから目の前の患者さんに対して「できた」「できなかった」と一喜一憂するのではなく(したくなる気持ちは十分わかりますが)「次の患者さんでもうまくやるにはどうしたらいいだろう」と考えてみてください。

ごくごく簡単なことですが、「身長155cm以下でBMI 30以上の妊婦さんは椎間が触れにくい」とか「硬膜外麻酔で同じ場所から穿刺するのは2回まで、3回目からは場所を帰る」とか「扁桃肥大の子どもを麻酔するときは、本人が寝ている姿勢を確認する」などです。

視点を少し高い場所に持つことで、「目の前」の経験を「将来」へと活かす。臨床能力が高い人は、この一般化がとても上手だと感じています。


一般化は普段の診療や臨床推論でも役立つと思います。
以前、小奇形の手術歴がある患者さんがいました。既往歴や問診票では、小奇形は一つだけと記載がありました。ですが後日、その方は幼少期に別の奇形に対して手術をされていたことがわかりました。
この事象だけを見ると「患者さんの既往歴を聴取しきれなかった」で終わります。ですがこれを「奇形が1つあったら、2つめを探そう」とすると、他の患者さんにも応用できます。



最後に


研修の頃、ある先輩から言われたことがあります。

「患者さんと信頼関係を作る一番簡単な方法は、点滴を1回で取ること」

その先輩はとても手技が上手な方でした。ルート確保が難しい患者さんの血管を1回で穿刺して、患者さんから感謝されている姿を見たこともあります。

もちろん、それが信頼関係のすべてとは言いません。ですが、より少ない侵襲で医療行為を行うことが、患者さんにとって有益であることは間違いありません。

医療行為は、患者さんがいてはじめて成立します。数少ない機会の中で、出来るだけはやく習熟するためにも、手技の「分解」「言語化」「一般化」のサイクルを回してみてください。







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