優しさの塊のような人

 この前のnoteで同じゼミの先輩兼親友が、また優しさの大洪水を起こしたので嬉しさを忘れないうちに書いておきたいと思う。彼女の言動でどれだけ苦しみが和らいだだろうか。というか私はそれに見合う人間なんだろうか。

 現在修士2年なのでほとんど授業はないのだけど、前期に1つだけ授業を取っている。去年非常勤に行ってて取り損ねた指導教官の講義があって、さすがに回収しとこうかな、と思って履修した。去年の後期に回収した演習の続きで、中国語について書かれた英語の古典を講読していく授業なのだが、これがどうしてなかなかやっかい。第二外国語はドイツ語だったので当然勉強していないし、友達に教えてもらったこともあったけどさわりの発音だけなので読めないし書けないし発音も出来ない。つまりはゼロ初級なわけです。漢字から何となく推測できそうなものだけど、その文献にはピンイン(中国語の発音記号のようなもの)しか書かれておらず、漢字を想像することすら不可能の状態からスタートした。言語を学習することは好きだが、ピンインから漢字を探していくゲームをしている暇はない。文系院生だって忙しいのだ。でも同級生はほとんど中国人留学生なので、漢字を教えてもらったり彼女たちの発表資料の漢字とピンインをじーっと見ていたら何となく覚えてきたしコツが掴めるようになってきた。今ではピンインをタイプするどころか、ピンインから簡体字入力もできるようになってきた。文明の利器さまさまである。

 閑話休題。

 で、今は夏休みであるからして、期末のレポートを書かなければいけないわけである。講読していた文献からテーマを見つけて書くのだが、これがまたまた厄介なのだ。先生ごめんなさい。あなたの弟子はポンコツです。まず、中国語の論文はもちろん読めないのでリソースが少ない。日中対照研究から少しずつ拾ってきたり日本の大学に留学している院生たちの過去の積み重ねを読んだりなんだりしてやっとこさ集める。(もちろん、日本語で書かれた中国語の論文はたっくさんあるが、その中から自分のテーマに合うものを探すとなると話は別である。私はへっぽこなのだ)。次に、例文が作れない。拾ってきてもいいのだが、コーパスも中国語だらけでなかなかうまく行かないし、ゴミ処理に一苦労する。小説から集めるという手もあるが、本を選んだり取り寄せたりするだけでも時間がかかるのに(ドイツ語の小説は1ヶ月くらいかかった)、本文中から該当する箇所だけを探すのは砂漠で砂金を探すようなものだ。いや、これはあくまでも私が中国語についてやるときは、という話である。これが今研究しているドイツ語であればまだ少々マシになるというか、マアやってやりましょうという気にはなる。もっとその言語に熟達した研究者であればお茶の子さいさいなのは間違いあるまい。熟達しろよ、おれ。
 と、出来ない理由を並べ立てても仕方がないのだが、能力がないのに例文を作ることは徒歩なのに高速道路を通ろうとしているようなものだ。そこでひらめいた。たくさん協力者がいるじゃないか。普段は日本語母語話者として実験に積極的に参加したり母語話者チェックなんかもしたりしているので、こんなときくらい頼ってもいいじゃないか。母語話者に訳してもらおう。最も頼みやすいのが親友のK氏なので彼女に白羽の矢を立てた。白羽の矢を立てるって他動詞文は言わないよね。それはいいとして、同じ言語学ゼミだから例文の記入の仕方だっていつもやってる感じでと言えばわかってくれるし、おおよその文脈は読み取ってくれるはず。まあまあ急ぎのレポートなので明日空いてるかどうか聞いて、さらに内容を伝えてからお願いしてみよう。忙しければ同級生にも頼めるし。少しで申し訳ないけど謝礼も支払う(友達だからと言ってただ働きをさせるのは御法度)。各各然然、手伝ってもらえないだろうかと尋ねると、内容を確認して快諾してくれた。ありがたいが涙が出るほど嬉しいのはそこではない。Kは本当にいいやつなのだ。面倒なことをお願いされているのに、出てきた言葉はこれだ。「申し訳なく思わないでいいよ、しょーこがんばってるからやれることは手伝うよ、全力でサポートする!(大意要約)」
 普通こんなことを言うだろうか、少なくとも私はとっさには言えないと思う。絶対にちょっとめんどくさいと思ってしまう(誤解のないように書いておくが、バイトとか授業とか発表前とかではない限り断ったりはしない。友達であればなおさらできるだけ手伝うようにはしている)。もちろん、誰にお願いされるかは重要なファクターだと思うけど、それでも手放しで応援どころか支援できるかどうかって、頼まれた人の気前の良さというかお人好し加減というか優しさの度合いだと思う。またひとつ救われた。物理的にもだが、精神的な面が大きい。なぜKは、普段ポンコツなのに私が困っているときにはいつもカッコよく助けてくれるのだろう。どういう風に育ったらあんなに人情に厚いやつになるんだろう。中国語を話せるようになったらKの実家に遊びに行ってぜひとも確かめたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?