その昔、失恋した話

 高校2年のとき、クラス替えで文系の進学クラスに分けられた。1年生のときの同級生は新しいクラスに1人もおらず、代わりに英会話部のオタク3人と小中一緒の同級生が3人いて、他には誰も知り合いも友だちもいないクラスに振り分けられてしまった。
 もともとかなり人見知りで、新しい環境で新しい友だちをつくるのが大の苦手だった。自分から話しかけるなんてそんなハードルの高いことが出来るわけがなくて、最初の3ヶ月は新しい同級生たちを「こいつらやべえな…」と遠巻きにみながら英会話部の愛すべきオタクたちとだけつるんでいた。

 とまあ、7月になるまでほとんど新しい友だちのいなかった私にも、席替えで転機が訪れた。うるさいバカ2人に囲まれてしまったのだった。でもこのうるさいバカ2人は人懐っこくて、話しやすくて、優しいバカだった。2人のおかげで友だちが増えて、新しいクラスのことがどんどん好きになっていった。3年になる頃にはクラスマッチのあとに15人くらいで集まってファミレスで人狼したりもするようになった。でも好きな人は全然できなかった。みんな友だちだったし、ときめく相手じゃなかったから。

 3年の夏休み、三者面談があって母と2人学校に向かった。私のちょうど前に野球部のSが面談をしていて、場所を忘れた私は「今日って教室どこだったっけ」とはじめてLINEをした。ちなみに、それまで挨拶すらしたことない相手だった。返事が来たのは三者面談が終わったあとだったけど、それでよかったのかもしれない。夜、というか夜中、LINEの会話が信じられないほど弾んで、こんなに楽しい会話が出来る人がいたんだと思った。同級生の男子たちよ、ごめんね。

 Sとは相変わらず挨拶が出来るかできないか程度だったけど、LINEでは楽しくおしゃべりが続いていた。そこできっと実際に挨拶しておしゃべりしてってできていればその後も変わったのかもしれないと今では思うけど、あのときは何だか妙に意識してしまってダメだった。でも、優しいし賢いし野球頑張ってるし、気がついたらSが好きになっていた。そのことをバカ2人のうちの1人Nと、剣道部のTと、幼なじみのOに話した。話したらどんどん好きになっていった。言霊ってすごい。

 体育祭のとき、Sとツーショットを撮った。それ以来、行事のたびに友だちのうち誰かが写真を撮ってくれた。卒業式とか、クラスマッチとか。でも振られた。好きな人がいるってさ。Sの誕生日に告白するって決めてたから、Nたちもいつでも結果報告してきなねってスタンバイしてくれてた。で、あっけなく振られた。その日は平日で曇り空で学校行ってる場合じゃなかったけど、でもやっぱり学校が好きだったので行った。教室であからさまに落ち込んでいた。お昼も母が持たせてくれたお弁当をもそもそと食べた。そしたらTが突然「購買部行こうよ」って私を連れ出した。基本的に連れションもしなかったので「こいつ今日は押しが強いな」としか思ってなかった。「いいよ、1人でいきなよ」って多分実際に言った。

 購買で部活の後に食べるパンでも買うのかと思ってしぶしぶついていった。Tは「好きなもの選びなよ」とだけ言って、何でもなさそうな顔をした。私はチョコチップメロンパンを選んだ。「え、ありがと」困惑しつつもお礼を言って気づいた。こいつ慰めてくれてるんだ。このことについて当時も今も話したことはない。ただチョコチップメロンパンを買ってくれたという思い出だけが強烈に残っている。

 卒業してから、Sの片思いの相手がTだったことが分かった。勝てるわけがなかった。だって、友だちが失恋したときに黙って購買でパンを奢ってくれるようなやつなのだから。そんないいやつのことが好きなんだったらそりゃ私だって片思いのままだ。それでよかったんだ。

 高校のときの同級生でいまだに付き合いのある人たちは本当に少なくなってしまって、両手で数え切れてしまう。でも、SもNもTもOももう1人のバカも、何やかんやで遊んでくれる貴重な友だちだ。Sと付き合うことはなかったけど、告白した後でも友だちとして遊んでくれるやつで心底良かったと思う。失恋も楽しかったのは幸いである。

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