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仏教経済学を読んで

【仏教経済学の思想】
◯仏教経済学は、全世界の人々の全体としての厚生を向上させることを軸とし、その前提条件として、利己心の極大化を志向するエゴの克服と、自然環境と諸個人の間の相互作用や他者や共同体と諸個人の相互作用を意識することの必要性を説いている。

◯仏教経済学は、全体の厚生を向上させる方法として、足もとで自由市場主義の犠牲となっている貧しい人々や、自然環境の深刻な悪化に生活を脅かされている人々の厚生を向上させ、格差を縮小させることが、最も効果的と考える。

◯その具体的な方法として提案されているのが、①金融資産課税による富裕層から貧しい層への所得の移転(特許料からベーシックインカムを提供など)や②貧しい国における出生率の低下とそれがもたらす基本的な消費と健康医療の万民への提供、③生態系にも配慮した持続可能な農業・農村運営、④各国をあまねく評価する単一価値尺度を人間の購買活層のみに注目したGDPから、生活の満足度(幸福度)や自然環境、不平等などを考慮した指標に転換することなどである。
 ーー ①を支える根本的な発想は、富の移転であり、これは選択肢が多すぎる富裕層から、選択肢の少ない貧しい人々への選択肢の移転とも解釈可能。
 ーー ②は、幾分急進的な発想の印象を受けるが、これは世界人口を安定させ、資源をもっと公正に消費することで、あらゆる人々に適正な食糧や住居、共同生活を提供できるほか、過剰人口と物質主義的な生活スタイルは、生態系に多大な負担を与えるという仏教経済学の考えに由来している。
 ーー ④について、代替となりうる価値尺度としては、国連の人間開発指数(HDI)<平均寿命、識字率や所得面での改善に基づいて、貧困国の福祉を評価する手法>、OECDのより良い暮らし指標(BLI)<各国の生活の質を比較するために11の指標の相対的な順位を計算する>、真の進歩指数(GPI)<家事や自然環境を数値化するもので、個人消費から、家事等の価値を加算し、自然環境等の損失価値を差し引くことで算出>、地球幸福度指数(HPI)<ある国の幸福な生活年数をエコロジカルフットプリントで除した数値>、キャントリルの階梯<ギャラップ社、World Hapiness Report>が挙げられており、これらを組み合わせることで質的幸福についても評価できるとされている。例えば、持続可能性の問題を無視しているキャントリルの階梯を、持続性も考慮したHPIで補完するこなどが提案されている。

【面白かった点を五月雨に】
◯ 足もとで世界の消費拡大に歯止めがかからず、過剰消費になっていることの説明が興味深かった。本書では、家庭の消費を①基礎財(必需品)、②娯楽財(ゆとり財)、③ステータス財(奢侈財)に分類し、米国の家計の消費行動を分析した研究によると、所得が増加するに従って家計は自分より高所得の家族の消費パターンを模倣するようになり、娯楽財やステータス財の消費が増加させていった様子が観察された。こうしたステータス財の消費を増やしている人がいる一方で、ステータス財を購入しない/できない人々は相対的に生活水準が低下したと感じるようになり、自身の生活の現状に不満を抱き、基本的欲求を超えた(潜在的な)消費需要が拡大していくという流れが整理されており、綺麗に言語化されていた。

◯ また、テレビやSNSに出る人物を含め、他人との格差をもとに自分の経済的な充足感を判断することから、現代においては、こうしたSNSを通して格差を認知しやすく、人々は恵まれないとの感情を抱きやすくなっているとの指摘もあった。

◯ スティグリッツは、上記のような経済格差の発生が資本主義固有の結果ではなく、当該国の法律や制度を通じて選択された結果であると考えているとの引用があり、今後スティグリッツの考え方も勉強していきたいと思った。

◯ ダライ・ラマは、神や仏に頼って祈るのは論理的ではないと主張し、人間が問題を作り出した以上、災害を避けるためには、人間が問題を解決しなければならないと説いたそう。宗教の指導者が、形而上的な概念に頼らずに、人間の行動変容を直接求めているのだとしたら、これは気候変動が新仏に祈ることで苦難を乗り越えようとする宗教のあり方に疑問を投げかけている兆しなのかもしれない。


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