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筋トレ始めてみたら,足の筋肉の声が聞こえた / エッセイ

 私の博士課程が始まった.というよりまだ自分には実感がないので始まってしまったという方が個人的にしっくりくる.ただ芸術工学を学んでみたいという気持ちだけで筑波大学に入学したが,まさか研究活動を自分のキャリアに踏まえることになるんて思ってもいなかった.私が大学に入学したのが2016年であり,博士課程になった2022年からみると実に6年も経っている.自分ではそんな月日の体感なんて微塵もないのだが,生活しているとこれは加齢によるものか?と感じることは多くなってきた.

 先日,風呂上がりに自分の腹を見つめていた.下に垂れたお餅のようなお腹.昔はムキムキマッチョマンという訳でもなかったが,こんなに正月にお似合いな体型だったかと思い,これも加齢の象徴かと捉えていた.とはいえそんなお腹を目にすると,引き締まった (できれば腹筋が割れた)体型を手に入れたい欲が沸々と湧いてきて,私は半裸の状態で急なダイエット宣言を打ち出した.よし,痩せよう.

 そんな時に思いついたのが筋トレゲームで有名なリングフィットアドベンチャー.体にコントローラを着けて,バスのハンドルくらいのリングを伸び縮みさせて鍛えるゲームコンテンツだ.発売当初に話題になって購入し,しばらく続けていたもののすっかりやらなくなってしまい,道具一式埃をかぶった状態になっていた.早速,ダイエットに目覚めた私は押入れからそれを取り出し,ゲーム機のスイッチを着けて準備完了だ.すると,テレビにはだいぶご無沙汰なキャラクタたちが映し出され,今にでもお前を鍛えさせようと鼻息を荒くして待っている様子だ.

 「久々だな,お前ら….俺,痩せるよ」と希望に満ちてゲームスタートし,足を鍛えるトレーニングから始まる.久々のプレイではあったが,やり始めは案外できるじゃんと感じてしまい,程々のトレーニングのキツさを楽しんでいた.ゲームのキャラクタも「汗が輝いているよ!」と囃し立ててくれ,より一層痩せることへの熱意が増していく.しかし,トレーニング開始1分後…

「…めて」

 突然,私は誰かの声が聞こえた.部屋に1人でいるはずなのに.トレーニングで汗だくになりながら不思議に思っていたが次ははっきりと聞こえた.

「…やめて」

 自分でもびっくりしたが,その声は私の足の筋肉から聞こえていた.長年,運動という運動もせず,日頃の研究活動もデスクワークが多いため,私の足は運動用の筋肉機能を完全にオフにしていたらしい.急な思いつきによるトレーニングによって起動してしまった足の筋肉はかなりびっくりなさっていた.私は足からの危険信号を感じながらも,ゲームのキャラクタから「いいね!その調子!」と褒められているので,足の筋肉とゲームキャラクタとの板挟みにあってしまった.しかし,私の痩せたいと思う熱意は私をトレーニングへと駆り立た.勇ましく,雄雄しい.しかし,

「やめなさい!」

その途端,足がパッタリと動かなくなってしまい,そのまま私は床に突っ伏してしまった.まるでエヴァンゲリオン初号機が無我夢中でゼルエルを絞めにかかってる最中に内部電源が切れたような気持ちだった.「動けっ!動けっ!動いてよぉ!」しかし,私の足は沈黙を保ったままだった.今思うとこれ以上足を酷使すると使い物にならなくなると私の脳が判断したんだと思う.トレーニングを始めて私が倒れるまで,その時間たった5分間の出来事だった.自分の腹を見ても加齢を感じ,それを克服しようと頑張ってみたが,より加齢を感じる結果になってしまった.

そして,その1週間これまでに体感したことのないくらいの筋肉痛が襲ってきた.痛みはズキズキを超えてドキドキ.椅子への立ち座りもままならず,階段の一段も恐ろしく高く見えた.加齢に対する抵抗には,まずはストレッチからはじめよう.そう心に復讐の炎を燃やし,そっと静かに手すりに手を掛け自分の体重を預けた.

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【プロフィール/SNS】
Tonaliです.
普段,芝生による動画表示の実現を目指した研究活動を行なっています.

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