見出し画像

ルネサンスの幕開け。マザッチオの絵画が「普通」を作った。


こんにちはとむです。

今日はマザッチオという画家を紹介します。

ルネサンスの絵画を理解する上でマザッチオを外すことはできません。それだけ重要な画家です。
その割に、レオナルド・ダ・ヴィンチとかミケランジェロに比べて聞き馴染みのない画家ですよね。
でも、ミケランジェロは修行時代に彼の絵画の模写をするほど、熱心にマザッチオに学びます。
マイナーなのに最重要。マザッチオって何がすごいの? に答えていきたいと思います。

ポイントは3つです

「絵画に空間と人間を!ドナテッロとブルネレスキのいいところを絵画に取り入れる」
「聖三位一体にみんな驚いた」
「貢の銭って何がすごいの?」
です。
そして最後におまけ「マザッチオって名前、ちょっとひどくない?」について話します。

1つ目
「絵画に空間と人間を!ドナテッロとブルネレスキのいいところを絵画に取り入れる」です。
マザッチオは正統派絵画の王道をいった人です。
絵画の本質は自然をあるがままに、デッサンと色で飾り気なくできる限り正確に再現する以外にないとマザッチオは信じていました
美しいポーズ、動き、高貴性、躍動感、自然で均衡の取れた立体感がマザッチオの特徴です。
特に衣服のひだを表現するのが得意だったと言われています。

ではどうやってこのような技術を身につけたのでしょうか。
それは先達の影響がとても大きいのです。
ドナテッロとブルネレスキです。

ドナテッロは彫刻家です。
ドナテッロの偉業を一言で言うならば、それまで建築の装飾物に過ぎなかった彫刻を、単体で鑑賞に耐えうる芸術作品に押し上げたということです。
なぜ、それが実現できたかと言うと、人体構造に忠実な均整の取れた人間表現を彫刻に取り入れたからです。そのことで、彫刻は単体で芸術作品になり得たのです。
ドナテッロの作品に「ダビデ」があります。
見ただけで人体の美しさが伝わってきますよね。

ブルネレスキはもともと彫刻家だったのですが、後に建築家になっています。
ブルネレスキの偉業はサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の円蓋を作ったことです。
この丸屋根の部分だけです。
それだけ? って思うかもしれませんが、これはものすごいことです。

フィレンツェの象徴である、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂は、今でこそ堂々とした姿でそこにありますが、実は建築当初は、円蓋の直径があまりにも大きくて、これにドーム状の屋根を乗せることができませんでした。だから、聖堂は屋根のないまま長い期間放置されていました。
そこで、ローマで建築を学んだブルネレスキが、二重構造の素焼きレンガの円蓋を構想して実現したというわけです。つまり、今あるフィレンツェの風景はブルネレスキの功績よるところが大きいといえます
そして、ブルネレスキの成し遂げたもう一つの偉業が「線遠近法」の確立です。
今でも私たちが絵を描く時に使用している、消失点があって、全ての線がそこに収束して行くという描き方は、ブルネレスキが発見したのです。
ブルネレスキさまさまですね!

さて、マザッチオはドナテッロの正確で美しい人体表現を絵画に取り入れました。さらにブルネレスキの、線遠近法で絵画に空間をもたらしました。
このことで絵画は奥行きを持つことができて、生き生きとした人間をそこに描くことができるようになったのです。

2つ目です「聖三位一体にみんな驚いた」です。

マザッチオの絵画の中で、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会にある壁画「聖三位一体」が有名です。
十字架にかけられたイエスが父なる神に背後から支えていて、その両脇には聖母マリアと洗礼者ヨハネがその様子を見つめています。さらに、その手前には膝をついた男女が居祈りを捧げていて、この絵画の寄進者と言われています。

この絵画の見どころの1つ目は、遠近法を駆使して描いたことで、本当に壁に穴が空いているように見えるということです。ルネサンスの時代、こういった、だまし絵的な絵画はよく描かれたと言われています。

二つ目の特徴は近くのものは人間だろうが大きく、遠くのものは神だろうが小さく描く。つまり、遠近法に忠実に描かれているということです。
これは、中世の絵画では考えられないことです。神より人間が大きく描かれるなんてことは、あってはならない冒涜だったのです。この絵画は寄進者の男女が一番手前に描かれていて、一番大きく描かれていますし、イエスを支える神は一番奥に配置されていますので、小さく描かれます。

当時この絵を見た人々はめちゃめちゃ驚いたと思います。今でいう所の、バーチャルリアリティを見せられているような感覚じゃなかったかと想像がつきます。

そして3つ目「貢の銭って何がすごいの?」です。
マザッチオの仕事の中で何より功績の高いのはサンタ・マリア・デル・カルミネ教会のブランカッチ礼拝堂に描かれた「貢の銭」という絵画です。

この絵画は「ルネサンスの幕開け」と呼ばれる絵画です。
見てみると、意外と地味?
何がそんなにすごいのでしょうか。解説していきます。 

「貢の銭」とは新約聖書の物語です。
ある時イエスと、弟子たちがファルナウムという町に来た時に「神殿税を収めないのか」と言われます。弟子のペテロが「収めます」と言うとイエスが言います「地上の王は、税や貢ぎ物をだれから取り立てるのか。自分の子供たちからか、それともほかの人々からか」
つまり、父である神が、子である我々から税金を取るのか?と聞いているのです。
ペテロは「いいえ、他の人です」と答えます。
するとイエスは「湖に行って釣りをしなさい。最初に釣れた魚を取って口を開けると、銀貨が一枚見つかるはずだ。それを取って、わたしとあなたの分として納めなさい」といいます。
ペテロが魚を釣ると、本当に魚の口から銀貨が出てきて、それを税金として収めたというエピソードです。

さて、この絵画の見どころは、人間らしい人体表現です。
一番、特徴的なのは画面中央の背中を向けている男です。この男が徴税人なのですが、男の足元を見て下さい。少しかかとをあげて絶妙なバランスで左足に体重をあずけています。
マザッチオは、地面に設置する足の表現にこだわりを持っていたようです。結果、人間らしい重心の表現を描くことに成功しています。
「うん、人間ってこんな感じに立つよね」っていう雰囲気が大切なのです。
まさに、ドナテッロの表現を絵画に踏襲しています。

さらに、背景に描かれた建物は忠実な遠近法で描かれています。2次元である絵画に3次元的空間を描きこむことに成功しています。
これはブルネレスキの偉業でしたね。

そして最後に、絵画をじっと見ているとあることに気づきませんか?
同じ人物が複数人描かれているのです。
例えば、弟子のペテロですが、この絵画では3人描かれています。
1人目は画面の中央の左付近で、右手を横に広げて、なにか指をしている白いひげの人物です。
2人目は画面の左で魚の口から銀貨を取り出している人物です。
3人目は、右側で税金を収めている人物です。
このような視点で見ると、徴税人も2人出てきているのがわかります。
つまり、この絵には違う時間が混在して描かれているのです。
これは「異時同図法」といって、日本美術でもよく使われる手法です。
この絵画では画面中央が最初の画面で、次に左側、次に右側といったように物語の進行に応じて見る場所を変えるのです。まるでアニメーションみたいですね。

さて、マザッチオの功績はわかったでしょうか。

マザッチオの絵は、現代の私たちから見ると少し地味です。
ルネサンスの幕開けの絵画だ!って期待してみると「え?普通……」って思うかもしれません。
しかし、この「普通」を作ったのがマザッチオです。
マザッチオのやったことが凄すぎた結果、みんなが真似をして、結果それがスタンダードになっていったと考えると、最初にそれをやってのけたマザッチオは、やはりすごい人だってことがわかりますよね。

最後に
実はマザッチオというのは愛称で、本名をトンマーゾといいます。
マザッチオは身なりに無頓着で、他人を一切気にしない性格だったと言われています。
このような性格から「汚い」とか「だらしない」という意味のマザッチオが愛称として付けられた。
でも、人に喜んでもらうためのサービス精神は旺盛だったとも言われています。

人に喜んでもらうために、鍛錬を積み重ねて、このような絵画を描いたということを考えると、もっと別の愛称はなかったのかなって思ってしまいます。

最後にまとめです。
画家マザッチオは何がすごいの?

「絵画に空間と人間を!」
では、先達ドナテッロとブルネレスキの技術を驚異の吸収力で会得して、絵画表現を実現しました。

「聖三位一体」では
正確な遠近法でバーチャルリアリティを実現した。

「貢の銭では」
絵画空間の表現、人間の人間らしさの表現、そして「異時同図法」によるアニメーション的表現でした。

それでは、アートで豊かな人生を。とむでした。

最後までご視聴ありがとうございました。

You Tubeを見て、この動画が気に入っていただけた方はチャンネル登録をお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?