ルノーメガーヌツアラーGT試乗記

序文

ふと数回近所で見かけ、アレはなんだろうと気になっていた。
現行ルノーメガーヌツアラー(ワゴン)だ。

カタチは割と好みだし、価格もお手頃。
昔、ルノーと言えばフランスの普通のクルマだが、シートや乗り味はなかなか評価が高い。
日本ではニュルブルクリンクのラップタイムでFF最速を叩き出すRSが人気だが、普通のモデルが快適ラクチングルマなら、もしかすると次期マイカー候補になるのではないかと真剣に考えていた。

コレは一度乗ってみるべき、とルノーディーラーへ愚息と向かった。

1.ルノーメガーヌとは

そもそもメガーヌとはどんなクルマか。

初代メガーヌルノー19の後継として1995年に登場した。19は巨匠ジウジアーロデザインの直線基調5ドアハッチバックだったが、メガーヌはルノーの名デザイナー、パトリック・ルケマンにより一気に丸みを帯びたデザインが与えられた。
元々ルノーのこのクラスは国際戦略車の位置付けで、ややもすると無個性な印象を受けるが、中身はルノー独自の味付けで、評価は悪くなかった。日本でも本格的に導入され、5ドアハッチバックを軸に、2ドアクーペ、そして後期型からはカブリオレを導入。日本販売台数はさほどでもないが、充実したラインナップであった。

2002年に登場した2代目はガラッとデザインが変わり、当時前衛的なデザインであったアヴァンタイムのモチーフが採用された。リアのデザインが特徴的で今でも人気は高い。

更にこのモデルから日本でも人気の高いルノースポール(RS)モデルが追加された。
RSのキモはフロントサスペンションにある。DASSと呼ばれるソレは、標準車と同じストラット式ながら、転舵軸(前輪が方向を変える軸)を別に持つ構造でコーナリング性能を飛躍的に上げている。

古くはトヨタのスーパーストラット、その後はプジョー407や現行シビックタイプRで採用されたものと目的は同じ。

ストラット形状だと転舵軸はストラットタワーが担うのだが、そうすると転舵軸がタイヤよりも車体内側に入る為、上から見たタイヤ中心との距離が大きく、路面からの反力モーメントが大きくなる。つまり高機動時にステアリングが取られる。更には操舵時のアライメント保持が難しくなる(路面に対してタイヤを垂直に立てにくくなる)。コレを解消する為にストラットとは別に転舵軸をタイヤ中心に持っていきたい、そう言う事である。

因みに、最近の欧州車やレクサスLSやクラウンで採用されているアーム分割型ダブルウィッシュボーン式(≒マルチリンク)も同じ目的。ただ、エンジン横置きの前輪駆動車はアッパーアームのスペースが取れないので、採用が難しい。このことから、前輪駆動車はアッパーアームの無いストラット式をベースにイロイロ考えるのである。

この点、ここ30年の中で前輪駆動車向けは本来トヨタがパイオニアだが、スーパーストラットは構造上動的剛性が陳腐(横力がかかり剛性が不可欠なストラットタワーを二分割したため)で、ステアリングのフリクションが増大し(ハンドルを切った状態から手を放しても中立に戻らない、勝手に曲がる方向に持ってかれる、など)デメリットが多過ぎてやめてしまった。欧州メーカーにアイデアだけパクられモノにされてしまったのはなかなか悔しい。

おっと、ここまで書いておきながら、今回の試乗はGTであり、このDASSサスペンションが装備されるRSではない事に気がついた。話を戻す。

先代である3代目メガーヌは2008年に登場。デザインはガラッと変わり、オーソドックスに。初代から3代目までデザイナーは変わらずパトリック・ルケマンなのが面白い。
また、ワゴンボディのエステートも登場。

当初は先代から引き継いだ1.6L/2Lガソリンエンジン(変速機は日産と同じジャトコ製CVT)を主軸としていたが、途中から1.2L/1.4Lダウンサイジングターボエンジン(6速DCT)に変わった。RSは先代と同じ2Lターボ(6MT)を引き続き採用。
基準車は上質にリファインされ、RSはニュル最速の為より先鋭化した(日本仕様はアツいカップ仕様、そしてニュル最速のトロフィーもあった。日本でのRS人気がよくわかる)。

そして2016年に現行型4代目メガーヌが登場する。

2.現行メガーヌ

4代目メガーヌの特徴の一つとして、日産と共通プラットフォーム採用が挙げられる。現行エクストレイルや、欧州向けパルサーや2代目ティーダ(日本未発売)と同じ、CMF-CDを採用する。Cセグメントとしてはやや大柄である。
フロントサスペンションは独立式ストラット、リアはトーションビームの半独立式である。オーソドックスかつ廉価な仕様だ。コレに4Controlの4WS、つまりは後輪にも操舵機能が入る。トーションビームに操舵機能を有するクルマは他に聞いた事がない。

組み合わせられるパワートレーンはGTが1.6Lターボ、廉価なGT-Lineは1.2Lターボで、7速DCT(ルノーはEDCと呼ぶ)が組み合わせられる。ガチで速いRSは1.8Lターボと6速DCTの組合せだ。
ワゴンボディのツアラーは1.6LのGTだけとなる。
この1.6Lエンジン名はカタログ上M5Mと書かれているが日産のジュークに搭載されているMR16DDTと同じ、直噴ターボユニットだ。205馬力を発する比較的ハイパワーなエンジンだ。

変速機はDCT、つまりデュアルクラッチ式自動変速機で、VWのDSGと同じ構成である。普通のATの様なトルクコンバータは無く、マニュアル変速機のクラッチ操作が自動化されたようなものである。

ココで車体サイズについてライバルVWゴルフ、ホンダシビックとの比較をしてみる。

左から
メガーヌツアラーGT / メガーヌGT / VWゴルフバリアント / VWゴルフハイラインホンダシビックハッチバック

全長(mm) : 4,635 / 4,395 / 4,575 / 4,265 / 4,520
全幅(mm) : 1,815 / 1,815 / 1,800 / 1,800 / 1,800
全高(mm) : 1,450 / 1,435 / 1,485 / 1,480 / 1,435
ホイールベース(mm) : 2,710 / 2,670 / 2,635/  2,635 / 2,700
車重(kg) : 1,480 / 1,430 / 1,380 / 1,320 / 1,350
メガーヌは重い。軽量設計の現行ゴルフ7より100kgほど重い。
また、ゴルフよりも大柄である。
シビックはワゴンボディを持たないが、普通のハッチバックが大柄であり、ゴルフやメガーヌのワゴンボディに匹敵する大きさである。

3.静的検分

運転席に座って、初めて気が付いた。「ああ、そう言う事か」と。

運転席はレカロ風バケットシートだ。昔のレカロのような座面がハンモック状に吊り下げられてるタイプではなく、シートフレームにウレタンを乗せただけの、所謂世間一般シートと同じ構造の最近のレカロである。

座り心地は見た目を裏切らず硬め。
肩や腰のサポートは申し分なく、座面角度も適切。表皮は滑りにくいアルカンタラ(人工スウェード)だ。もちろんシートバックやフレームの剛性も問題ない。
シート調整は手動。テレスコもチルトもある。座面角度はシート高さと共に変化するタイプ(座面を下げると後端の方が下がり角度が付く)で、座面角度を個別で調整出来ない、このクラスの欧州車に多いタイプ。

つまりシートはRSとほぼ同じガチの本気仕様という事だ。
私が欲しいのは普通のラクチンシートなのだが。

それはともかくとして、メーター角度に合わせてシート高さを調整しようとすると、どうも目線と合わない。

メーターは最近流行りの液晶だが、Aクラスの様に間抜けな直立不動ではなく、キチンと日除け付きメータークラスターの中にある。

それは良いのだが、角度が奥に寝過ぎている。つまりはメーターは上から見下ろす角度なのだ。しかし、そこまでシート高さは上がらず、メーターを見下ろす形にならない。
私は身長171センチ、特に小柄でも座高が低いわけでは無い。

メーター設計時はもっと乗員を高く座らせる事を想定してるのだろう。
そして、その設計時想定はどうもこのメガーヌGTの着座位置ではないようだ。

最近メルセデスAクラスのような、視認性最重要なメーターという部品を、「なんとなく見えてりゃ良いんでしょ」とコストダウンの為車種別に角度を最適化する事を拒絶し、直立不動のタブレットをただ置いただけというバカ仕様を見ると、なんとも言えない気持ちになる。

それよりずっとマシとはいえ、メガーヌもたいがいではある。

同じプラットフォームを使用する現行の日産エクストレイルはこんな不始末は無かった。また、昨年から数台に試乗したが、こんな不始末なクルマは一台も無い。

ちょっと気持ちが萎えたが、メーターが見えないという事は無い。メーター角度は無視してシート高を決める。

チョップドルーフっぽいデザインもあり、視界はさほど良くはない。
ボディ先端は見えない。
とは言え、ボディが大きくは感じない。実際の寸法よりタイトに感じる。

右ハンドルの仕立てについては、完全ではないが及第点と言えるだろう。
ステアリングはシートの中央から10mm程度左に変位しているが、ブレーキペダルはステアリングの右に位置しており、さほど気にならない。エクストレイルや、現行セレナと同程度。特に問題無しとする。
もちろんブレーキマスターは右に存在し、ブレーキタッチも良さそうだ。

内装のデザインはチープな無国籍風。
どこ見ても高級な感じはしないし、言われなければフランス車とは思えない。
最近流行りのグロスでギラギラしたインパネではなく、全体的にツヤ消し黒なのは悪くない。しかし、特徴も無い。

気になったのはインパネのシボ模様。ゴルフ6あたりと同じ感じなのだ。
最近の2代目リーフも14年前の初代ティーダと同じ雰囲気であまりの古さにビックリしたが、それに近い。
10年前に登場したクルマかと思った。

他にドアやセンターコンソールに間接照明があり、走行モードによって色が変わるが、残念ながらその位しか新しさが無い(私には無価値だが)。

後席はこのクラスの欧州車らしく、アップライトに座れ、スペースも問題ない。背中の横方向は肩甲骨をサポートしている。
ただ、前方視界は前席のバケットシートに遮られること、シート座面は硬く平板で快適な感じはしない。

内装の雰囲気から、ランエボXに初めて乗った時を思い出した(産まれて初めて人様のクルマを運転して覆面クラウンの後席に乗せられた想い出のクルマ)。言うまでもなく高性能車だが、内装はチープにサラッとしていた。
あんな感じである。

うーむ、自分が欲しいクルマからはドンドン離れていく気がする。

トランクの広さはワゴンボディとして標準的か。応急用テンパータイヤレスで空気入れ用コンプレッサーが積まれているが、テンパータイヤスペースも確保されている為、床が高い。本来ならテンパータイヤスペースを排して床を下げて欲しいものだが、テンパータイヤが欲しい地域もあるのだろう。

4.実走検分

さて、ルノー大好きな愚息を後席に乗せて、走り出すことにする。
ドライブモードが設定できるが、ニュートラルという標準モードを選んだ。
ステアリングは非常に軽い。いかにも電動パワステらしい感触に少し萎える。

走り出してみると、意外なほどエンジンやロードノイズが入ってくる。ハーシュネスも大きめ。ゴムブッシュ等の緩衝機能を極力排除してる感じだ。要はショックがガツガツ来る。
タイヤはコンチネンタルスポーツコンタクト5、サイズは225/40R18。チェックはしてないが、空気圧がちと高いのではないだろうか。

ステアリングを切ると、車体の反応は良い。ステアリングギヤ比は高くないようだが、ゲインが高い感じだ。4Controlと言う後輪操舵機能のせいか。今回の試乗は低速(60km/h以下)の為、後輪操舵は逆位相(前輪と反対に操舵)となる。
通常コーナリングは前輪が操舵され、その後、後輪に横方向のスリップアングルが付いて踏ん張るのだが、このスリップアンクルがすぐに付く感じだ。

エンジンは1.6Lで205馬力という高出力から想像されるように、ターボラグ(応答遅れ)は大きい。低速トルクに不満は無いが、踏み込むとシフトダウンしてワンテンポ遅れてから力強く加速する。
デュアルクラッチ型トランスミッションのダイレクト感はまるでマニュアルのようだ。
同様にデュアルクラッチ型であるVWのDSGは、ターボラグや柔らかいエンジンマウントによるエンジン揺れを抑えるかの様にチョコマカ変速する為、ダイレクト感は薄い。ちょいとゴム紐のような感触、ラバーバンドフィールってやつだ。
(なぜか日本の評論家はCVTをラバーバンドフィールとけなすのに、VWのDSGはダイレクトだと絶賛する。私は彼らの言葉が理解できない)
メガーヌはあまり変速しないようだ。

特に加速後にアクセルを離すと、DSGはドンドン上のギヤに変速するが、こちらは極力同じギヤを保持している。ドライバビリティという意味では悪くない。

ただし、メガーヌはターボラグもエンジン揺れも抑えられていない。細かい話をすると、停止寸前までクラッチがリリースされない為、停止時に少しショックがある。ギヤ比も7段あるくせに2速から4速あたりまでは離れているため、そのあたりのギヤでは変速時にエンジンが回転合わせで揺れやすい。このギヤ比は欧州高速追越車線向けで5速から7速がクロスな(近い)のだろう。

日本で普通のオートマばかり乗ってきた方からは不満が出ないか心配だ。

このクルマはガンガン踏んで行くのが正解なのだろう。踏んでくと気にならない。

ここでモードをスポーツに切り替えてみる。メーター内や間接照明が青から赤に変わる。
ステアリングははっきり重くなった。私は最初からこれでいい。クルマの反応とステアリングの重さに違和感が少ない。
変速特性は下のギヤで引っ張る形になるようだが、低速走行しかしていないのでさほど違いは無い。

パドルシフトによるマニュアル操作も可能。
通常モードだとパドルでマニュアル操作後、再び自動モードに切り替わる。
シフトレバーをMに倒せばマニュアルモード固定。シンプルでわかりやすい。
因みにパドルはコラム固定でステアリングを回しても付いてこない、多くの日産車と同じ形だ。

車体の大きさは気にならない。反応の良さと相まって、小さいクルマのように感じる。ブレーキのタッチも良好だ。つまり、アツい走りをするには悪くない。

5.総括


ここで総括する。
ルノーメガーヌツアラーGTは以下の点が秀逸であった。
・ゲイン高くダイレクトな操作感
・車体の大きさを感じない取り回し

このクルマの評価は非常に難しい。

乗ってみてわかったのは、このGTというグレードはRSのサブセットだという事だ。
方向性はRSと同じ、ただしデチューンしたエンジンとワゴンボディを与えたクルマという事。

クルマにお詳しい方なら「そんなの知っとるわい」と笑われるかも知れないが、クルマに疎い小生はすっかり「見た目のみスポーツ仕様の普通のクルマ」と勘違いしていた。所謂ドイツ御三家のMスポーツやAMGライン、Sラインみたいなものかと思っていたが、全然違った。

RSが欲しいが諸事情によりワゴンボディしか選べない、という方なら悪くはない選択だろう。ただ、ちょいと中途半端な気もする。RSのキモであるDASSサスペンションは採用されてないし、エンジンパワーも体感は4割ほど少なくなるのではないか。
RSが欲しければ私なら無理してでもRSを買うだろう。

私が望むのは普通のラクチンフランス車である。ハードコアではない。
決してメガーヌGTが悪いわけではない。私の要望に合わないだけだ。

余談だが、フランス現地ワゴンモデル(エステート)のグレード展開は安い方からLife、Zen、Intensとあり、コスメティックオプションとしてGT Lineがある。
現地の2019年モデルにGTは存在しないようだ。4Control装備はRSだけとなっている。

実は最近メガーヌツアラーアニヴェルセルと言う限定モデルが発売され、コレは1.2L低出力エンジンにGT Lineのコスメティックモデルのようだ。
興味はあるが、30台限定という僅少輸入なので試乗は叶わない。

今後メガーヌの普通のモデルが輸入されたら興味はある。
ただ、チープで古くダサい内装の雰囲気は好みではない。
決してチープながらお洒落なトゥインゴの延長ではない。

だからメガーヌの普通のモデルは日本で売れないという判断か。

先々代メガーヌから、日本の販売比率はRSがダントツだ。
RSは価格も440万円と戦略的。フランス国内と価格差は無い。
ライバルのシビックタイプRは450万円。共にニュルブルクリンクのレコードにおいて前輪駆動車世界一を争ってるクルマだ。それがこの価格なら当然欲しくなる。

取り急ぎ、メガーヌツアラーGTは私の次期購入候補リストからは脱落した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?