2009年10月10日_ルパン三世カリオストロの城_トークショー

島本須美・友永和秀・佐野寿七が語る『ルパン三世 カリオストロの城』

これは、2009年10月10日に山梨県甲府市で開催された『ルパン三世 カリオストロの城』上映&トークショーの貴重な記録である。山梨放送の植田有紀子アナウンサー(当時)の呼びかけで登場したのは、ヒロイン・クラリス役の島本須美さん、冒頭のカーチェイスの原画を担当した、友永和秀テレコム・アニメーション取締役、『ルパン三世』ファーストシリーズとPARTⅢでプロデュースを担当した佐野寿七元読売テレビチーフ・プロデューサーの3人である。30年以上に渡り、ファンに支持される『ルパン三世 カリオストロの城』の人気の理由は何なのだろうか?

植田有紀子アナウンサー(以下植田):この映画は、たった4ヵ月で作られたと聞いたんですが、製作はバタバタだったんじゃないかと思うのですが、そのあたりを友永さんから伺います。

友永和秀(以下友永):僕は途中から入ったんですけども、8月に原画インしまして、終わったのは11月半ば頃だったと思うんです。その前に宮崎駿さんは日本アニメーションで『未来少年コナン』をやってたんですけども、そのあとすぐテレコムでルパンをやるということで、そのままの勢いで作ったと思います。宮崎さんは、ストーリー・絵コンテ・原画チェック・レイアウトをほとんどやったスーパーマン的な仕事ぶりで、僕らはそれに付き合わされたというか、引っ張り回されて、あれよこれよという間に出来上がったという感じなんですよね。

植田:では、この作品の全体像というのは、一緒に仕事をしていても、どうなるのかというドキドキ感やワクワク感があったのですか?

友永:いやあ、多分宮崎さんだから、相当面白いものを作ってくれるんだろうなと思ってましたし、絵コンテの作業をやりながら、絵コンテを切っていってたので全体像は宮崎さんしか分からなかったんじゃないかと僕は思いますね。

植田:友永さんの原画でのご苦労は?

友永:僕は冒頭のカーチェイスを担当したんですけども、車をメカ的な冷たいものにしたくないので、ルパンと一緒にキャラクターを一体化させたいなと。特にフィアットは、後から追ってくる車とコントラストをつけられたらいいなと思っていたんで。フィアット500は実際も小さいんですけども、もっと小さくしてフロントガラスいっぱいにルパンと次元が埋まるように、ルパンとフィアットを一体化させて動かしたら車そのものがキャラクター性が出てくるんじゃないかと思ったんですね。ルパンの気持ちになって車が動いてくと。そうすると非常に楽しい動きになるんじゃないか思うのと、車が崖を上ったり下りたり非常に荒唐無稽なことをやっているんですね。それだけやると説得力がないんで、普通に走っている時は、車がどう走るか、どういう重さを感じるのか、あるいは曲がる時にどのようにサスペンションを利用しているのかをちゃんと描いて、説得力のある世界にしておけば、崖を上ろうがスーパーチャージャーを出そうが、あるいはルパンが後半、時計塔から飛び降りて、クラリスを救おうが、信用できる世界になっていくというか。そういう裏付けとしての細かいところを表現しようと、そういうところをお客さんに感じてもらえればいいなと思って心がけたというか、そこが苦労しましたね。

植田:だからこそ、違和感なく映画の世界に引き込まれていくんですね。それでは島本さんにはクラリスとの出会いを伺いたいんですけども。

島本須美(以下島本):声優としてのデビュー1年目の作品なんです。テレビシリーズとしては、『ザ・ウルトラマン』の紅一点をやらせていただいたのが最初なんですが、それを1年間やっている間に、この作品があって、業界的には声優さんブームがちょうど走りだったりして、ものすごくアニメが作られていたんで、現場は画がないとか、色が付いてないだけじゃくて線画すらなくて、白い画面の中に赤いマジックで書いてあるところを喋って下さいとか厳しい時代だったんです。そんな時代だったので、ど素人の私としてみれば、すごく大変な思いで、まして1年生ですから、山田康雄さんや増山江威子さんであるとか大先輩の方々がテレビシリーズでやっている作品の劇場用ということで、温かい家庭的な雰囲気でしたけど緊張しました。ものすごく印象深いです。

植田:大抜擢なんじゃないかと思うのですけども?

島本:すみません、大抜擢だと思います(笑)。

植田:宮崎監督やスタッフから島本さんに是非やってもらいたいとかあったのでしょうか?

島本:『赤毛のアン』というテレビシリーズの最終オーディションに残っていたんですよ。結果はダメだったんですけど、監督が高畑勲さんで、一緒にお仕事をされていた宮崎さんが、私のオーディション用のテープを聞いてくださってて、何か記憶に残っていたということがあったみたいで、それで宮崎さんから「今度カリ城やるんですけども、クラリスの役ということで、ちょっと声を聞かせてください。」と、それで1人呼ばれてオーディションを受けて決まったんです。他にオーディションを受けている方がいるかどうか結果は知らないんですけども、決まってやらせていただいたという経緯があるんです。だから、落ちたからといって落ち込むことはないんだと思いましたね。素敵な出会いでした。

植田:印象的なシーンはありますか?

島本:印象的なシーンは、やっぱり一番最後のシーンの銭形がやってくるところがすごい好きなんですけれども、いっぱい好きなところがあるわけですよ。テレビで放送される機会が多いと思うんですけども、いつ見ても新鮮で、先が分かっているのに面白くって、テンポ早いし、ちゃんとギャグも効いてるし、すごく好きでよく見てますね。これがあるから今の私があると思っています。

植田:佐野さんにも伺います。ルパンというと、シリーズによってジャケットの色が変わっていくんですよね。今回の作品はファーストシリーズの緑のジャケットです。佐野さんはそのファーストシリーズの制作に携わったんですが、その緑ジャケットのルパンが活躍する『ルパン三世 カリオストロの城』にどんな印象をお持ちになりましたか?

佐野寿七(以下佐野):1971年に東京ムービーの藤岡豊社長(当時)が、私のところへ来ましてですね、「実はルパン三世という企画があるのだけど。」という持ち込みをしました。藤岡さんも私も30代の若者だったわけです。私は『巨人の星』や『タイガーマスク』を担当して、熱血根性ものの後に、ふざけた作品があるかと言って、ものすごく反対して怒った記憶があるんです。その後、藤岡さんは15分のパイロットフィルムを作ってもう1回持ってきました。それを見たとたんに読売テレビの社内の空気がだいぶ変わってしまったんです。これはスゴイぞと。つまり当時のアニメ界でこれほどの作品を作る者はいないんじゃないかと。それでやってみろという話になったわけです。『巨人の星』や『タイガーマスク』の後企画に優秀な企画が色々出てきたんですけど、それを全部断って、藤岡さんの『ルパン三世』第1シリーズを始めることになったわけです。ところが、第1シリーズは、視聴率が良くなくてですね、記録的な惨敗を喫したわけなんです。その後、再放送をやったところが、いきなり視聴率15%いっちゃうわけなんです。「再放送をやったほうが視聴率が良いのだったら、最初から再放送やって、それから本番やったらどうか。」って皮肉を言われたんですけれども(笑)。その中で固定ファンがついてきたんです。つまり、ワルサーP38がどうだとかフィアットがどうだとかいうふうに、作画監督の大塚康生君が描いた画をですね、全部ファンが覚えちゃうんです。そうした状況で日本テレビの吉川斌君がもう1回ルパン三世をやらせてくれと言ってきて、第2シリーズが始まったわけです。第2シリーズはのっけから25%いって、大変な視聴率を取って、3年続いたんです。第1シリーズの余波をかって、カリオストロの城に続いていくわけですね。ルパンは国民的な作品になったんですね。

Q&A

Q.紀宮さまが結婚される時に着たウエディングドレスがクラリスのウエディングドレスと同じデザインだったと聞いていますが、それを知ってどんな気持ちでしたか?

島本:すごい嬉しかったです。

友永:知らなかったんですが(笑)。

Q.クラリスはこの物語の後、ルパンと会ったのでしょうか?

島本:私は会わない方がロマンがあって良いと思うんですけど。何かの企画の時に会いましたね。ゲームだったかな?でも、城主としては結婚してたかもしれないし、どうでしょうね?

Q.東京から来た樋口です。佐野寿七さんにお聞きしたいんですけど、キャラクターの画が、今でこそ宮崎アニメという言葉があって、当たり前に受け入れられる世の中になってますけど、原作と相当違いますよね?それは何ででしょうか?似てないじゃないかと思うのですが。

※質問者は、次のイベント『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』のトークショーの前にこのトークショーを観覧していた樋口真嗣監督

佐野:これはね、例えば高畑勲さんの演出、大隅正秋さんの演出、青木悠三さんの演出、それぞれの演出家で多少変わってくるんです。演出家と作画家が、キャラクターを自分なりに解釈しながらやってくと、どうしても違ってくるんですよね。モンキー・パンチさんがゴルフをやりながらこう言ったことがあります。「佐野ちゃんね、あれ日本テレビで視聴率が良いけども、だんだん俺のルパンじゃなくなってきてるね。」と、こんなことを言うんですよ(笑)。だから私は、「いやあ、そんなことはないですよ。テレビシリーズというものは、だんだんファンの声を入れながら変わっていくんです。見ててごらんなさい。」と言いました。そうなっていきましたね。それから私は、ルパンの第3シリーズを最初から作っていったんですけど、第3シリーズは、モンキー・パンチさんのその声を聞いてですね、できるだけ原作に近づくようにということで、第2シリーズの当たりに当たったキャラクターから遠ざけようと思ったんです。それで作ったところがですね、ファンからものすごい反発の声が出てくるわけです(笑)。『天才バカボン』の赤塚不二夫さんも同じようなことを言ってましたし、『タイガーマスク』の辻なおきさんにいたっては、「俺の原作じゃない!」と最初は力んだけれども、この(アニメ用のキャラクターデザインの)タイガーマスクの画じゃないとどうにもなりませんと言いました。最後には辻さんも「今度のタイガーマスクは良かったね。」なんて言ってくれました。そういうことの変化だとご了解いただければ有難いですね。

樋口:やったもん勝ちということですね!(会場拍手!)有難うございました。

植田:最後に皆さんに一言ずついただくことにします。

佐野:宮崎さんは、今や世界のアニメ監督として通用します。その宮崎さんも、ルパン第1シリーズは、作画演出を担当されていた次第です。ルパンそのものは、スポーツ根性ものが跋扈する中でスーパーな曲がり角にきていた作品の1つだと思います。今や日本のアニメは世界のアニメになってきています。その中心点にあるルパンを取り上げていただいたという意義は、非常に大きいと思います。皆さん本当に有難うございました。

友永:これだけ長い間愛されてきたルパンですよね。またこれからも面白い企画で長編を作れればいいなと思っています。私もカリオストロをやったのは、アニメとしてインパクトのある作品でした。ただ、これからやるとしたら、何を盗むのかなという・・・。時代にあったもの、宝か人か何か分かんないですけども、うまく設定できれば、また面白いシナリオができるんじゃないかと思ってます。で、またそういう企画ができればと、誰か考えてくれないかなと思ってます。ストーリーは私の手に余るもんで。そういうことがあれば、全力投球で面白い画作りに参加していきたいと思います。是非皆さん応援して下さい。

島本:これは私にとって、1年生の時の作品なので、いつも初心に帰ろうと思う時は、この作品を思い出すようにし、また、それに向かった自分自身を思い出すようにし、常に初心忘れるべからず的に思っています。声の仕事がどんどん増えてって、結果、声優さんと言われる立場になり、今の自分があるんですけれども、さっき言ったように初心を忘れないように、(※クラリスの声で)「おじさま!」「ドロボーさん!」その時の気持ちを忘れないように心のある役作りをして、作品に携わっていきたいなと思っています。甲府の駅に降りたのは初めてだと思うんですけども、昔、劇団にいた頃にお芝居で色んな学校を学校公演という形で回って、お芝居した経験があるんですけども、すごく暖かくって、東京は、けさ雨が降って傘さしてきたのに、こんなに良いお天気で暖かくって、温かい人柄の中でこうやって皆さんの前にいられることを嬉しく思います。また呼んでください。(会場拍手!)

植田:皆さんたくさん質問があったかと思うんですが、ここでお時間となりました。ここでゲストの皆さんとはお別れです。ありがとうございました。


「俺の名はルパン三世。かの名高き、怪盗ルパンの孫だ。世界中の警察が、俺に血眼。ところが、これが捕まらないんだなあ。ま、自分で言うのはなんだけど、狙った獲物はかならず奪う、神出鬼没の大泥棒。」

永遠のスーパーヒーロー・ルパン三世。ルパンは次に何を盗むのか?次元・五ヱ門、不二子らルパンファミリーの活躍は?敏腕警部・銭形の次なるルパン包囲網は?カリオストロの城に匹敵する新作を待ちたい。


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