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詩「浪華の夢」

慶長三年八月
秀吉は六十三歳の生涯を閉じた
浪華のことは夢のまた夢
彼はそう詠んだ
彼が不幸である筈はない
ただ彼は
辿り着いたのである
この歌の境地へー
その意識に到達したことが
彼にとって 不幸であった
浪華の夢は
秀吉の死とともに 消えた

彼の死より 百年
枯野に夢を見た 男がいる
芭蕉である
旅に 病み
彼は詠んだ
死を前にして
夢は枯野をかけ廻る!
すべてを捨てた 男の
旅路の 果ての
最後の言葉がそこに在った
すさまじい 夢が
そこに在った
その ひとことに
全てが 尽きていた
そして
その ひとことに
全てが 貫かれていた
現在も
未来も 過去も
更には 死も

「日本現代詩体系No2」(檸檬社)に掲載していただいた詩です。少し添削を加え、投稿します。


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