酒屋_夜

酒屋のおばあちゃんとの会話

家の近くに、酒屋さんがありました。

私は引っ越してしまいましたが、今日も頑張っています。

震災の後、店に入るといきなり

「何で皆、タバコタバコって言うんだろうね!」
「歩いて5分のところにセブンイレブンがあるでしょ、そこで買えばいいじゃない!」

「おばさんさ、怒らなくていいじゃない(笑 )

「だってね、私のところだってね、いつもうちで買ってくれる人がいるし、一月分まとめて買ってくれる人だっているんだよ、その人が買いに来た時にありませんとは言いたくないから、全く知らない人が買いに来たっておばさん売らないよ、ないから帰ってくれって言うよ。」

「いつもはセブンイレブンとかで買っているのにこんな時だけ、うちにタバコタバコって言われたってね、私にだって大事なお得意さんがいるんだから、はい分かりましたなんて言わないよ」

「私はね、市役所で大きな声で講演したいくらいだよ」

そのお店は、地域で60年続いている由緒ある酒屋で、先祖代々その地域では名前の通った酒屋の主人だ、昔は、コンビニや、スーバーでお酒を買う事ができなかった時代は皆、その店でお酒やタバコを買っていた、でもこの規制緩和で、どこでも買えるようになり、おばあさん一人がいつも店番はしているが、スーバーで安売りしている時に買ったほうがお酒は安い。コンビニは24時間営業なのでついつい、そこで買う週間ができてしまう。私も会社の帰りのキオスクで買ってしまうことが多く、そのお店に行く時は手紙を出す時、ポストの前で店の前からお辞儀をする程度であった。

「おばさん、ごめんね・・」と心の中で誤りつつ。

でも、今日はしっかりと叱られてしまった。
「あんたね、今は東北で地震がおきて大変な事になっているでしょ」
「私はあの日、2床お米を炊いて、全部おにぎりにして腐らないように梅干を入れて冷凍してあるわよ」
「なのになんなの?自分さえよければいい、みたいなバカなおばさんが沢山いて、こないだ話をしているのを聞いたらさ、ヨーグルトと、パンと牛乳を買いに来たって人が長蛇の列を作ってて、ワイワイ騒いでいるのよ」
「バカかと思ったわよ」
「牛乳がなければ、お茶でいいでしょ!パンなんか食べなくてもお米があるでしょ」
「数ヶ月もすれば製造が動きだすんだから、死にはしないわよ」
「私は毎日おにぎりを食べているわよ」
「ホントバカよね」
「あの東北でどんなことが起こっているか・・みんな死んじゃったり、生き残った人だって必死になって寒い中体育館の中にかんずめになって、いつできるとも分からない仮設住宅を待っているんじゃない!」

「あんた、毎日新聞とっている!?」
「あそこに、市原市が救助物資を募集したのを知っている?」

「私は市原市役所まで行ってきたわよ」

「それも、何でももって行けばいいのではなくて、指定があるのよ、新品のタオルか、新品の毛布、クリーニングを出してある防寒着かな・・」
「うちも冠婚葬祭でかなりあったから持って行こうと思ったのよ」
「でもうち車ないでしょ、どうやってもっていこうかとおもってさ、ちょっとこっち来て」

「はい」そこには山と詰まれた箱が積んであった。

「これよ」

「あ、じゃあ、僕が車でもって行きますよ」

「違うのよこれは皆空き箱よ」

「はい・・」

「これを、市原市役所まで持っていったのよ、ここからだとバスでいかないといけないけどこんなにかさばるし、大変じゃない、紙袋に一杯詰めてバスで行ってきたわよ。

ミズホ銀行のところからしかバスがでないじゃない?そこに行ったら、丁度バスが出ちゃった後で「あ~しまった、後30分も待たなくちゃな・・」とおもったのよ。
「でも待ってたらなんてことなくて、程なく来たんだけどね」
「そしたらさ、私の後ろにも、すごく大きな荷物をもった人が並んでてさ、私とおんなじなんだよね」
「新聞には、ほんの小さくしか載っていないんだよ」
「それをちゃ~んと見て、来る人がいるんだよ」
「それで役所に行ったらさ、すっごく沢山の人が来ていてごった返してんの、皆東北の人を助けようと援助物資を持ってきていてさすごいの、みんな東北の人を考えてんだね・・」

でもね、役所がやる事だから、細かくて、先ずは洗濯してある靴下、未使用の下着、クリーニング済の上着、タオルは箱から出して、大、中、小に分別して出してくださいと書いてあるんだよね。

あんなに小さな広告だったのに、昼過ぎにいったにもかかわらず、ごった返してて、こっちは、両手に一杯の荷物持ってて、お店も閉めてきているから、早く帰りたいのに、分別しろだの、名前かけだの、手続きばっかりやっているからいつまでたっても、持ってったもの渡せなくてさ。イライラしてたんだよね。

しかたなく、みんな誰も文句言わずにやっててさ、こっちは急いでいるからさ、自分の番が回ってきた時に市役所の人に文句言ってやったんだよ。

「あのね。あんまり言いたくないけど、手続きなんかどうでもいいでしょ。東北の人は困っているんだから、とにかくなんでもいいから送ってあげればもあとはあっちでなんとかするでしょう。こんなところで時間をかけているうちに東北の人は凍えているんだよ。分別なんてどうでもいいでしょう」

といったら役所の若い人がさ、私のはなし聞いてくれて。

「本当にすいません、東北の方からリクエストがあって、大型トラックでものすごい数の物資が今運ばれているらしいいのですが、向こうで欲しい人に欲しいものを届ける事ができなくて、ある町では小学校の体育館が、配れない物資でパンパンになっちゃっているみたいなんです。

そこにも入りきれず、大型トラックが何台も、荷物を下ろせなくて、立往生しているみたいなんです。でも、被災者の方々には、全然物資がいきわたらなくて、どうしようもない状況になってしまっているので、皆様にお願いして、向こうについたらすぐに、必要な人に必要な物資、後、男性、女性、大人、子供と分けて渡さなくてはならず、市役所の人間も総出で今支援していますが、何せ手がたりなくて、皆様にお願いしているところなのです。


特に今、足りていないのは、靴下なんです。3月で雨が降っていますので、被災者の皆様は、着の身着のままで逃げていますので、靴を履いていても、足が濡れてしまい、暖を取るにも、先ずは足元からですので。。それで先ずは靴下を優先して、送るようにしてはおります。そんな訳ですので、なんとか分別にご協力ください」

「と、市役所の人がいってて、だったら仕方がないねえ。。と思って時計見ながら分別して渡してきたんだよね。。確かにそうだなと思って。怒っちゃてごめんね、とその若い人に謝ってきたよ」


「それで向こうの人が、住所と名前を書いてくださいというから、私は断ったの、私はそんなんでここに来たんじゃないってさ」
「でも向こうの人が言うのは、違うんだってさ、市原市から何名の人が救助物資を送ったかを東北の人に伝えるんだって」
「そんならね・・私も書いてきたけどさ」

「でもその後、バスに乗って帰ろうとおもったら、又バスが行っちゃった後でさあ・・」
「今日は神様がどうしたのかな・・とおもったけどね」
「ほら私お店あけなくちゃいけないから、お客さんが来ていないと困るでしょ、だから急いでたんだけどね」

「でも帰ってきたら、お客さんがきて」
「おばさん、さっき来たらいなかったね・・と言って心配してくれてさ、事の次第を話ししたら、1ヶ月分のタバコを全部買いだめして買ってってくれたよ」
「やっぱりね、そうゆうものなのよ、人間支えあう気持ちが大事なのよ」
「あんたの会社にも上司がいるでしょ、商人と言うのは、私も60年前から商人だけど人を支える気持ちを持っているわよ、それが大事」
「無くなったお祖父さんがそうだったからね。根っからの商人、だからお得意さんが一杯いたの」

「あんたにも子供がいるでしょ、その気持ちをちゃんと教えていかないとね」

「はい」

「うちの子供にも、おにぎりを作って、腐るから梅干いれて冷蔵庫にいれるように言ったら、ちゃ~んとそのとおりにしたわよ」

「うちの子供はあれよ、大学院の教授をやってて、宇宙研究とかやっているからちゃんとしているよ、もう一人の娘も大学の助教授、でもお父さんがちゃんと育てたから、通勤には車は使わないよ、歩いて1時間かかるけどお日様の日を浴びて、健康にもいいし維持費もかからないからといって車は持っていないのよ、今回被災難民とか大騒ぎしていたけど、日頃から歩いているから全然大丈夫よ、他の人は日頃歩いていないから3時間とかあるくともうだめでしょ、うちの子は日頃から1時間歩いているから全然大丈夫よ」

「私、義捐金もしたわよ」
「生活がどんなに厳しくても、お金は貯めておいて困った人を助ける為に使うのよ」
「そうゆうものよ」

「はい。。」

「全く今の人は、欲しいものが手に入るのが当たり前になっちゃっているから、ほんとダメね、東北の人の事考えてみなさいよ、お母さんが津波で流されるちゃうんだけど、何もできずに、おかあさん・・と言って何もできない人だっているんだよ」

「ホントに私は、このことを今の日本の人みんなにいいたいよ。」
「あんたみたいな世代の人が日本をしょって立っているんだから貴方がしっかりと考えないとね」「分かる?」

「はい、分かりました、みんなに伝えます」
「僕、よく日記をつけているんです」

「私だってつけているわよ」

「はい、日記を誰でもよめるようにしているんです。一回書くとコンピュータで300人位の人が見てくれているので、そこで今日の話を書きます。」

「そうなの?すごいね」
「300人に伝わればいいですか?」

「いいわよ、ありがとう・・」

あ、あとね、貴方、うちはタバコとお酒を売っている店だから、お客さんが来れば売るけどさ。今はタバコなんてどうでもいいでしょ。

本当に困っている人がいるんだよ、買いだめしたり、自分さえよければいいみたいな人になっちゃダメだよ。私なんか毎日おにぎり食べているんだから。

「はい、分かりました。覚えきれなくなるので、今日はこの辺で失礼します」

「笑、、そうね、悪かったわね、しばらくしたらタバコは入るから安心しな!」

「はい、ありがとうございます」

久しぶりに子供の頃よく経験した、よい意味でのお説教を聞いた気がした。
暖かい、地域の事、人とのつながり、大地への感謝を大事にする日本国民の精神を持った人が身近にいることが本当にうれしかった。

後で、よく聞いたら2代目の江戸っ子だって。。僕も下町ですよと言ったら、江戸っ子っていうのはね、3代下町に住んでいないと江戸っ子じゃないよ。

みんないい奴ばかりなんだから。

外から来た人とは違うよ。あんた知らないと思うけど、東京はね焼け野原になったのよ!その時からいる人はどれだけ苦労したか。。

( 今は連続テレビ小説で、広瀬すずさん主演で「 なっちゃん 」 がやってるが、おばあちゃんも、東京大空襲の惨禍にいたことになる。同じ世代です。そう思えば、笑ったときの笑顔がとても暖かい気持ちになれます )

今じゃあ、沢山住んでるけど、本当に昔から東京に住んでいる人はいい人ばっかりよ。本物の江戸っ子はほんのわずかよ。私は2代目だから江戸っ子とは言えないのよ。嫁にここに来たんだけどね。

東京だって、みんな苦労して街を作ってきたのよ。

何が便利よ。便利になって何が良くなったのよ。誰も会話しなくなっちゃったじゃない。うちも自動販売機を置いているけど、ちょっとしか入れてないよ。なくなったらお店に入ってくれば、私がいるんだから。顔見て会話するのよ。大事でしょ?

私いつも、顔の見える場所に座っているでしょ。商売っていうのは、顔を見て会話して売るものよ。そこで、その人を見て、お互いを理解してお得意さんを作っていくものよ。コンビニなんか、バイトの人ばっかりで、主人が、挨拶すらろくにしないで、ちゃんとお客さんと会話もできない、他人ばかり。そんな時代が日本をダメにするのよ。ところで貴方、何回もうちに来ているけど、何処住んでいるの?

はあ。。すいません。。僕もそう思います。すぐこの裏です。

あ、、そう。。

すいませんとしか、言えなかった、経済成長を止められない。便利さを求めても忘れてはいけないことがある。今の時代は先祖の研鑽の積み重ねで成り立っている。自分の力でできている事なんでほんの僅か。。

ゴミを捨てるゴミステーションが一緒で、いつもカラスの被害にあっていたので、自作でゴミステーションを作ってお詫びした。ちょっとした力作だった。

でも、ここでのおばあちゃんとの会話は、僕の仕事の中で何度も僕を救ってくれた。。本当に大事な事ってなんなんだろうと、考えた時、答えはここにあるんだな。。と思います。

【 仕事で僕を救ってくれた時のエピソード 】

https://note.mu/tomoyakeita/n/na382efe2ad7b

隅田川の、屋形船、昭和の風情を残す。

酒屋の横に作ったごみステーション。

これを作ったのは、もう、4年前だから、古く、大分汚れてしまいました。近所の人が修復もして大事にしてくれている。

引っ越すときに、おばちゃんにだけ、これを作ったのは僕だと伝えた。すると

心から、あら。。。ありがとうね。本当にありがとう。毎日あそこの掃除をするのが大変だったのよ。助かったわよ。

かかったお金皆で払うから教えなさい。

いえ。僕朝は忙しくて、ゴミが散乱してても数回しか掃除しなくて、本当に申し訳なく思っていたんです。せめてもの償いです。と言って断った。

色々と有難うございます。

このことに気づいていたのは、多くの大人です。現代の原理原則もあると思いますが、継続可能なものに仕上げていかないといけないと思います。どこかでブレーキをかけないといけない、と思い続けた大人がどれだけいたことか。。涙を流す人すら多くいます。特に後半。


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