第3の○○という響きが癒してくれるものー本を熟成させるという選択肢ー

選択肢は少なすぎても、多すぎてもいけない。

選択肢が2つであるがゆえに、極端な結果になってしまう場合、第3の選択肢は救世主となり得る。

その証左として、世の中は「第3の○○」で溢れている。

「最近、第3の○○って流行ってるよね。ところで、第1と第2って何だったっけ?」。

コロナ禍で在宅ワークの時間が長くなり、自宅の書籍は冊数が増えるばかりである。

ワーケーションという言葉も世の中に溶け込み、郊外に住むという選択肢(これは第3の選択肢というより、第2かもしれないが)も現実味を帯びてきている。

とはいえ、業界的に明らかな若手である私にとって、郊外に住むという選択肢はなかなか取りにくいものである(急なリサーチや対応を迫られることもあるので、事務所から30分から1時間圏内に住むというのは、若手としてやむを得ない側面がある。リサーチについて言えば、蔵書数が増え、代表どころは大抵手元にあるとはいえ、代表どころで全てが賄えるほどリサーチは甘くないのだ。)。

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(とある企業の従業員)「最近上司がワーケーションって言うけどさ、土日にプライベートで旅行しながら仕事する状態は、使途に侵食されたエヴァみたいなものだよね。」

(サービス残業”零(れい)”の会社に勤める友人)「こういうときどんな顔すればいいかわからないの。」

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蔵書が増えるのに伴って、書斎スペースの床面積(あるいは天井の高さ)が広がって/伸びてくれれば、事無きを得るわけだが、超常現象というのは簡単には起きない。

書斎スペースは、コロナ禍での蔵書増大により、首都圏の通勤ラッシュ時の満員電車並みの混雑状況であった。

「お客様、もう少し奥に移動してください!」

「いてーじゃねーか、上に本を積むんじゃねぇ!!」

「冷房が近くて寒いです。体調が悪くなってきました。」

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか??」

蔵書に対する選択肢は今まで次の2つだった(なお、電子書籍という選択肢は、”ペーパー”ネイティブである私にとって、基本的には選択肢となり得ない。そのため、紙の書籍を買うことが前提となる。裁断・自炊した本は勿論読むが、紙の本に比べると愛着(効率)は格段と落ちてしまう。”ペーパー”ネイティブであるにもかかわらず、ipadという名の板を定期的に購入している私を笑うがよろしい。)。

【第1の選択肢】本棚に置いておく(置くというより、押し込む、うず高く積むという表現が適切な場合もある。)。

【第2の選択肢】(断腸の思いで涙を流しながら)裁断し、自炊する。

(星が大して見えない都会の)夜空に願ってみても、書斎スペースは広がってはくれない(本を買うのをやめるという選択肢はないのだ。夜空の星と同じで、この世界には数え切れない書籍があり、私の知的好奇心が消えるその日まで、蔵書(裁断された書籍を含む)は増え続けるのだ。)。

ならば、床面積を強制的に増やすしかない。

自宅から目と鼻の先のところにある、トランクルームを借り、主に書籍を収納するために使うことにした。

月額料金は安くないし、その料金で専門書2冊から3冊は買えるだろう。

しかし、これで、

【第3の選択肢】(書斎スペースに置かず、かといって、裁断もせず)熟成させる

が誕生したわけである。

書斎スペースの蔵書は、血肉になるくらいまで食べて(使い込んで)いるもの、積読状態にあるものに大きく分かれる。

積読は、いわば、”浅漬け”の状態である。軽く漬けて、近いうちに食べる予定なのだ。

一方で、トランクルームに預けるというのは、”熟成”させている状態である。

”熟成”は人間の英知である。肉も酒も、熟成させることで内なる力を解き放つのだ。

熟成本というのがあってもいいではないか。

熟成期間が明け、蓋をあけてみたときに、思いもよらぬ発酵をしていれば儲けものである。たまにつまみ食いする必要がでたときには、時期ごとの味の変化も楽しめる。

こうして、浅漬けでもなく、すぐに食べる(読む)でもなく、切り刻む(裁断)でもない(こう書くと第3ではなく、第4の選択肢になってしまうが、語感的に第3がよい)、【第3の選択肢】が誕生したわけである。

第3、何と心地のよい響きだろうか。

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